19)陽動・救出部隊の戦場・2
収監施設の中は、外の警備に比べると驚く程手薄だった。
外の守りに集中しすぎて、「中の守りはどうでもよかったのか」とギャリーは首をひねる。
てっきり兵士たちで、通路がびっしり詰まっていると想像していた。しかし僅かに兵士が点在しているだけだった。
「なあ、魔法のトラップとかあるんじゃねえか?」
ギャリーの問いかけに、シビルは意識をこらして、魔力探索を開始する。
マリオンも超能力で探りを入れたが、とくに反応はない。シビルも同じようだった。
3個中隊の防御陣を突破して、侵入できる輩がいるとは思わなかったらしい。いささか拍子抜けするが、その分手間が省ける。
「研究者たちはどこだ? ペルラ」
「こっち」
ペルラの案内で、建物の2階へと向かった。
* * *
――尋問部屋――
開け放たれた小窓から、そよ風とともに騒音と血なまぐささが漂ってくる。
「何事か?」
シ・アティウスは顔を窓の方へと向けた。
「なにやら外が騒がしいな」
「質問にだけ答えろ!!」
中年の詰問官は、手が腫れるんじゃないかと思うほど、何度も何度もテーブルを叩いた。
(学者や研究者といったインテリ系の人種は、軽い脅しですぐビクビクと口を割るもんだ。だがこいつら全員、見事に口を割らん)
大した覚悟だが、それがよりいっそう、詰問官の神経を苛立たせる。
まさか自国の副宰相のほうが、何万倍も怖ろしいなど、詰問官は知らないことだ。
(とくにこの目の前の男は、ゾッとするほど無表情で、顔の筋肉を僅かも動かさん。色のついた眼鏡の奥で、時折眼球だけがチラチラと動くのみで…)
更に口を開けば、無関係なことを言いたいだけ言って、すぐ黙り込む。
もう一度脅しのつもりで拳を振り上げた瞬間、詰問官の口から「ヒュッ」と息が漏れた。
(なに…が…)
詰問官は何事かと喉に手をあてようとしたが、そう思っただけで手は動かなかった。勢いよくどす黒い血を喉から噴き出し、絶命したからだ。
「血の色からして、あまり健康とは言えないな」
倒れた詰問官を見ながら、シ・アティウスは顔色ひとつ変えずに淡々と呟く。
生ぬるい血が大量に降りかかってきたが、
「ふむ…」
迷惑そうに鼻を鳴らし、軽く眉をひそめただけだった。
室内にいた他の兵士たちも、同じように喉を切り裂かれて倒れていった。
「助けにきたぜ」
短剣の露を払いながら、ギャリーは詰問官の身体を乱暴に蹴飛ばす。そして立ち上がったシ・アティウスに顔を向けた。
「ベルトルド……様の命令で救出にきた。オレはライオン傭兵団のギャリーだ」
「シ・アティウスという。――私の前では敬称付けをしなくていい。遠慮せず呼び捨てで構わない。私も本人のいないところでは、呼び捨てている」
素っ気ない言いように、ギャリーはニヤリと口の端を上げる。通路へ手招きした。
他の研究者たち4名は一箇所に監禁されていたようで、ペルラたちに引率されて合流した。
血まみれのシ・アティウスを見たシビルが、ぎょっとしたように目を見張る。
「返り血をかぶっているだけだ」
大したことじゃない、といったようにシ・アティウスは言う。
動揺もしていないし、狼狽えてもいない。ただ、不快そうな雰囲気は、隠そうともしていなかった。
大丈夫そうだと安心して、シビルは固く頷いた。
「連れ出しは成功。だがよ、問題は外だな」
「ヴァルトさんが近づいてきてる気配がします」
シビルが杖の先端を額に当てて目を閉じる。魔法で仲間の気配を特定した。
「じゃあ、マリオンの音波攻撃を広範囲でばら撒くのは無理か。いくらヴァルトでも、超能力の音波は防げねえだろうし。範囲絞るにしても、距離が判りづらいな」
そう言って、ギャリーは軽く舌打ちする。
「無理だねえ~。前に実験したことあるしぃ」
マリオンは肩をすくめて笑う。
「カーティスたちはおいてけぼりしても大丈夫だから、オレたちはこいつらを、安全に連れ出すことにだけ集中しよう」
「ですね」
シビルは頷いて、ギャリーに同意した。
「屋上に出よう。そっから飛んでいけるだろ。周辺はザカリーに任せときゃいいし、ある程度の時間は、シビルの防御魔法で凌ぐ」
段取りを立てていると、ふいに肩の小鳥が嘴を開いた。
<ギャリー聞こえる?>
「おうよ」
