第四皇子へざまぁを
「それから、妃殿下や彼女の父上の言う通りでもあります。ぼくらは、この皇国の多くの民の力で生活が出来ているのです。贅を尽くし、何の憂いも怖れもなく生きているのです。ぼくらがやるべきこと、かんがえるべきことは、アルノルド殿を蹴落としてその座を奪うことではありません。彼に協力し、民がちゃんとした生活を送ることが出来るようにすることです」
「そうだそうだ。その通りだ。おれも、心を入れ替えてダイエットしているんだ。皇太子はアルノルドに任せておけば安心だ。じっくりダイエット出来るし」
第七皇子の熱弁の後の第五皇子の発言は、残念すぎるわ。
だけど、彼ったらこの数日でちょっと痩せたわね。わたしが送りつけた嫌がらせ満載のダイエット計画書を実践しているのに違いないわね。
「あー、そうだな。おれも好みのレディと一緒になって、二人っきりで静かにすごせればそれでいいかな」
「たしかに。好きなレディとまったり出来たら、それだけでしあわせかな。皇太子なんて忙しすぎるから、イチャイチャする暇もないだろうからね」
第二皇子と第六皇子も残念すぎるわ。
いろんなことが根本的に違いすぎる。でもまぁ、彼らはそういう類の人だからそれでいいのかもしれない。
だけど、第二皇子と第六皇子のいまの言い方だと、どうやら二人とも特定のレディと付き合ったりすごしたりしたいわけね。
わたしのいわれなき誹謗中傷に傷ついて、これまでみたいに多くのレディと付き合う自信がなくなってしまったのかもしれない。
これまでのようにレディをとっかえひっかえしたり、複数人と同時に遊んだりではなく、特定のレディをかわいがったり大切するっていう程度の自信しかないのかも。
いい感じじゃない。
「どいつもこいつも、いったいどうしたんだ?」
第四皇子は、神経質そうに眉間に皺を寄せつつ周囲の皇子たちを睨みつけている。
そんなのきまっているじゃない。わたしの悪妻ぶりに影響を受けたのよ。それで、みんな揃って遅すぎる反抗期に入ってしまったの。
「アルノルド、すまなかった。だれかさんをのぞいて、おれたちはきみの味方だ。とはいえ、何ができるわけではない。何せ、その力も経験もないから。だが、きみの邪魔はしない。それだけは約束する」
第一皇子が宣言すると、第四皇子をのぞくすべての皇子たちが大きくうなずいた。
「伯父上、あなたも観念した方がいいと思いますよ。赦してもらえるかどうかは別にして、心から恭順する意思表示をしておくべきです」
第一皇子は、さらに畳み掛けた。
宰相は両拳を握りしめてプルプル震えるだけで、何一つ言葉を発しなかった。
彼の頭の産毛たちも、プルプル痙攣みたいに震えているのがおかしすぎた。
皇帝陛下と皇妃殿下は、大広間から去った。
その際、どちらもなんとも言えない表情をしていた。とくに皇妃殿下の美貌は、自分が腹を痛めて産んだ実子の反抗や裏切りや失望などによるあらゆる感情で歪みまくっていた。
気の毒だけど、あらゆる人を守る為だから仕方がないわよね。
断頭台で「ジ・エンド」を迎えるより、よほどマシなはずだわ。
だれだって便秘で苦しむより命を失う方がイヤでしょうから。便秘で悩んで生を実感した方がよほどいいわよ。
さて、楽しいひとときは終わったけど、いまからは事後処理ね。
いま、槍玉にあげられるはずだった皇太子殿下が、立ち上がってあげるはずの人たちを堂々とした態度で見回している。
ほとんどが観念したのか、席上でしおらしく俯いている。
「みなも知っての通り、おれは陛下のお手つきの子だ。神託により、偉大なる司祭レナウト師より皇太子の座を託された。みなの不平不満は承知している。だが、この皇国をよりよきものにする為にはみなの協力が必要だ。この場にいる全員に頼みたい。力を貸してほしい。おれの為、ではない。この皇国と自分自身の為に」
皇太子殿下は、再度全員を見回してから頭を下げた。
だれもが当惑している。
それはそうよね。だって、皇太子殿下に不正を責められたり処断されるようなことはあっても、まさか協力を乞われることになるなんて想像もしていなかったでしょうから。