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片翼の召喚士  作者: ゆずき
奪われしもの編
144/226

140)ベルトルドvsメルヴィン・後編

 2人は一歩も譲らず、その場に踏みとどまり続けた。


「何故、リッキーを裏切ったんです」


 たまりかねて、メルヴィンが口を開く。

 会ったら、問い詰めようとずっと思っていた。

 誰よりもキュッリッキの味方であり続けてきたこの男が、最も最低なやり方で彼女を裏切ったのだ。下劣極まりない行いで、キュッリッキの心と信頼をズタズタに引き裂いた。


「裏切った覚えはない。俺の企てに、協力してもらっているだけだ」


 ベルトルドの声に淀みはなく、素っ気ない言葉に淡々とした口調が、メルヴィンの神経を苛立たせた。


「彼女の心を無視して、力尽くで何が協力ですか!」

「そうだ。力尽くでリッキーをモノにして、システムに押し込めた」


 熱を帯びるメルヴィンの声音とは対照的に、ベルトルドの声は冷え冷えと冷め切っていた。まるで自らの行いを肯定しているかのように。

 この男にとって、キュッリッキはその程度の存在だったのだろうか。


「リッキーはあなたを、父親のように慕っていた。それなのに」


 ベルトルドは不快そうに、口元を歪める。


「俺は父親ではない。一人の男として、リッキーを愛しているんだ」

「愛しているなら、何故陵辱した! リッキーを汚したその口で、ぬけぬけと愛しているなどと言うな!!」


 激昂するメルヴィンに、ベルトルドは大きく目を見開く。


「貴様のような青二才に何が判る!!」


 カッとなったベルトルドが念動波を炸裂させ、メルヴィンを後方へ吹っ飛ばした。

 メルヴィンは宙を飛びながら床に片手を滑らせ、強く床に手を押し付けて跳ねると、後ろに身体を回転して着地した。吹っ飛ばされはしたが、身体に負傷は受けなかった。

 俯かせていた顔を上げ、傲然と立つベルトルドを見据える。


「あれほど慕われていながら、計画のために陵辱出来るようなあなたのことなど、理解できるものか、判りたくもない!」


 声を荒らげて怒鳴ると、メルヴィンは肩で息をついた。

 そこにどんな想いがあろうと、キュッリッキを犯し、彼女を裏切った事実はけっして変わらない。

 恋人となってまだ日は浅いが、この世でもっとも大切な存在となったキュッリッキ。愛しい想いは、ますます強まっていく。そして大切に想うからこそ、自らの欲求は抑え込んできた。いつか、彼女から求めてくれるまではと。それなのに目の前のこの男は、計画のためと称し、無下にむしり取った。

 恋人として、男として、絶対に許せなかった。それに、


(いまだに心に大きな深い傷を抱えるリッキーに、更に深い傷を負わせたことがもっとも許せない)


 ベルトルドの背後に見えるレディトゥス・システムに目を向けた。手を伸ばせば届く距離に、あの中に彼女は囚われている。

 早く助け出してやりたい。傷ついているその心を、心を込めて癒したい。

 目の前に立つこの男が、どれほど強大な力を持っていようと、臆することなど許されないのだ。

 メルヴィンは立ち上がると、爪竜刀を構え直した。


「あなたがどう言おうと、リッキーと愛し合っているのはこのオレです!」


 叩きつけられたその言葉に、ベルトルドの顔が瞬時に怒りに染まる。


「この青二才があああ!」


 ベルトルドが吠えるのと同時に、突如ベルトルドの前の空間に、鋭い長剣が無数に出現した。


「な、なんだアレ?」


 目をぱちくりさせながら、ヴァルトが隣のタルコットに問いかける。


「知らん……」


 抜き身の長剣が、ずらりと宙に大きな十字を描いて、鋭い切っ先をメルヴィンに向けている。

 レディトゥス・システムの台座の上でその様子を見ているシ・アティウスは、小さく顎を引くと、内心ため息をついた。


(あれは、終わりなき無限の剣(ダインスレイヴ)ですねえ……。全く、大人気なく本気で怒っているな)


