どうも納得出来ないんですけど
「二人とも、ちょっと待ってくれ。その神託はでたらめだ」
そのとき、無言だった第三皇子が口をはさんできた。
「アルノルドが、メグをほんとうの意味で迎えたときの保険だよ。事前に流しておいたデマなんだ」
「なんですって?」
「メグ、そんなににらまないでくれ。まさか皇子たちがそんな胡散臭い神託を鵜呑みにしているなんて。しかも、それを利用してくるなどとは思いもしなかったんだ。アルノルドが皇太子になるときとおなじさ。メグが神託で選ばれたレディだとしたら、神託で選ばれた者どうし完璧なカップルになると思ってね。そうなれば、アルノルドの皇太子としての地位安泰に一役買ってくれるとかんがえたんだ。というわけで、きみは「幸運の女神」でもなんでもない」
「そうだろうな。納得だ」
「なんですって?」
第三皇子の説明は、なるほどと納得出来た。
だけど、皇太子殿下が納得したことは許せない。
納得してほしくなかった。せめて、わたしを「幸運の女神」級に扱ってほしかった。
いいえ。想ってほしかった。
いやだ。わたしったら、何を勘違いしているの?皇太子殿下に想ってほしかった、だなんて……。
彼は、わたしを裏切っているわけじゃない
それがわかっただけで充分じゃない。
「まぁまぁ、メグ。もしかして、アルノルドもその神託を信じていて、彼もきみのことを利用しているんじゃないかって疑っていたとか?」
「ほら、お義兄様。だから言ったでしょう?妃殿下が知ったら誤解されますって」
「そうですよ。だれだって信頼が揺らいでしまいます」
カミラとベルタが第三皇子を責めた。
「おまえたちの言う通りだ。メグ、誓ってアルノルドはきみについての神託のことは知らない。仮に彼が知っていたとしたら、ちゃんときみに説明したはずだ」
「ええ、いまはもう大丈夫です。たしかに、殿下のことを疑ってしましたけど。だけど、殿下の先程の言い方は気に入りません」
「なんだって?だって、きみが『幸運の女神』ってありえないだろう?」
「そこですよ。どうしてわたしがありえないんですか?」
「やめてくれ、二人とも。そこは、また二人っきりのときに口論でも殴り合いでもしてくれ。いまは、今後のことについて話をさせてほしい。わたしたちがここで密談するのも時間にかぎりがあるからね」
第三皇子の言う通りだけど、どうも釈然としないわ。
それでも、その後は真剣に話をした。
そして、いっきに決着をつけるということで打ち合わせをはじめた。
結局、打ち合わせが終ったのは大分と遅くなってからだった。
ありがたいことに、だれにも気づかれていないみたい。
皇太子殿下とわたしとカミラとベルタは、第三皇子の執務室の窓から出てこっそり自室へと向かった。
自室に戻る前に、皇宮の厨房によることにした。
まだ夕食を食べていないからである。
頼めば当番の料理人が作ってくれるでしょうけど、この時間帯なら彼らも夜食を作り終えて一息ついているはず。まぁ悪妻としては、まったりしている彼らを厨房に戻らせて「いますぐサンドイッチとスープを作りなさい」と命じるべきなんでしょう。
正直、そういうことは面倒くさい。
だから、自分で作ることにした。
やはり、厨房にはだれもいない。
勝手に食材を使ったら、在庫管理をしている料理人に迷惑をかけることになる。料理長に「在庫管理を怠っている」と叱られるに違いない。
だから、メモを残しておくことにした。
全粒粉のパンにチーズに葉物の野菜にハムに卵にバター、それから葡萄のジュース。これらを五人分、もらうわよ。文句ある?といった感じで記した。それを、わかりやすいところに置いた。それから、風か何かで飛んでいかないように空き瓶を重しがわりにのせておいた。
手早く三人分作った。サンドイッチだから、あっという間に出来上がる。葡萄ジュースはピッチャーに入れ、グラス五個とともにワゴンにのせた。
ヤギの乳を発酵させたものは、冷暗室の片隅に置かしてもらっている。陶器製の保存瓶から五枚の深皿にそれぞれ移してワゴンにのせる。
木苺のジャムが目に入ったので、それをスプーンですくってヤギの発酵させたものの上にのせた。
ジャムのことはメモに書かなかったけど、まぁいっか。
それから、部屋に戻った。途中、カミラとベルタに、皇太子殿下と第三皇子に一人前ずつ届けてもらうことにした。
彼らもお腹がすいているでしょうから。
そして自室に戻り、二人が戻ってきてから食べはじめた。