突如の反抗期?
皇太子殿下の雇われ悪妻は、裏でチマチマねちねち悪いことを企んだり動いたりするあんたみたいな男が一番大っ嫌いなのよ。
ざわついた。第四皇子の伯父である宰相はもちろんのこと、実母である皇妃殿下も彼を見ている。
「妃殿下、いったい何のことを仰っているのやら」
第四皇子は、こういう場面になったらかならず返す言葉をのたまった。
その慢性不眠症っぽい不健康な顔には、ひきつった冷笑が浮かんでいる。
可哀そうに、強がっているのね。
まあ、せいぜいがんばってちょうだい。
悪女悪妻のわたしを楽しませてよね。
「第四皇子、いや、ダミアン。おまえの悪だくみは、とっくの昔にバレている。このメモは、おまえと話をした後に、妃殿下がその話の内容をつぶさに書き記したものだ」
せっかくわたしが叩きつけてやろうと思ったのに、第一皇子にその楽しみを奪われてしまった。
そう。じつは、第四皇子との会話の内容すべてを書き記して第一皇子に見せたのである。彼は、そのことを言っているのだ。
っていうか、第四皇子ってダミアンって名前だったのね。
第一皇子が長テーブル上に放り投げたメモを、宰相がかっさらうようにしてつかみ取った。
それから、目を走らせた。
すごいわ。宰相は速読が出来るのね。
髪の毛は残念だけど、意外なスキルを持っているみたい。
「これは、どういうことだ?」
「宰相、いえ、伯父上。どちらを信じるというのです?甥を信じられないというのですか?」
「答えるまでもない。皇太子妃殿下の方が、よほど信じられる。おまえは、いつも何をかんがえているかわからぬ奴だ」
「バカな」
第四皇子は、言葉と唾を同時に吐き出した。
うわぁ、マナーがなっていないわね。
「ああ、そうだよ。ったく、子どものときからどれだけ尽くしてきたか。つまらぬ競争やいがみ合いに付き合わされてきたか。もううんざりなんだよ。あんたの考え方ややり方がな。だから、おれ自身がとってかわってやろうと思っただけだ。あんたらのやり方だと、いつまでたってもあのクソガキを追い払うことなど出来やしないだろうが」
第四皇子は、とうとうどこかがプツンと切れたか外れたかしたみたい。
立ち上がると皇太子殿下を指さし、怒鳴り散らしはじめた。
「おい、エンリケ。どういうつもりだ?おまえ、急に皇太子の座がほしくなったのか?だから、メグと組んでおれを陥れたのか。臆病なおまえが?突然、皇太子になりたいっていう野心に目覚めたのか?」
第四皇子は、一息つくとつぎは第一皇子に絡みはじめた。
っていうか、第一皇子ってエンリケっていうのね。
「ふんっ!おまえと一緒にするな。皇太子など冗談じゃない。おれの望みは、静かな暮らしだ。こんなくだらない争いのないところで静かに生活をしたいだけだ」
「なんだと、エンリケ?おまえまで、何を言い出すんだ」
宰相が気の毒になってきたわ。ここにきて、甥っ子たちが反抗期に入ったみたい。
産毛がすっかり逆立っている。
あれほど、ストレスもダメだって言ったのに。
「伯父上、ほんとうのおれは、ダミアンの言う通り臆病者です。面倒くさがりですし、野心など持ち合わせておりません。皇太子になどなりたくはない。いいえ。なりたいなりたくないという以前に、そんな器じゃない。皇太子は、アルノルドこそが適任です。伯父上、あなたもそう思っているのではないですか?」
「ぼくも第一皇子の言う通りだと思います」
第一皇子を擁護したのは、第七皇子である。
あいかわらずモジモジしてはいるけれど、立ち上がって必死に胸を張っている。