 シ・アティウスはライオン傭兵団のほうへ目を向けると、やや呆け気味の彼らに声をかける。


「見学だけしていると、メルヴィンはすぐ串刺しですよ。対象者が死ぬか、ベルトルド様の殺意が消えない限り、延々と出現して襲いかかる終わりなき無限の剣(ダインスレイヴ)です」


 メガネのブリッジを押し上げながら、シ・アティウスが解説した。


「なんじゃああそりゃあああ!!!」


 頭を抱えてヴァルトが絶叫する。


「1万の剣で刺したところで、俺の怒りが解けるわけではないぞ」


 スッと片手をあげると、ベルトルドは眉間に力を込めた。


「ミンチになれ青二才」


 ベルトルドが片手を振り下ろすと、宙に出現した長剣が、メルヴィンめがけて襲いかかった。


「うおらああああああああああ!!」


 怒鳴り声を上げながら、ヴァルトが飛び込んできて、拳風で剣を吹き飛ばす。その次にタルコットがスルーズで払い除けた。


「メルヴィンはキューリを助けるために、おっさんのみに絞れ。あの剣攻撃はボクたちでなんとかしのぐ」

「しかし…」


 メルヴィンの言葉を遮るように、ヴァルトが大声で言う。


「1万とかおっさんいっただろ! 1万くらい屁でもねー!!」


 ドラウプニルによって守られた拳は、剣を易易と殴り払っていた。


「数は例えだ、大馬鹿者」

「くあああああああああムカツク!!!」


 冷静にツッコミを入れられて、ヴァルトは食いつきそうな顔をベルトルドに向けた。


「シビルの防御魔法と、マリオンの超能力(サイ)のフォローもある。とにかくあのおっさんをどうにかしないと、助けようがない」


 タルコットはスルーズをクルクルと回転させ、降り注ぐ大量の剣を器用に打ち払っていった。


「ランドン、回復魔法はボクたちに集中で頼むよ」

「うん」


 頷きながらも、ランドンの回復魔法はすでにヴァルトとタルコットの疲労を癒し始めていた。

 回復魔法は病気も怪我も、あっという間に治せるような奇跡の魔法ではない。疲労を癒し、怪我や熱の苦しみを和らげ、出血を抑え、傷口の細胞壊死の進行を遅らせるのが精一杯だ。それでも、こうした局面では威力を最大限に発揮する。そしてランドンはライオン傭兵団随一の回復魔法の使い手だ。

 メルヴィンはヴァルトとタルコットの背中を暫し見つめ、やがて頷いた。


「すみませんが、お願いします」

「おう。さっさとキューリ助けてこい!」

「はい!」




 雷霆(ケラウノス)の攻撃は見た目も派手だが破壊力がとてつもなく強大である。以前まだここにはレディトゥス・システムが運び込まれていなかったので、雷霆(ケラウノス)を使われてもさほど問題はなかった。

 しかし今は、この動力部にはレディトゥス・システムが運び込まれ、床下にはシステムと連結した細かな機器が数多く作動している。万が一床を傷つけ、雷霆(ケラウノス)の電気がその下の機器に影響を及ぼせば航行にも支障が出るし、何よりレディトゥス・システムにも影響を及ぼしかねない。そんなことになれば、レディトゥス・システム内に囚われるキュッリッキにも影響を及ぼす。

 それをよく理解しているベルトルドだからこそ、雷霆(ケラウノス)の使用は控えていた。


(相変わらずあの攻撃は凄いですね…。剣のデザインはバラバラ、一体どこから呼び集めているんだか)


 戦いを観察しながら、シ・アティウスはベルトルドの背中を見つめる。

 空間転移を自在に操る、ベルトルドならではの攻撃だ。

 終わりなき無限の剣(ダインスレイヴ)とはシ・アティウスが名付けた。過去に数回ほどこの攻撃を目の当たりにしている。その時「とくに技に名前はない」と言っていたので、終わりなき無限の剣(ダインスレイヴ)と名付けてやったのだ。そして無数に呼び出される剣の出処は教えてもらえなかった。

