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人間嫌いの引きこもり神様  作者: なんいち
第二章 貢物
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第二章五節

改行などを入れ、少し形式を改良しました。

ひゅおお…


神様は目を閉じ、ゆっくりと力を抜きながら意識を集中させる。辺りには神様を囲うように吹く空気の流れができていた。


ここ数日、より神風を自在に操れるようになってきている。神風だけではない。もう辺りの石ころを念力で浮かべただけで死にかけるような神様ではなかった。


いったい何故、最近になって急にこのような成果が見られ始めたのか。原因はもう分かっている。他の理由をあれこれと探してみようとしたが、最早言い逃れもできない。


あの青年だ。


神はそもそも人間の信仰によって力を得る。元々、修行の本懐もそれである。ならばあの青年が心から私を信じて接し、その思いが込められた供物を口にしていれば、微力ながら神力が蓄えられていくのは自明の理というもの。


できれば神様は認めたくはなかった。結果的に青年がここへ来る事が神様の助けとなっていたという事を。あれほど顔も見たくなかった人間に意図せずとはいえ、助けられてしまっていたという事実を。

だがここまではっきりとした結果が出てしまっていては、認めざるを得なかった。


(結局、神は人間から離れることはできないというのか…?)


絶望的な結論が神様の脳裏を過ぎる。


青年一人の信仰で回復できる量などたかがしれている。以前のような力を取り戻すためには、また人里に降りより大勢の信仰を集める必要があるということだ。


…いや、とっくに分かっていたのかもしれない。そうする他ないということは。その踏ん切りが付かないでいるのは、やはり過去の出来事がいつまでも鮮明に呼び起こされるからだ。人間への憎しみが、いつまでも頭に染み付いて離れないからだ。


ぴりっとした感覚が足を伝う。あの古傷が痛みを放っていた。神様はおもむろに足をさする。

(どちらにせよ、この足が動かぬ内はどうにもならんのだがな)


結論が出ぬままに、神様は思案を止める。


(それにしても今日はあやつも来ないようだ。いや、一向に構わないのだが)


静かだ。おまけに今日は暑過ぎず、穏やかな陽気と言える日だった。蝉の音もどこか遠くに聞こえる。

自然と神様の意識は眠りの中へと落ちていった。



『神様ー!』

『神様!今年も良き米が採れましてございます!』

『これも全て、神様のご加護のおかげでございます』

何を言うか。お前たちの努力の賜物だ。

『これからもこの村をお守りくだされ!』

『神様!』

『神様!』

わはは、任せておくがよいぞ。


…生きるために頑張る人間の姿は美しい。

これからも、この村で共に…



「…っ!」

不意に目が覚めた。今の夢は…そうか。また昔の夢を見ていたのだな。何を今さら。

神様は今見たものを早く忘れようと頭を軽く振る。

その時、ふと目の前を見るといつもの青年が座っていた。


「うわ、お前いたのか」


「うわとは少し傷つきます」


青年は頭を少しかきながらそう呟く。というかこやつ、私が居眠りしている間ずっとここにおったのか?


「勝手に入ってくるな。というか来るな」


「いつもは挨拶をしてから入ってくるではないですか。今日も声はおかけしましたが、よく眠っておられたので」


「馬鹿者。そもそも立ち入りを許可した覚えはない」


もう何というか、この辺りの会話はもはやただの様式美のようになっているな。


「まあまあ。それより神様、何か良い夢でも?」


「む?」


「眠りながら笑っておいででした」


やはり寝顔を見られていたのか。しかも笑っていただと?まあ確かに夢の中の私も笑っていた気がするが…。


「夢の内容までお前に教える必要はない」


「神様が笑っておいでの顔は初めて見ました」


青年はにこやかに答える。

相変わらず突き放しても微塵も動じない奴だ。


「良いものを見れたので私は満足です」


「たわけ。見せ物ではないぞ」


そんな他愛もない会話を続けた後、しばらくして青年はまた茄子の塩漬けを置いて立ち去っていった。それをつまみながら、先ほどの夢に思いを馳せる。


笑っていた、か。昔のことは頭に霧がかかっているようであまり思い出せないが、よく人間と一緒に笑っていたような気もする。

そうだ。確かに私は昔、人間が好きだった。泥だらけになって畑を耕す姿も、山へ狩りに行き駆けずり回る姿も、子どもの我儘に振り回され苦心する姿も、豊作を喜び、笑い合う姿も。全てが輝きを放って見えていた。


しかし、それらも全て昔の話。今はそのような感情は欠片も残っていない。あるのはただただ、憎悪のみ。

久しく思い出した人間への想いも、今の神様には全く他人事のように思えた。

今日の夢のことは蓋をして厳重にしまいこみ、早く忘れてしまおう。うむ、それがいい…。


だがそう考えたはいいものの、どうしても拭い去れないものもあった。

懐かしい、という感情。あの頃の暮らしを懐かしむ気持ちだけは、もやもやと微かに残り続けていた。

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