第五(白豚)皇子にとどめの一撃を
「第五皇子に、究極の嫌がらせをメモで送りつけてやるの。じつは今日、彼を泣かしちゃったのよ。二人に見せたかったわ。だから、これはとどめの一撃というわけ」
カミラとベルタは、おたがいの顔を見合わせた。
双子って外見だけでなく、ちょっとした仕草や動作もおなじなのよね。
お兄様たちもおなじだから、よくわかるわ。
「読んでもいいわよ。感動ものだから」
ちょっと得意げになってたかしら?
「えっと……。ムリなく行うダイエットレシピにストレスの発散方法に自分に自信を与える自己啓発本の紹介……。それから、ムリなく続けられる運動……?」
カミラがベルタに読んできかせた。読み進める内に、そのあまりにも悪辣な嫌がらせな内容に声質が戸惑っているような響きを帯び始めた。
「すごいでしょう?泣かした上に、これでもかというほどの嫌がらせの内容のメモを送りつけられたら、彼は立ち直れないでしょうね」
「これが?」
「これが?」
二人とも感心を通り越し、わたしを軽蔑しているのかしら?
唖然としているわ。
でも、ちょっと気持ちいいわね。
って、優越感に浸っている場合じゃないわね。
カミラがメモを届けに行ってくれた。
ベルタといっしょに、第三皇子の執務室に向かった。
第三皇子には専属の執事や侍女はいない。皇宮では、第三皇子は皇太子殿下同様浮いた存在である。代々、ナルディ公爵家の男児は皇族に表向きは養子として迎えられる。裏の顔である諜報員として活動する為である。だから、これまでナルディ公爵家から養子となった皇子が皇太子になった事例はない。
他の皇子たちが第三皇子の存在自体を無視しているのはそういう訳なのである。
そして、第三皇子じたいも他の皇子たちと交わることはない。わざと無能の変わり者として振舞っている。だから、彼が皇太子殿下とつるんでいたとしても、脅威や敵意を抱かれることもない。
皇帝と皇太子、それから彼らがみずからの判断で告げる者のみ知る真実。それが、ナルディ公爵家の諜報員としての存在なのだ。
というわけで、第三皇子は皇宮に執務室や寝室はあるものの、特に執事や侍女を置くこともなくある程度自分のことは自分でやっているわけである。
「やあ、メグ。入ってくれ。紅茶はいかがかな?」
控えの間に入ると、第三皇子が知的な美形にやさしい笑みを浮かべて迎え入れてくれた。
控えの間の隅にワゴンが置いてあり、そこにティーセットが準備されている。
「いただきます」
「第三皇子、わたしが」
「いや、かまわない」
いただく旨を伝えると、ベルタが自分が紅茶を淹れると申し出た。だけど、第三皇子はその申し出を笑みとともに断った。
義理の兄妹なのに、皇宮ではそういう素振りも見せられないなんて大変よね。
そんなふうに思っていると、第五皇子のところにメモを届けに行ってくれたカミラがやって来た。
三人で執務室に入った。
先に来ている皇太子殿下が、ソファーから立ち上がって迎えてくれた。
「メグ」
美形に浮かんでいるうれしそうな表情にドキッとした。
これが、すべて嘘や演技だというのかしら?
到底信じられない。
「会いたかったよ」
彼は、わたしの前に立った。そして、両腕を広げると当然のように抱きしめた。
それが、心地いいと思った。
そう思ってしまったことに、自分でも驚いてしまった。
「一日、皇子たちの相手をして疲れただろう?さあ、座って。二人も座ってくれ」
そして、当然のように彼と並んで座った。
第三皇子が淹れてくれた紅茶は、ジンジャーティーだった。
ジンジャーのさわやかで甘みのある匂いが鼻をくすぐる。