 尋常ではないこの戦場をレディトゥス・システムの上で見ているのは、シ・アティウスだけではない。

 シ・アティウスはチラリと黒い狼に目を向け、小さく首をかしげた。


「あなたは参戦せずともいいのですか?」

「かまわないもんね~。さっきは事態がちーっとも動かないから出しゃばったけど、キュッリッキを助けるのはあの人間たちだし、ボクのこと重い重いっていっぱい言うから、助けてやらないんだもーん」


 ツーンと明後日の方向に鼻面を向けて、フローズヴィトニルは鼻を鳴らした。


「……随分と、人間臭い神ですね」


 えらく興味深そうに、シ・アティウスは何度も頷いた。



* *


 リューディアを失ったとき、俺は子供心に一生愛せる女性(おんな)は二度と現れないなどと思っていた。

 友情を感じたことはあっても、恋愛感情をもてた女性(おんな)はいなかった。

 ハワドウレ皇国の副宰相となり、社交界に出るようになると、言い寄ってくる女性(おんな)は星の数ほどいた。その中から恋愛に発展するような相手は見つからず、性欲を満たすためだけの身体の関係にとどまった。

 大抵の女性(おんな)たちは身体の関係を持つと、それで満足する者が多かった。中には燃え上がって自滅する女性(おんな)もいたが、俺にとってはどうでもいいことだ。

 もう、リューディアに抱いたような純粋な恋心など無縁なものになったんだ。そう思っていた。それなのに。

 アルカネットが見つけてきた、召喚〈才能〉(スキル)を持つ少女。

 召喚〈才能〉(スキル)を持ちながら、どの国にも保護されず、危険な戦場を駆け抜けているというフリーの傭兵。

 見せられた写真に写っている少女の顔を見て、俺はかつてないほど仰天した。

 失ったリューディアに瓜二つの顔をした少女。瞳の色が違うが、リューディアとそっくりなんだ。

 召喚〈才能〉(スキル)と、リューディアと同じ顔を持つ少女キュッリッキは、俺の興味を引くのに十分すぎた。

 フリーの傭兵ならばライオン傭兵団にすぐさま入れてしまえばいいと、自らハーツイーズの傭兵ギルドに赴いた。他人の手に渡る前に、身近に置いておくために。

 そうして手に入れたキュッリッキは、接していけば接していくほど、リューディアとは全く違う少女だということはすぐに理解できた。だから、リューディアと重ねて見ることはすぐしなくなった。

 リューディアは恵まれた少女だった。

 家族の愛にも、親友や隣人たちの愛にも恵まれ、愛に包まれ心も身体も健やかな少女だった。それに比べキュッリッキは、愛とは無縁の孤独な少女。

 愛することも知らず、愛されたこともない。誰よりも愛というものに焦がれ、飢えている。他人との接し方に不慣れで、必死に居場所を作ろうとしていた。不器用に、でも健気に頑張る姿はいじらしかった。

 ナルバ山で大怪我を負い、過去のトラウマを爆発させてきたときは、


「自分の手で生涯守り、愛してやりたい」


 そう、心の底から思ったものだ。

 顔が似ていようと、召喚〈才能〉(スキル)を持っていようと、そんなことは関係ない。ただ、この少女がたまらなく好きで、愛してしまったのだ。

 それなのに。

 リューディアの命を摘み取った神の居るアルケラへ至るために、無情にもキュッリッキが欠かせない条件だと判ってしまった。


「どこまでも神とやらは、この俺を愚弄し嘲笑うつもりだ!!」


 呪わしいこの運命に、俺は神々を激しく憎悪した。

 亡きリューディアの為に、神への復讐を誓った。しかし、キュッリッキを一生守り、愛していこう。そうも誓ったのだ。

 優先すべきは――。

 2つの誓いの板挟みで、いっそ狂ってしまったほうがどんなに楽だったろう。現実から逃れたい思いにかられながらも、神への復讐の誓いを破ることは俺には到底出来なかった。そんな軽々しい気持ちで立てた誓いじゃない。

