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お父様たちが帰ってしまう

 お父様とお兄様たちを皇宮内の厩に案内をした。


 元皇族付きの司祭で、いまは第三皇子の出身ナルディ公爵家の領地にある屋敷でバラ園や庭園の管理を任されているレナウトから分けてもらった肥料、つまりレナウト特製ブレンドの糞を見せる為である。


 馬車と馬は、そのまま譲ってもらえることになった。馬車馬二頭だけではない。プラス三頭を選んで連れて帰っていいということになった。それから道中にある皇族専属の農場から、牛やヤギや鳥も連れて行っていいという。


 正直、大助かりだわ。だって、実家でお父様たちの帰りを待っている家畜たちは、いずれも年寄りなんですもの。いまは、余生を満喫している。


 若い馬や牛たちがいれば、農作業や土木作業がどれだけはかどることか。それから、日々の家計もおおいに助かる。


 ミルクや卵がゲットできるから。


 というわけで、厩舎では肥料を見せただけでなく連れて帰る馬も選んだ。


 お父様もお兄様たちも大喜びしてくれた。


 お父様なんて「枯れている土地でも、これならすこしは作物がとれるかもしれん」などといって、小躍りした。


 お父様ったら、ときどき子どもみたいになるのよね。


 そんなお父様を見ると、わたしまでうれしくなってしまう。


「これはいいにおいだ」

「うん。芳しいにおいだ」


 お兄様たちも大満足してくれた。


 二人して荷車のシートを外して鼻を近づけてにおいを堪能したり、指でつまんでためつすがめつしていた。


 こんなことなら、もっと譲ってもらって積んでくればよかった。


 三人の様子を見て後悔してしまった。


 そんなわたしたちの様子を、第三皇子が遥か彼方から見ていたみたい。


 お父様たちがさらなる肥料を要望したら、第三皇子の屋敷の使用人たちが運んでくれることになった。


 それなら、うちだけじゃなく他の農家の人たちにも使ってもらえるわよね。


 第三皇子に感謝しなくっちゃ。


 その後、四人で皇太子殿下の執務室に出向いた。


 お父様とお兄様たちが暇乞いする為である。


 明日の朝早く、三人は故郷に戻ると言いだした。


 わたしとしては、せっかく来てくれたんですもの。もろもろの問題も落ち着きそうだし、もうすこしいっしょにすごしたいのだけれども。


 でも、家畜たちや土地をいつまでも放置しているわけにはいかないわよね。それに、会おうと思えばいつでも会える。


 これが一番可能性が高いけど、わたしが終身雇用契約を破棄されてしまうかもしれないし。そうなったら、実家に戻るしかない。


 というわけで、今生の別れじゃないからいいじゃない。


 ということは、頭ではわかっているんだけど寂しさは拭えない。 


 それは、わたしだけではない。皇太子殿下と第三皇子も同様である。


 皇太子殿下は、是非ともとどまって助けてほしいと何度も懇願した。家畜たちは、連れて来て皇宮ここで余生を送ってもらったらいい。それから、土地については人をやって開拓させると提案した。


「残念ながら、おれにはもろもろのことに対処出来る能力がありません。あなた方からいろいろ学びたいのです」


 皇太子殿下は、それこそ土下座する勢いである。


「アルノルド殿、その誘いはありがたいし光栄だ。だが、わたしはしょせん落ちぶれ王族の一人。世は、わたしを必要としない。わたしがいれば、いつかかならず枷になってしまう。そんな顔をしないでほしい。心配しなくても、何かあればすぐに飛んでくるし、相談事があればいつでものるから」


 お父様は、皇太子殿下の肩をやさしく撫でた。


「ナオ、トモ。おまえたちは、ここに残ってアルノルド殿の役に立つのだ」

「父上?」

「父上、どういう……」


 お兄様たちが言いかけたけど、お父様が目線でだまらせてしまった。


「アルノルド殿、わたしより愚息たちの方が役に立ってくれるはずだ。二人とも、わたしなどよりずっと優秀だから。それはすでに実証済みのはず」


 そう。お兄様たちは優秀すぎる。幼い頃からお祖父様やお父様から多くの知識を得、多くの本からも同様に知識それを得ている。


「メグがあなたに嫁いでからというもの、二人にはさらに多くのことを学ばせている。いや、みずから学んでいた。ひとえに、アルノルド殿とメグの役に立つ為に……。実際のところ、ほんとうに役に立つかどうかはわからないが、使い走りくらいにはなるはずだから」

義父ちち上……」

「お父様……」


 皇太子殿下とつぶやいてしまった。


 ずるいわ、お父様。そんなこと言ったら、感動しちゃうじゃない。




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