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第39話 母に似ている私

 ハリーは食事の間中、私にザックの事をきいてきた。「ザックのどこがいいんだ」から始まって、「もう口付けしたのか」とか。

(いや、父親とはいえ聞いていいこととダメなことがあると思う)

「それで、今回プライベートで会いたいと言ったのは、ザックとの事を報告するためだったのかい?」

「え?」

 私はすっかりザックとのことばかりに頭を占領されて忘れていた。そうだ、この会食は王との謁見のためにお願いしたものだった。

 ハリーの赤い目が真っ直ぐにこちらを向いている。私はその目を見返しながら答えた。

「それは、違います。今日はいいです。でも、また7日後もう一度会ってもらえますか?」

 ハリーが忙しいことはわかっている。妊娠した奥さんのことも大切にしてもらいたい。だけど、今回はそんなにのんびりしてはいられない。

 私はその言葉に「お願い」という思いを込める。

 ハリーの顔が緩む。フワッと優しい笑顔だ。

「良かったよ。ザックのためだけにこの時間を作ったのかと思ったら、ちょっと腹ただしく思えてきちゃってね。今ちょっと公務が大変でね、公務の合間にフィラの顔を見れるのは癒しなんだけど、それがザックのためだとねぇ、ちょっと嫌だから。また7日後にこうしてゆっくりと顔を見れるなら、その間の公務も頑張れるよ」

 ハリーの顔が珍しく苦しそうに歪む。公務の内容については、王族がそれ以外の人間に話をすることは禁じられている。公私混同甚だしいハリーでさえ、私にどんな公務をしているのか話をしたことはない。なんなら、「公務が大変」などと言うのを初めて聞いた。

 私はハリーに異変が起こっているのだと考える。基本、人の顔色を見て育った前世、転生したからといってその癖は抜けていない。何かがあるように感じた。

(魔物災害のこと、王から何か聞いたのかも)

「ハリー、大丈夫?」

 私は目の前に座るハリーに優しく問いかける。

「フローラル……」

 ハリーの口から母の名が漏れた。私は母ともこの父ともよく似ているらしく、ハリーからは「フローラルティア」と時々呼ばれることがある。城のメイドや侍従、騎士たちは「ヘンリー殿下にそっくりだ」と影でコソコソと噂をしている。

 そっとハリーから視線を外そうとして目に入ったスティーブの顔が珍しく歪んでいた。彼もまた母を知る人物だ。

(そんなに似てるかな?髪はハリーの色なのに、目が母さんの色だからかな?)

 私は窓の外を眺めながらぼんやりと考える。

(やっぱり、ザックも母さんの面影を求めて私の事を好きだと思ってるだけなんじゃないかな)

 自分が愛される、子供としてではなく、女として。

 勇者としてではなく、女として。

 それが、いまいちピンとこない。

 昨日まで、ただ、ザックと恋人になった事に喜びを感じていただけなのに、今、この瞬間に寂しく暗い穴の中に突き落とされたような危機感と虚無が心に広がっていく。

 気づくとハリーがこちらを見ていた。ちゃんと焦点が私にあっている。

「ねぇ、ハリー、私はそんなに母さんに似てるのかな?」

 ハリーが一瞬目を見開く。しっかりとこちらを見据えて、首を振った。

「顔立ちは僕に似ているし、髪の色も僕に似ているよ」

 そう言いながら、何度も嬉しそうに頷く。

「ただ、その瞳の色がフローラルティアと同じだろう。それから、発する言葉がフローラルティアに似てるんだ。性格もそんなに似ているとは思わないのだけど、血のつながりを感じずにはいられない。そういうことかな」

 私は私である限り母の子だ。私にとって母は誇りでもある。でも、もういない母がザックとの関係に影を落とす。

 私はこの世界に生まれて初めて、母の娘として生まれた事をほんの少しだけ後悔した。

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