 アルカネットと共に、リューディアの墓前で誓った。それぞれ片方ずつ翼をもぎ取り供え、必ずやり遂げると固く誓ったのだ。

 空を飛ぶ乗り物の発明を思いついただけで、容赦なく儚い命を摘み取った憎き神。殺さなくても、もっと別のやり方があったはずだ。

 夢や希望を抱えたまま散り、そして俺にフラれてもなお、ひたむきに俺へ向けていた恋心。

 まだ13年という月日しか過ごしていなかったリューディアの無念を、自分たちで絶対に晴らす。

 そのためにキュッリッキの心を踏みにじり、傷つけ、裏切ることになろうとも。

 絶望に沈んでいくキュッリッキを犯し続けながら、俺は心で何度も詫びた。詫びたところで許されることではなかったが、それでも詫びずにはいられなかった。

 それにもう一つ、俺には必ずやり遂げなければならないことがある。

 神への復讐以上に、そのことは絶対に譲れない。


* *



 終わりなき無限の剣(ダインスレイヴ)は今のベルトルドの心情を如実に現していた。

 湧き続けるこの片手剣は、ベルトルドが空間転移の能力を使ってどこからかかき集めている。そうシ・アティウスは推測している。しかしベルトルドは空間転移の能力(ちから)は使っていなかった。無意識に働かせてもいない。

 ただただ、メルヴィンを八つ裂きにしてやりたい、そう心で強く思っているだけだ。

 超能力(サイ)は物質を生み出すことも、魔力を生み出すこともできない。生産することができないから、魔法のような属性攻撃を行う場合、念力を使って自然界に散らばる属性の力を集めて凝縮して放つ。物質も作り出せないから、何かを念力で操りぶつける。

 ベルトルド自身、この攻撃がどういう原理で生み出されているか、放つ当人が実は判っていない。

 こういう攻撃が出来る、ということだけしか判っていないのだ。そして、滅多に発動もしないため、あえて調べてもいなかった。

 キュッリッキの愛を勝ち取り相思相愛となって、それをさも当然のように口にする、そんなメルヴィンが心底憎らしくてしょうがない。

 こうして目の前に現れ、無礼にも言いたい放題だ。

 キュッリッキを辱める行為を、欲情からくる願望でやったように言われるのは、心外の極みだった。

 あのような振る舞いに、正当性もなにもあったものではないことは、ベルトルド自身嫌というほど自覚している。

 それを、憎たらしいメルヴィンに、真っ向から言われるのだけは我慢できなかった。

 湧き続ける剣は、ヴァルトとタルコットが払いのけながらメルヴィンを守っている。そして床に散らばる剣は、実体を失い空気に溶けていった。




「キリがないな…」


 タルコットはうんざりしたように、溜め息をこぼしながらスルーズを振るった。剣がこちらに飛んでくる頃には、新たな剣が空間に姿を現している。本当に無限に湧き続けてきそうだった。


「やいおっさん! テメー実はちょーシューネン深いだろ!!」


 ベルトルドを指さしながらヴァルトが怒鳴ると、


「ちょーとか言うな、超馬鹿者が」


 そう皮肉にツッコミを入れられ、ヴァルトは歯を食いしばり、悔しさいっぱいにぐるぐると腕を振り回して剣を払った。


「なんかぁ、おっさん怒ってるけど、ああいうやりとりわぁ~、いつもの調子ぃ、なのよねぇ…」


 後ろで見ていたマリオンが、疲れたように小さく笑う。


「シリアスが続かない御仁ですね、ホント…」


 シビルも疲れたように笑った。




 やれやれという空気が漂う中、メルヴィンだけは爪竜刀を構えたまま、攻撃の隙を伺っていた。

 襲いかかってくる多くの剣に阻まれ、なかなか前に踏み出せずにいる。メルヴィンを進ませようと、タルコットとヴァルトが前に踏み出しながら活路を見出そうとするが、ベルトルドは察したように距離を置いていく。

