お父様がやってくれるわよ
「あらためまして、この度はお招きいただきありがとうございます。わたしは、愚女メグの父親ケン・オベリティと申します。この二人は、愚息のナオとトモです。皆様には、メグがお世話になっているようで心よりお礼申し上げます。そして、義理の息子であるアルノルド・ランディ殿下をしっかりと支え、助けていただいていますことも重ねてお礼申し上げます」
お父様は、深々と頭を下げた。
さすがよね、お父様。強烈な挨拶だわ。
ほら、宰相をはじめ官僚や貴族たちが居心地悪そうにモジモジしている。
「このような意義ある集まりが定期的に行われているそうでして、感服しきりでございます。お招きいただき光栄です」
また強烈な一撃ね。
「しかも、発言の場まで与えて下さるとは。恐縮しきりでございます。お言葉に甘えまして、しばしお時間をいただきます」
お父様が合図を送った。すると、お兄様たちが足元に積み上げている膨大な資料を長テーブルの上に積み上げ始める。
一冊一冊重ねるごとに、「ドサッ」と音がする。
この場にいるだれもが、その様子を目を丸くして見つめている。
「たしか、現状を踏まえた上でのメグの気持ち、でしたね。宰相閣下からのご説明も参考になりましたが、メグ本人からも彼女を取り巻く現状をきいております。ここに積まれています資料は、その現状を参考に作成したものです。スカルパ皇国の一部の領地に関する資料です。皆様もご存知の通り、メグは皇太子殿下に同道し、領地をまわっておりました。そこで見聞きしたことを参考にし、さる方にご協力いただいて作成いたしました」
お父様は、そう前置きをした。
宰相の産毛が輝く頭の下で、これでもかというほど驚きの表情が浮かんでいる。
皇太子殿下とともに領地巡りをし、そこで知った不正の数々。それを、第三皇子が奔走して裏をとってくれたのである。
最初は、監査機関の役人たちが調査を行っていた。だけど、いうまでもなく彼らは宰相たちに飼われている。ことごとく揉み消された。だから、あらためて第三皇子が調査し直してくれたのである。
その結果を踏まえ、わたしたち四人で資料を作成したわけ。
お父様は、各領地で行われている不正、過剰搾取、弾圧などなど、事細かに指摘していく。お父様は、資料を見なくてもそういう詳細を覚えているからすごすぎるのよね。
お父様が指摘していく領地は、いまここに集まっている人々の領地に特定している。もちろん、ここにいない貴族の領地でも不正などは行われている。が、それをこの場で並べ立てたところで意味がない。
意味があるのは、いまここにいる貴族のそれを指摘することなのである。
しかも、三分の一は宰相バルトロ・ロッシの縁戚や強く関わりのある貴族たちの領地である。
お父様からナオお兄様へ、それからトモお兄様へと順番に引き継がれて指摘が続いてゆく。もちろん、お兄様たちも資料の隅々まで覚えている。
ええ、わたしだけなのよね。記憶力が悪いのは。
それはともかく、ある意味苦行ともいえるこの嫌がらせを受け、だれもがうんざりしている。蒼白になったり驚いたりしている。
最終的には、みんな放心状態になった。
それもそうよね。いったい、どれほどきかされたのかしら?わたしもわからないくらいだわ。
ムダにごつくて硬い木製の椅子にずっと座っているから、痛くてお尻が悲鳴をあげている。
すべての資料の中身をぶちまけたときには、みんな天井とか壁とか机の上とかに「ボーッ」と目を向けていた。
「すこし長くなりました」
お父様ったらお茶目なところもあるのよね。「すこし長く」なんて、どういう時間の感覚をしているの?って言いたいわよね。
「メグの取り巻く現状は、お話しした通りこの皇国にとってよくないことばかりです。これらは、あくまでも氷山の一角にすぎません。皇国全体に及んだら、同様のことがもっと出てまいります。いま挙げ連ねた内容が何を意味するのか、将来どういうことを招くことになるのか、ここにいらっしゃる優秀かつ聡明な皆様方にはお分かりいただいているかと推察いたします」
お父様は嫌味を炸裂させつつ、全員を見回した。