キュッリッキだった。
<こっちはいつでも準備オッケーだから、逃げる時は合図してね>
「判った。まだ少しかかる」
<ほいさ>
小鳥に目をやり、シ・アティウスは興味深げに口を開いた。
「その鳥は?」
「仲間の召喚士のものだ」
ほほう、と研究者たちが小さく声をあげた。
「召喚士のものなのか」
「ああ」
「ふむ……。召喚士はそんなこともできるのか」
物凄く感心したように、シ・アティウスは呟く。
他の研究者たちもそれぞれに、感嘆の声をあげていた。
「あんたら王宮の召喚士見たことあるんじゃないのか? 皇国お抱えの研究機関なんだろ、ケレヴィルって?」
ギャリーは怪訝そうにシ・アティウスを見る。
「何度もあるが、そんな素晴らしい芸当は見たことがないのでな」
「ふーん。やっぱ、召喚士にも〈才能〉ランクの差があるんかね」
「かもしれんな。――これだけ見事な能力なら、幼い頃に〈才能〉探査機関で、見つかっていそうなものだが」
シ・アティウスの疑問は、ギャリーたちもずっと思っていたことだった。
召喚〈才能〉を持っていることが判れば、即刻国が召し上げるだろう。なのにキュッリッキは、フリーで傭兵をしていたのだ。
何故なのか気にはなっているが、そういう野暮を聞かないのが傭兵だ。
顎に手をあてたまま、シ・アティウスはなんの感情もこもらぬ声で呟いた。
「機関を通ってないのなら、孤児だったのだろうな」
* * *
――ナルバ山――
キュッリッキは首都アルイールのある方角を、身じろぎせずジッと見ていた。
すでに闇色に塗り変わろうとする空は、わずかに朱色と紫色の雲を残し、白い星がその存在を照らし出している。
カーティスから連絡が入ってすぐ、キュッリッキは遺跡の外へ出た。そして首都アルイールの方角を向いて、地面にぺたりと座り込んだ。
フェンリルは仔犬から大きな狼の姿に戻ると、前脚でキュッリッキを挟み込むようにして座った。
それからずっと、座ったまま目を凝らし続けている。
ガエルとメルヴィンはキュッリッキの左右に立ち、辺りへ警戒を向けていた。哨戒に出ている綿毛からは、異変の報せは何もなかった。
闇が濃くなってきても、キュッリッキは瞬きもしない。黄緑色の瞳には虹色の光が満ち、灯りもないのに淡い光を放っている。
キュッリッキはフェンリルの力を借りて、カーティスとギャリーの肩にとまる小鳥と、視覚をリンクさせていた。
小鳥たちの目を通し、この場からは見ることのできない光景が、鮮明に脳裏に送られてきている。
フェンリルがアンテナの役割をしていた。
「あっちの敵も、すご~くいっぱい」
独りごちるキュッリッキに、メルヴィンが状況を尋ねた。
「こっちにいた倍の兵士たちだよ。3個中隊くらいかなあ」
「あらまあ…」
メルヴィンが苦笑気味に肩をすくめると、ガエルが小さく笑った。
「ヴァルトとタルコットが、さぞ張り切って喜んでいるだろうな」
* * *
――収監施設内――
救出部隊のギャリーたちは、研究者たちを救出し終えると、脱出のために屋上を目指して走っていた。
そして屋上へと登る階段前の広場で、待ち構えていたソレル王国兵たちとぶつかった。
施設に侵入者あり、とさすがにバレたらしく、外の兵士たちが大挙として乗り込んできていたのだ。
「ケッ、勤勉な奴らだな」
ギャリーは忌々しげにぼやくと、背負っていた両手剣を抜く。
「シビル、防御結界で研究者たちだけは必死に守れ。矢弾がくるとマズイからな。オレらはテキトーでいい」
「あいあい」
心得た態度で、シビルは研究者たちを背後に庇い、呪文を唱えながら杖を前方に掲げる。杖の先が光り、防御魔法が発動した。
「ペルラとマリオンは、抜けてきた敵に集中しろ」
「判った」
「おっけ~」
ギャリーの指示に、2人は頷く。
「俺の魔剣シラーで、お前ら根こそぎ吹っ飛ばしてやる」
通常の大剣とサイズは変わらなかったが、柄から鍔にかけて、翼を広げた龍を模した意匠が見事である。そして刀身は、灯りを弾いて光沢を放つ純金だった。
いかにも重そうな魔剣シラーを、ギャリーは両手で柄を握り、肩に担ぐようにして構えた。
「いくぜ」
低く呟き、敵に走り寄りながら、勢い付けて黄金の大剣を振り下ろそうとした、まさにそのとき――
