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片翼の召喚士  作者: ゆずき
後日談編
192/226

188)おばあちゃんになっても、ずっと一緒に居るの

 キュッリッキとメルヴィンの結婚式が三日後に迫り、ヴィーンゴールヴ邸には遠方の列席客が続々と集まっていた。


「やっほー、リッキー!」

「ファニー!」


 玄関ロビーに佇むファニーに、キュッリッキは満面の笑みを浮かべて駆け寄って飛びついた。


「オッと、久しぶりね。約束通り、お祝いに来たわよ」

「えへへ、ありがとなの」


 キュッリッキは涙ぐみながら、何度も何度も頷いた。


「よお、元気そうだな」

「ハドリー!」


 キュッリッキはファニーから離れると、笑顔のハドリーにも抱きついた。


「ほんのちょっと肉が付いたか?」

「あー、やっぱそう思う?」

「1キロ太ったかも」

「たった1キロかい」


 ファニーとハドリーは顔を見合わせ苦笑する。

 2人はキュッリッキにとって、大親友と言ってもいい大切な友人だ。そして2人は夫婦であり、結婚式からパーティーまで、キュッリッキが面倒を見た。

 今は皇都イララクスを離れ、ハドリーの故郷で宿屋を営んでいる。


「いらっしゃい、ハドリーさん、ファニーさん」


 笑顔のメルヴィンもやってきて、それぞれ握手を交わした。


「ついに結婚式ですね。おめでとうございます」

「おめでとう、メルヴィンさん」

「ありがとうございます」


 メルヴィンは照れ臭そうに、頬を指先で掻く。


「ねえ、ねえ、どのくらい居られるの?」

「一週間くらいはお邪魔しようかな~って思ってるわ。宿のほうはお義父さん達が見てくれてるしね」

「うん。従業員達もいるし、たまにはのんびりしておこうかと」

「ひっさしぶりの皇都だもんね。ハーツイーズとかちょっと見ていきたいし」

「アパートに行って挨拶もしてこなきゃだな」

「アタシも一緒に行く!」

「だーめダメ! アンタ3日後には大事な式が控えてるデショ。(やしき)でおとなしくしてなさいな」

「えー…」


 上目遣いでファニーを見て、キュッリッキは口を尖らせる。


「先が思いやられるわね、これじゃ」


 腕組をしたファニーは、あきれ顔でため息をついた。


「結婚式が終わったら一緒に行けばいいですよ。さ、2人を部屋に案内しましょう」

「ふぁーい…」


 メルヴィンに宥められて、キュッリッキは頷いた。




 キュッリッキの部屋をノックし、ちょっと扉を開けて中を見る。


「リッキー、入ってもいい?」

「うん、どうぞっ」


 ベッドに寝ころんでいたキュッリッキは、パッと顔を輝かせると、素早く身体を起こした。

 ファニーは部屋に入ると、ベッドに腰を下ろした。


「夕食までまだ時間あるみたいし、話でもしようかと思って」


 ハドリーと一緒にハーツイーズへ行っていたファニーは、懐かしい面々と再会の挨拶をかわして戻ってきた。


「まだ一年ちょっとだし、あんまり懐かしいって雰囲気じゃなかったわね、アパートのおばちゃんたち。久しぶりって感じ」

「10年後だと懐かしいかも」

「そうね~、10年経ったらさらに磨きがかかってそうよね、あの豪快な陽気は」


 傭兵たちが住むアパートの住人である”おばちゃんズ”は、戦闘〈才能〉(スキル)持ちの元傭兵である。ファニーはそのアパートには住んでいなかったが、キュッリッキやハドリーが住んでいたので、よく顔を出していた。そのため”おばちゃんズ”とは顔なじみである。


