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真夜中の桜

作者: 福地 正実
掲載日:2023/08/20

SF好きなので、全てSFのつもりです。「センス・オブ・ワンダー』が合言葉!

不思議な感覚の小説を作ります。残念なことに勉強不足で「転生もの」や「異世界もの」とかライトノベルはかけません。でも、簡単な言葉で綺麗な情景を描写するようにしている。

いやあ。ホント、流行に逆行します。

下記は拙書(Amazon)の購入リンクです。

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南口を出てアパートへ向かって歩き始めた。

仕事が遅くなってしまい終電一本前の電車だった。新宿から各駅で35分。快速だと20分弱で着くがこの時間に快速などは走っていない。

駅前には小さなロータリーがある。商店街などはなくコンビニと古びた中華屋とすでに潰れてしまった蕎麦屋の建物がある。

特に美味しいという名物料理もない、近くに体育会系の学生寮があるためただただボリュームだけの中華屋は当たり前だがすでにシャッターを下ろしていた。

その中華の側の小道を挟んで小さなプールがある。プールを横目にみながらロータリーを右に歩き始めた。


ロータリーから伸びる道路に入る。

右側には体育館があり、なにかの設営作業をしているのだろうか、いつもは真っ暗な体育館から今日は灯りが漏れていて、搬入口に大きなトラックが止まっていた。


左側にその体育館を見ながら道沿いに歩いてゆく。体育館を通り過ぎると道路は右へ大きくカーブしてゆく。そして下り坂道が始まる。そこから自宅のアパートまでは歩いて15分ほど、坂道を下って、少し上がると街道にぶつかる。そこを少し折れたところにアパートはある。


坂道の左側には大きな公園になっている。そして右側には都心にある総合大学のグラウンドがあり、坂道沿いの敷地内には体育会系の寮が並んでいた。


深夜に近い時間。

歩いていたのは自分一人だけだ。今日も仕事は何の実りもなかった。せっかくできた恋人とも仕事が忙し過ぎて上手に会うことができない。

あ、コンビニでビールで買えば良かった。後悔したがすでに坂道を半分くらいは降りていて、今更、駅前まで戻る気もしない。


坂を降り切ると左側にある公園の入り口がある。公園の中央には大きな池があり、その池の辺りに一本だけ巨大なソメイヨシノが植っている。

今は三月の終わりだ。

いつもならもうしばらくすると満開になる。

ソメイヨシノの幹の近くにナトリウム灯があり輝いている。公園の入り口から見ると桜は池の向こう岸にある形になる。

少しだけ立ち止まり、サクラの木を見た。ああ、花が咲いているな。

「・・」

誰かに呼ばれた気がした。辺りを見回すがあたりは暗くて自分以外は何も確認できない。

照明に照らし出された桜はまだ三分咲き。

その光の中で何かが動いた。それは小さくて白い。

なんだろうと公園に入った。池の周りをゆっくりと歩いて回り込み、サクラの木に近づいてゆく。

白い影は目の前でモヤとなって輝き始めた。そして声だけが聞こえた。

「あ、見つかっちゃった」

「え・なんで」

呟いた。

「あれ、見えていないのか、失敗した〜」

声はまだ子供のような声だった。女の子なのか、男の子なのかも分からない。思い切って声を出した。

「君は誰?」

「しょうがないな。私は天使か、死神かのどっちか」

「どう言う意味?」

「なんでか分からないけど、大概の人はどっちかで私を呼ぶ」

「落語の死神とか、教会の天使とか?」

「どっちも私かな。よく分からないけど」

「あやふやだな」

「そ。別にどっちでも良い。ね。私はどんなふうに見える?」

「モヤっている」

「何それ?」

「モヤモヤしている」

「じゃあ、あやふやだね。それで良いじゃない。天使でも悪魔でも死神でも」

モヤは次第に形を作りはじめた。それは5歳くらいの少女で白い裾の長いドレスと桜色の花びらでできた髪飾りをしていた。

「あ。今からすること見ないでね。だから、後ろを向いて」

「そうなの?」

「そうなの、じゃないと怒られるから」

子供にそう言われると逆らえない。怒られると可哀想だ。


あの夜の満開の桜。

病院の天井が見えた。

視界の隅には年老いた彼女の顔が見える。

「もう少しだけ、頑張って。もうすぐ着くから」

彼女は必死に自分になにかを伝えようとしている。言葉は聞こえるが意味が分からない。泣いているので可哀想になり、その頬に手を伸ばした。シミとシワだけけの自分の腕が見えて、驚いた。


ポン。ポン。と軽快な音がした。

そのまま、視線を上げるとサクラの花が次々と開き始めた。

「え。嘘」

見る間にサクラの花は次々を開き始めた。

「じゃあね。今度会うときは、さっきあなたが見た景色の中でね」

言葉がだんだんと遠くなった。


目が覚めた。あ、このままじゃ遅刻だ。

そう思って手早く着替えてアパートを出た。

途中の公園にある桜が満開になっていた。

「あれ、昨日は三分咲きだったよな」

そう思いながら駅への坂道を登り始めた。

昨日の夜、公園で誰かに会った気がする。

気のせいかな。昨日も遅かったし、ビールを買い損ねて街道沿いのコンビニまで行ったしな。

今日は金曜日。一日頑張れば明日は休みだ。最近逢えていない彼女をデートに誘おう。

笑顔でそう思い、駅に向かう途中でLINEを送った。


満員の電車の中でスマホが震えた。きっと彼女からの返答だろうと思った。


     ー了ー


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