 メルヴィンもタルコットも、己の武器の真髄を発揮すれば、こんな攻撃など楽勝で一蹴することが可能だ。しかしそれが出来ないのは、ベルトルドと同じ理由からである。

 レディトゥス・システムに損傷を与えたくないのだ。

 マリオンやシビルに、レディトゥス・システムへ防御を張ってもらい、攻撃の余波を防いでもらう事も考えた。それでも、二人の防御壁を崩してしまう可能性もあり、踏み切れずにいた。魔剣はそれほどまでに、威力が人智を超えているのだ。


「このままでは、一方的に倒されるのがオチです」


 メルヴィンは目の前で剣攻撃を防いでいる二人の背中をじっと見つめ、爪竜刀の柄をしっかりと握る。


「とは言っても、どーすんだあ!」

「ほんの少しの間だけ、あの剣が防げる防御をオレにかけてください」

「数秒しか~もたないと思うけどっ、タブン!」

「十分です!」


 一点突破してベルトルドに斬りかかるつもりだと察して、マリオンはすぐさま念を凝らして、メルヴィンの身体を包むように防御の壁を築いた。

 床を力強く蹴り、メルヴィンは爪竜刀を八相に構えたまま飛び出した。


「!」


 腕を組んで前方を見据えていたベルトルドは、思いがけずメルヴィンが飛び出してきて、慌てて後ろに飛び退った。

 振り下ろされた爪竜刀の刃が、ベルトルドの頭部スレスレのところで、何かに阻まれ、火花を散らす。腕に力を込め、見えない何かを砕こうとするが、メルヴィンの力はそれを上回る力で止められてしまった。

 終わりなき無限の剣(ダインスレイヴ)は尚もメルヴィンに向けて降り続けていたが、それはタルコットとヴァルトが、必死に払い除けていた。


「全く…小癪な真似をする」


 不愉快げにベルトルドは目を眇めた。


「早くあなたを倒し、リッキーを助けるっ」

「お前になんぞ、絶対に渡さん!」

「ぐっ」


 ベルトルドの強烈な念波に払われ、メルヴィンは上体をグラリと後ろに傾けた。一瞬目を閉じたその瞬間、ベルトルドの手がメルヴィンの喉を掴んだ。


「ぐぁ…」

「お前だけは、空間転移などで消したりはせん。絶対にこの俺の手で殺す!」

「メルヴィン!!」


 マリオンが咄嗟に悲鳴を上げる。いきなり剣攻撃が止んで、タルコットとヴァルトは同時に振り向くと、ギョッと目を見張った。

 全身の動きも力も、ベルトルドの念力で封じられ、メルヴィンは喉を締め上げられていた。

 ぶつけられる超能力(サイ)の力ならば、爪竜刀で無力化出来るが、こうして直接身体に害を与えられると無力化出来ない。

 握力に超能力(サイ)も加えられているのだろう。メルヴィンの身体を片手で悠々と持ち上げ、ベルトルドは険しい顔で見上げた。


「確かに俺はリッキーを裏切った。だがな、愛している気持ちは変わらん。何も判っていないお前に、薄っぺらな説教など言われたくないわ!!」


 爪竜刀が手から落ち、メルヴィンの腕は力なくだらりと垂れ下がった。呼吸が止まりかけ、メルヴィンの意識はだんだんと白濁していく。

 その時である。

 突如ベルトルドの動きが止まった。その様子に、シ・アティウスもライオン傭兵団も、皆訝しんで首をかしげた。

 数秒の間、ベルトルドはこの場ではないところを見るように、大きく目を見張っている。


「アルカネット……?」


 ぽつりとそう呟くと、ベルトルドはいきなりその場から消えてしまった。

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