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夫に呼ばれて

「ちっとも独創的ではございません。どれも素材の持ち味をいかすため、手を加えていないだけです。陛下や皇妃殿下も含め、ここにいらっしゃる方々すべてがムダに飽食されていらっしゃいます。その結果、ここにいらっしゃるほとんどの方が、お体になんらかの不調がございます。最たるものは、便秘です。アレが三日も四日も出ないなんてこと、どなたも経験がございますわよね?それは、皇妃殿下の最大の悩みの種なのです。ねぇ、皇妃殿下?」


 夫であるはずの皇太子殿下の母親に、にっこり笑いかけた。


 秘密を暴露され、皇妃はムカついているでしょう。


「それからこうして見回してみても、下腹部がでっぷりとされている方が多いですわ」


 意地悪な笑みとともに全員を見回した。


「アレが腸内でぎゅうぎゅう詰めになっているのです。それだけではありません。血圧が高くなったり、血管を詰まらせたりもします。心臓や脳の血管が詰まって御覧なさい。死にいたります。そういうことを回避する為に食材や調理法はもちろんのこと、食べ過ぎないこと、適度な運動を心がけること、そういうことで防ぐことが出来るのです。皇宮には広い森や庭園がございます。木々の発するきれいな空気を全身にあびたり、色とりどりの花々を愛でたりしながら歩くのも効果的です。みなさんが健康で充実した生活を送る為に、食事に気を遣うことと適度な運動を心がけることをお勧めいたします」


 そこでいったん言葉をきってから続ける。


「というわけで、今夜のレシピは先程申し上げたことの実践です。素材の持ち味をいかす為、最低限にしか手を加えておりません。まあ、舌の肥えまくっているみなさんには、見た目と味、双方において物足りないでしょうけど。騙されたと思って、素材のほんとうの味を味わってみて下さいな」


 ちょっとふざけすぎたかしら?


 だれもが言葉もなくうなだれている。


 皇太子殿下もわたしを睨みつけている。


 だけど、いまのは強烈だったはずよ。全員の食生活を根底から覆すような発言をしたんだから。それから、小賢しいアドバイスまで送ってやったんだから。


 皇太子殿下には、「よくやった」と褒めてもらいたいくらいだわ。


 その後、晩餐会は静かに行われ、そして終わった。


 わたしの発言が強烈すぎたのか、ラウラの存在はすっかり忘れ去られていたみたい。 



 晩餐会以降、わたしは思い当たることがあって自分なりに探りを入れていた。


 皇太子殿下の意中の女性、つまりラウラ・ガストーニについてである。


 どう客観的に見ても、彼女はおかしい。


 生い立ちを偽り、ついでに妊娠していることも隠している。それだけではない。探りを入れ、彼女の交友関係の広さを思い知らされた。


 っていうか、複数の男性といい仲になっているみたいなのである。


 あれだけ皇太子殿下に愛されていながら、皇宮内で他の複数の男性といい仲になるなんて……。


 その中の一人は、以前わたしが東屋で見かけた男性だった。


 第三皇子、である。


 双子の侍女にそれとなく尋ねてみると、ラウラは皇太子殿下よりも先に第三皇子に見染められたらしい。


 ラウラは巧妙に隠しているようだけど、皇宮内でイチャイチャする限り、ぜったいにだれかに見られてしまう。

 事情を知らないわたしですら、ああして目撃しているのだから。


 もしも皇太子殿下がだまされているのだとすれば、雇用主とはいえ気の毒である。


 彼女のことは、もう少し調べる必要がある。



 あるとき、皇太子殿下の執事から伝言を受け取った。


 皇太子殿下の執務室に行くと、すぐに腰かけるように言われた。


 雇用のことかしら?


 もしかして、悪女っぷりが足りないとか文句を言われるのかも。


 だけど、違っていた。


 急遽、イメルダ王国より王太子夫妻が訪れることになり、その歓迎会に同席するよう命じられたのである。


 イメルダ王国は、この大陸の西方地域にある大国の一つである。


「承知いたしました」


 ニッコリ笑って承知した。


 最初のときに公式の場に同席するよう言われている。だから、当然である。


「お話がそれだけでしたら、わたしは下がらせていただきます。目障りでしょうから」


 目障りどころか、不快きわまりないに違いない。


「メグ……」


 長椅子から立ち上がろうとしたタイミングで呼ばれたので、立ち上がるのはやめて視線を皇太子殿下へと戻した。


「失礼いたしました。まだ何かございますか?」

「い、いや……。そ、そうだ。ここでの生活はどうだ?」

「はい。お蔭様で思うようにすごさせていただいています。ただ、立派に悪女が務まっているかどうかはわかりかねますが。殿下はいかがですか?」


 尋ね返した瞬間、彼の表情が曇ったのを見逃さなかった。


 一瞬、ラウラの妊娠について尋ねてみようかと思った。


 もしも妊娠しているのなら、雇用関係は終わりを迎えることになる。


 わたしは彼から報酬を受け取り、故郷に、家族のもとに帰ることが出来るのである。


 家族も心配しているだろう。一応は、元気にやっていると手紙を送っているけれど、それでもわたしが何かしでかしやしないか、皇宮を追いだされて路頭に迷ってはいないかと、やきもきしているに違いない。


 だけど、妊娠についてなんてデリケートな話題である。ラウラ本人から「妊娠しているの」と打ち明けられたわけではない。わたしの勘にすぎない。勘違いということもかんがえられる。もしくは、ラウラは皇太子殿下を驚かせようと計画しているのかもしれない。何かのきっかけで打ち明けるという、サプライズをかんがえているのかも。


 そうだとしたら、わたしがバラしたらそれこそ台無しよね。


 まぁ、悪女としてはバラすのもありかもしれないけど。


 打ち明けるとしても、もう少し調べてからね。


「きみのお蔭で体調がずいぶんとよくなったよ」


 ラウラの妊娠のことをかんがえていたので、皇太子殿下の言葉をきき逃すところだった。


「わたしのお蔭?」

「ああ」


 彼は、立ち上がると執務机をまわってこちらに近づいてきた。そして、テーブルをはさんだ向かい側の長椅子に腰をかけて足を組んだ。


 美形は、こんなささいな行動でも絵になるのね。


 お兄様たちとは大違いだわ。


 双子の兄たちは、何をやっても泥臭いようにしか見えないんですもの。


 まあ、わたしはそれが好きなんだけど。


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