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第1話 美貌の魔王

 私は目の前のモノに圧倒されていた。AIが作った人工物のような冷たい美貌の持ち主。ストレートロングの黒髪美人が立っていた。男なのか女なのかさえ定かではない。

(ただただ、美しい)

 なんて思いかけて、私はポニーテールにした赤い髪を揺らすように顔を横に振る。

(これは魔王だ)

 その圧倒的な美しさよりも何の感情もない顔に禍々しさを感じ、身体全体から醸し出される空気感に圧迫される。

 魔王が手首を動かし指をこちらに向けた。それだけで空気に重みが増し、私の足がガクガクと震える。反射的に、背負っていた大剣の鞘を抜いて魔王に向かって構えた。

 スーッと私の前に二人の影が現れる。魔王から私を隠すように黒いローブを被った魔法使いのテオと大きな剣を両手に構えた双剣のリック。私たちは勇者パーティの仲間だ。一緒にここまできた。

「フィラ、大丈夫か?」

 テオが私に声をかける。二人の足も震えている。

 二人ともきっと私と同じ。怖いと感じるより先に身体が勝手に反応している。強者と対峙した生き物としての正常な反応だ。

「大丈夫。二人は大丈夫?」

 私も二人に尋ねる。二人は同時に頷いた。

 魔王は口角を上げた。それが笑っているように見える。

 その場の空気がまた重くなったように感じる。恐怖は感じていないはずなのに、身体がガクガクと震え始める。私は大剣を構えたまま、グッと体に力を入れその震えを無理やり抑えた。

 前を見ると、テオとリックの足も震えていた。リックは黒い瞳を魔王に固定し、今にも戦闘を始めてしまいそうな顔をしている。テオのローブの頭巾が落ち緑色の頭髪が私の目の前に現れる。いつもなら頭巾を被り直すはずのテオだけど、魔王を前にそんな余裕はないようだった。頭を動かさず、空色の瞳で何度も魔王と私に視線を動かす。

 

「ギプソフィラ」

 何処かから名を呼ぶ声が聞こえた。私は頭を巡らせる。同時にテオとリックも頭を動かす。二人にも聞こえているということだ。

 何もない洞窟。魔王のいるあたりだけは何故か明るいのだけど、他は暗くてあまりよく見えない。ここまで持ってきた松明も今は消えているし、テオの光魔法も今は発動していない。

「ギプソフィラ」

 声と共に強い視線を感じる。そう、魔王から。

 私は魔王をジッと見る。魔王の口は動いていない。直接頭に声を送っているにしては、テオとリックにも聞こえている。私は不思議に思って魔王をジッと見続ける。

「フフフ、ギプソフィラ、君は本当に素晴らしい」

 魔王の顔が破顔した。とても美しい。そして、何故か人間らしく見えた。けれど、私たち三人はその場にへたりこんでしまった。リックの双剣も私の大剣も冷たい地面に転がっている。身体が思うように動かない。

「すまない」

 魔王は謝罪の言葉と共に、薄いガラスの壁を自分の周りに作り出した。その途端に空気から重さがなくなる。私たちはフッと体から力が抜けていくのを感じた。

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