「おめーら全員ぶっ殺すって言っただろーが!!」
突如ヴァルトが階下から現れて、翼を全開に羽ばたかせて広場に飛び込んできたのだ。
「うそっ」
足裏に力を込めて、ギャリーは慌ててブレーキをかけて踏みとどまる。
勢いそのままに振り下ろしていたら、間違いなく目の前に飛び込んできたヴァルトを、真っ二つにしているところだった。
ガニ股姿勢で踏ん張り、姿勢を立て直すと、ギャリーは憤然とヴァルトに怒鳴った。
「てめー!! オレの見せ場を邪魔しやがって危ねーだろが!」
「あん?」
ヴァルトは肩ごしに振り向くと、噛み付きそうな形相のギャリーの、その奥を見て目を輝かせた。
「俺様のペルラ!!!」
両手を広げ、今にも飛び込んできそうなヴァルトに、ペルラは鬱陶しそうにため息をついた。
アイオン族のヴァルトは、ネコのトゥーリ族であるペルラにベタ惚れしている。
シャム猫のようにシャープな美しさのあるペルラが、大好きで大好きでたまらない。
邪険にされようがスルーされようが、それらは全てペルラの愛ゆえだと信じて疑っていなかった。
ペルラは素っ気ない態度をとりつつ、スッとソレル王国兵たちを指差す。
「そこの雑魚どもを、全部片付けてくれ…」
「判った!!」
ヴァルトの顔が、パッと花開いたように笑顔になった。
ペルラから”お願い”されたヴァルトは――周りから見たら体よくあしらわれただけ――元気よく叫ぶと、その場で思いっきり翼を羽ばたかせる。気合が注入された。
広場に所狭しとすし詰めになっていたソレル王国兵たちが、片手剣を構えながら目を細める。
「あの世まで飛んで行けっ!」
拳を固く握り締め、ヴァルトは床を蹴って飛び出した。
手前の兵士の顔面に拳がめり込むと、後ろに居た数十人の兵士も巻き込み、豪快に後方へ吹っ飛んだ。
乱闘が開始され、広場は一気に騒然となる。
見せ場を奪われたギャリーは、ヴァルトを忌々しげに睨んだ。
「クソッタレめ……。あのバカはほっといて、オレたちは屋上へいくぞ!」
舌打ちして気持ちを切り替えると、魔剣シラーを背負い直し、屋上への階段を登った。
屋上にいる敵を今度こそ魔剣シラーの剣風で吹き飛ばすと、ギャリーは肩の小鳥に話しかけた。
「キューリ、いつでもいいぜ!!」
<小鳥を軽く宙へ放って>
すぐさま応答が返ってきた。
ギャリーは言われたとおり、小鳥を宙に放る。すると、小鳥は淡い銀色の光に包まれ、小さな身体を巨体に変じて、屋上に舞い降りた。
「うっほ……でけえな」
仰け反るようにして、小鳥ならぬ巨鳥を見上げ、ギャリーは口笛を吹いた。
巨鳥に変じた小鳥は、身をかがめて皆を背中に誘う。
「よし、シビルは防御を張り巡らせながら乗れ。さすがに目立つ。下の奴らが発砲してくるだろうから」
そう言っている矢先に、砲撃が開始された。しかしすぐに1人、2人と砲撃者の数が減っていく。
超遠方から器用に間引いているが、さすがのザカリーでも数が多すぎる。全て倒しきるのは無理がありそうだった。
マリオンはシビルを抱えると、すぐさま巨鳥に飛び乗った。
シビルはそのまま杖に意識を集中して、巨鳥の周りに防御結界を張り巡らせる。下から飛んでくる砲弾は、全て見えない結界の壁に弾かれた。
「みんなぁ、早く乗ってぇ~」
マリオンがのほほんと声をかけると、呆気にとられていた研究者たちが、我に返っていそいそと巨鳥の背に乗り始めた。
全員が乗ったことを確認して、ギャリーも飛び乗る。
「いいぜ!」
それを合図にして、巨鳥は翼を広げ飛び上がった。
* * *
――軍施設外――
「カーティスあれ」
背中合わせに立っていたマーゴットが、すっかり濃紺色に染まった空を指差す。
カーティスは顔を上げると、有り得ないほどの巨大な鳥が、夜空を飛んでいく様が見えた。
「ギャリーたちですか。無事に飛び立てたようですね」
カーティスは小さく頷くと、銀の杖を構え直した。
「ルーファス、タルコットとハーマンとヴァルトに、戦線を離脱するように念話を送ってください。合流地点で落ち合って、我々も逃げますよ」
「了解だ」
ルーファスは目の前の兵士を切り捨てると、身体は戦いを続け、意識のみをこらす。
(タルコット、ハーマン、ギャリーたちが脱出した)
(うん、でっかな鳥が見えたよ!)
