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第2話 人間的な魔王

「わたしがそばにいると、君たちの体に負担がかかるようだ」

 魔王の口は動いている。声が耳から聞こえてくる。ガラスのような薄い壁に遮られることで、魔王からのプレッシャーから解放される。

「わたしが声を発すると多分君たちは死んでしまうと思って、先ほどは頭に直接声を届けていたんだ。今はこれがあるから大丈夫だよ」

 魔王は美しい顔で微笑み、自分で作ったガラスのような壁を指で弾いた。

 私はその言葉を冷たい地面に手をついたまま聞いていた。一番最初に警戒を示したのはリックだった。黒い頭が揺れ、リックは双剣を構えた。私はリックの身体で魔王から隠された。

 リックは魔王を睨みつけていることだろう。

 もはや伝説と化した魔王。この存在が魔王であるという証拠は実のところ何もない。ただ、圧倒的な存在感。肌で感じる人外の力。魔物とは比較にならない。私は意を決して声を発した。

「あなたは何?あなたが魔王なの?」

 私は座ったまま、リックの向こうにいるであろう魔王に問う。テオが私を見て何か言いたそうにしていたけれど、私はそれを無視した。今は目の前の圧倒的な存在に集中しなければならない気がして。

「そうだね、世間で魔王と呼ばれる存在。それがわたしだよ。魔王で間違ってない」

 私はその言い方に大きな違和感を感じる。

「あなたは魔王なのよね?その言い方は何?」

 私の口調は知らず尖っていた。リックは大きく振り返って大きな黒い瞳を見開いて私を凝視し、テオは逆に私から視線を逸らし魔王の方を向いた。

 私の視界は開け、魔王の姿を捉える。

「本当に君は素晴らしいね、ギプソフィラ」

 魔王は嬉しそうに微笑んだ。

 目の前の存在に感情がないのかもと思った自分が馬鹿らしく思えるほど、目の前の存在は感情豊かだ。魔王というその存在がガラス一枚隔てることで、人間に見えてくる。

「君たち人間にとって魔王とはどんな存在だろうか?教えてもらってもいいかい?」

 魔王の声が優しく聞こえる。おかしな感じだ。

 リックは私を見て頭を振る。強い視線。何も話すなと言っているようだ。

 私が声を発する前にテオの声がその場に響いた。

「僕が答えます」

 テオの視線はずっと魔王に向けられている。テオは魔王に対してリックほどの警戒を示してはいない。魔王がテオの声に頷いた。

 一度、私を振り返り頷いた後、テオは魔王を見据え、この世界で魔王がどんな存在であるのかを語り始めた。

「魔王とは魔物を作りだし人々を苦しめる存在です。魔王が魔物を操っていると言われています。そして、魔王はこの世界を滅ぼすと言われています」

 テオの両の手は硬く握られている。魔王から一瞬も目を逸らさない。瞬きさえしていないのではないだろうか?

 魔王は少し眉を下げ悲しそうに笑った。

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