「あたしもトシ食ったら、あんなふうに豪快になって、年下達に「あのババア」とか言われちゃうんだろうなあ」


 キュッリッキの隣にゴロンと横になり、仰向けになってベッドの天蓋を見つめる。


「あたし割と煩いほうでしょ、おしとやかとかおとなしいには縁がないし。ああなる自信がありすぎて困っちゃうわ」


 控えめに振舞うのは得意じゃないし、お節介やきなのは自覚している。それもあって、キュッリッキと仲良くなれたのだから。

 隣に座るキュッリッキを見上げる。


(初めて会ったころと、見た目はあんまり変わってないなあ。ちょっと大人っぽくはなったけど)


 年齢よりもずっと幼い雰囲気をずっとまとっていたから、子供だ子供だと思っていた。けれど、今は少し大人っぽい雰囲気もある。

 それは、メルヴィンに恋をして、愛し合っているからだ。

 その成長ぶりは嬉しい反面、美しさには多少嫉妬もあった。


「リッキーはアイオン族だから、見た目はずっとそんな感じよね」

「うん、たぶん」

「イイなあ!」

「んー、でも、アタシはメルヴィンと一緒に年を取りたい。見た目も一緒に」


 複雑な笑みを顔に浮かべ、キュッリッキも寝転がる。


「前にね、メルヴィンがルーさんと話してるのを聞いちゃったことがあったの。年をとってもアタシずーっとこのままで、でもメルヴィンは老いていっちゃう。種族が違うからだけど、それはちょっと寂しいな、って」


 寂しい、と言ったメルヴィンの横顔を見たとき、キュッリッキは胸の奥が締め付けられるように痛んだ。


「ちょっとだけ判るかもしれないな、メルヴィンさんの気持ち」


 同じヴィプネン族だから。

 ヴィプネン族は年齢を重ねるごとに、年相応に外見も老いる。しかしアイオン族は、成人すると外見の成長がとても緩やかになり、実年齢より20歳ぶんは若く見えるのだ。

 寿命はほとんど変わらないが、老人と呼べる年齢でも、まだ若々しい外見をしているのがアイオン族である。


「タブンダケド、置いてっちゃうような気分になるんじゃないかな。リッキーはいつまでも変わらない見た目なのに、自分はどんどん老けてっちゃう。これからどんどん見た目に顕著に現れるだろうし」


 キュッリッキはファニーのほうへ身体を向け、視線を下に落とす。


「…メルヴィンを、今の見た目のままに留めることはできるよ」

「え!」

「メルヴィンの外見の時間を止めることは出来るの。そういう力を持つ神様を召喚してお願いすれば…。でも、きっとメルヴィンはそれを望まないと思う。勝手にそんなことをしたら、凄く怒っちゃうの」

「そうだね。あたしもそう思う」


 あまり知らないが、メルヴィンはそれを良しとする人間ではない。そうファニーも確信できた。


「それにメルヴィンがおじいちゃんになっても、絶対カッコいいままだって、アタシ保証できるんだよ」


 目を丸くするファニーに、キュッリッキはニヤリとした笑みを向けた。


「メルヴィンのお父さん、渋くてカッコイイんだもん。メルヴィンはお父さんのほうに似てると思うから、だから絶対カッコいいままおじいちゃんになるよ」


 明日来てくれることになっている、メルヴィンの父アリスター。


「そっか。なら安心だね?」

「うん」


 2人は顔を見合わせると、ぷっと吹き出し笑ってしまった。


「メルヴィンさんはともかく、ハドリーはもうむさっ苦しいおっさんの道からは抜け出せないわね…」


 若い割には髭面が板についている。


「ハドリーって、今でもオジさんみたいだもんね…」


 ここに居ないことを良いことに、言いたい放題である。


「まあ、顔に惚れたわけじゃないと思うし、長く一緒に夫婦でいられればいいわ」


 ファニーの言うとおりだと、キュッリッキも思っている。

 見た目で選んだわけではない。

 メルヴィンという人の全てを受け入れ、愛したのだから。


「そうだね。おばあちゃんになっても、ずっと一緒に居るの」

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