まだ暴れ足りなそうなハーマンの、元気な声が脳裏に響く。
(ボクも確認した。周辺の雑魚を掃討しながら、合流地点へ向かうよ)
タルコットの声も、素直に応じた。
(2人とも気をつけてな。後で会おう)
ハーマンとタルコットは、無事に合流地点で会えるだろう。そして、若干心配なのが一人。
ヴァルトだ。
陽動すればいいだけなのに、収監施設へ乗り込んでいってしまい、カーティスたちとすっかり離ればなれになってしまった。
さすがに施設までは追いかけていけず、絶賛大放置状態だ。
ルーファスは念話を送りやすいように、仲間たちにはマーキングをしている。どんなに遠く離れていても、それを頼りに念を送ればいい。
しかしこれだけ人が大勢いると、マーキングも探しづい。
雑草をかき分けるようにして、ようやくヴァルトを探し当てた。
(ヴァルト、引き上げて合流地点へ向かってくれ!)
(ん? 俺様もう、ごーりゅーチテンにいるぞ)
「……ナンデスッテエエエ!?」
思わずルーファスは声に出して絶叫する。
(建物ン中のれんちゅー、全部倒したし、ギャリーたちも屋上へ向かったしな。俺様も飛んで脱出した)
鼻ほじしている姿が目に浮かぶ。
ルーファスは無言になると、斬り捨てた兵士の死体に片足を乗せ、片手剣の切っ先を死体の腹に突き立てる。そして、八つ当たりする勢いで何度も突きまくった。
(死ね、うぜえ、ごるぁあ!)
物騒な心の声が迸る。
「な、何をしているんです、ルーファス…」
いきなり荒ぶるルーファスに、カーティスが引き気味にツッコむ。
「ン、何でもないヨー」
ニッコリと笑顔を浮かべ、カーティスを振り向く。
しかし目は、少しも笑っていなかった。
死体に怒りの限りをぶつけてすっきりしたルーファスは、普段の穏やかな顔に戻る。
「おっし、連絡はおっけーだよ」
「…判りました。――さあ、少々派手にいきますよ」
軽く頭を振り、カーティスは銀の杖に片手を翳すと、朗々と呪文を唱えだした。
「天もみたことがない稲妻と
地も聴いたことがない雷鳴を
遍く全ての想像を絶したる大音響を作り出さん」
カーティスは杖を高く掲げる。
「イラアルータ・トニトルス!!」
杖から伸びた巨大な雷光が、宙で幾つもの枝のように広がり、アーチ状となって周囲に降り注いだ。
雷光は轟音と共にうねりだし、地面を激しくえぐり取りながら、鞭のようにしなやかに兵士たちに踊りかかる。
幾重にも稲妻を発し、触れたものは感電して死に至った。
雷光に飲み込まれたものは、強烈な熱で全身を焼かれて消し炭になる。
ソレル王国兵たちは騒然となって、散り散りになって逃げ惑う。巻き込まれたくない一心で、恐慌状態に陥っていた。
生き物のようにソレル王国兵たちに襲いかかる雷を、カーティスは汗をにじませ操作する。あまりにも威力が強すぎて、気を抜けば自らも滅ぼしかねない。
ハイレベルの魔法使いが扱う、高位攻撃魔法だった。
「周辺の敵は、だいぶ散らしたね。みんな逃げ回ってる」
ルーファスは剣を鞘におさめながら振り向いた。
「判りました。我々もずらかりましょう」
銀の杖をひと振りすると、カーティスは全身で息を吐き出した。雷光もゆっくりと収束していく。
周囲に兵士たちがいないのを確認し、カーティスたちは合流地点へ向かって走り出した。
走りながら、カーティスは顔の汗を手で拭う。
「攻撃魔法は、魔力の消耗が酷すぎますね…」
「いきなり【イラアルータ・トニトルス】ぶちかましてくるとは思わなかったぜ」
にやりとルーファスは笑む。カーティスはちらりとルーファスを見て苦笑した。
カーティスの得意な魔法分野は、強化と弱体系である。攻撃魔法も扱えるが、あまり自身で使うことはなかった。
辺りを警戒しながら、カーティスの脳裏に一人の男の顔が浮かぶ。
(神を引っ張り出さないと、倒すことができないと言われる大魔法使い…)
魔法〈才能〉を持つ者たちの頂点に立ち、憧れと羨望を一身に受ける。
「あの方のようには、うまくいかないものです」
疲労を滲ませた顔で、小さく安堵の息をついた。
* * *
――ナルバ山――
「ギャリー組みとカーティス組み、無事鳥に乗って空に出たよ」
身じろぎせず、キュッリッキがホッとしたように言った。
冷えた風が、山肌をなぞる様に吹き抜けていく。
「それはよかった」
髪をかき上げ、メルヴィンは胸をなでおろす。
本拠地を攻めていた陽動部隊と救出部隊、どちらも作戦は大変だっただろう。
「ギャリーさん達救出部隊は、非戦闘員を抱えての脱出ですし。早く労ってあげたいですね」
そう言って、メルヴィンは肩で息をついた。
「ライオン傭兵団、噂通りすごいんだね…」
静かな暗闇の中のぽつりとした呟きに、2人の無言の視線が投げかけられた。
「フリーの傭兵たちの間では、凄い凄いって言われてても、何がどう凄いか知ってるヤツってあんまいなくって」
クスっとキュッリッキは笑う。
「戦場でかち合うと、生存者が殆どいないせいなんだよね。だからそういう意味では、凄いんだろうなって」
数ある傭兵団の中でも、上位に君臨する代表的な傭兵団。
(外野が実態を正確に把握することは出来ないもんね。わざわざ功績を周りに自慢したりすることってないし)
風の噂のように彼らの強さが伝えられ、それは広がりとともに過大評価となっていく。
(だから、何がどう凄いのか、まずは、彼らの働きを見てみたいって思ってたんだよね)
本来傭兵たちは戦場でこそ、その力量を発揮する。しかしこのご時世、そう多く戦争が存在するわけじゃない。
食い詰めない為に便利屋稼業として、何でも依頼をこなすのが、フリーの傭兵たちの辛いところだ。
しかし今回のように一国の軍隊を相手に、これだけのことをやってのける傭兵が、どれだけいるだろう。
(小鳥たちの目を通して、彼らの戦いぶりを色々と見ることができた。持ち前の〈才能〉、戦い方、戦闘力、これまで見てきた傭兵たちとは、全然格が違ってたな)
個々の戦闘能力が高いからこそ、あれだけの無茶がきく。
(昼間のメルヴィンとガエルの戦いを見て、すっごいゾクゾクした。そしてアルイールで暴れるみんなにも、同じゾクゾクを感じる)
真っ暗な空に瞬く星を見上げ、キュッリッキはにこりと微笑む。
「あんなに沢山敵がいるのに、ヴァルトもタルコットも、楽しそうに倒してるんだもん。いわゆるバトル馬鹿、ってやつだよね」
メルヴィンはちらりとガエルを見やる。当のガエルは腕を組み、太い笑みを浮かべているだけだ。
「あ、ザカリーとランドンも回収したから、あと30分ほどで合流するよ」
キュッリッキは僅かに肩の力をそっと抜いて、フェンリルの前脚にもたれかかる。
ふわりとしたフェンリルの毛皮が、集中の解けた身体に温かかった。
昼間とはうってかわり、気温が急激に下がった。肌寒くなってきたので、キュッリッキに遺跡に入るようすすめたメルヴィンだが、
「みんなのお出迎えするの」
そう言われて、ガエルもそのまま残り、3人は皆の到着を待った。
最初にギャリー達救出部隊を乗せた鳥がやってきて、10分ほど遅れてカーティス達陽動部隊を乗せた鳥が合流した。
「お疲れ様~」
「ご苦労でした」
キュッリッキたちに出迎えられ、ギャリーたちはワイワイ笑顔で無事を喜び合った。
「ガエル、随分とチートな戦闘を楽しんだそうじゃないか」
鳥の背をするりと滑り降りながら、タルコットはガエルに掴みかかる勢いで詰め寄った。
「フッ、キューリの支援は最高だった」
腕を組んだまま、ガエルはニヤリと口の端を歪める。
そしてヴァルトも鳥の背から飛び降りるなり、
「ずりーぞクマ野郎!!」
そう叫びながら、ガエルの胸ぐらを掴んだ。
そうして3人は、何人倒しただの数を競い合い、どっちが強いか最強かなどと言い合いを始めるのだった。
(やっぱり、バトル馬鹿なの)
少し離れて見ていたキュッリッキは、呆れたように心でボソリと呟いた。




