メグと第四皇子
「そうだな。どうやら、バカどもはきみを味方にしたいらしい」
「まぁ……。わたしを味方に?わたしを味方にしたって何の得にもなりませんのに。それどころか、借金の肩代わりをさせられるだけかもしれませんよ」
小説に出てくる貴族のご令嬢のように、手で口許をおおって優雅な感じで笑ってみた。
「きみは、ほんとうに面白いな」
彼が褒めてくれた。
でも、その褒め言葉が美しいとか素敵とかではなくて面白いっていうところが面白い。
「あら、最高の褒め言葉ですわ。では、あなたもですか?あなたもそのバカどもの一人なのかしら?」
わたしってば絶好調よね。
「そうだなぁ。他のバカどもとは違う意味でのバカかもしれない。だってそうだろう?他のバカどもは、後ろ盾に命じられてやっているだけだ。ああしろ、こうしろ、という具合にね。いつもそうだ。だが、おれは違う。根本的に違う。自分でかんがえ、実践している。つまり、おれは自らの意志できみに会っているわけだ。ひとえにアルノルドを、あの売女のクソガキを皇太子の座からひきずりおろし、おれがその座につく為にね」
彼は、口を閉じてニヤリと笑った。
「だってそうだろう?売女のクソガキが皇太子などと信じられるかい?それにふさわしい才覚や力があるのならまだしも、どちらもまったくないときている。しかも、あいつがやろうとしていることが何か……。クソ平民どもが暮らしやすい世の中にするっていうんだ。さすがは売女のクソガキだけのことはある。これできみもわかっただろう?やつが皇太子にふさわしくない、ということが。というわけで、皇太子の座は、おれがつくにふさわしい」
ふーん。不眠症で眠れないものだから、ついつい奇想天外な妄想を抱いてしまうのね。
気の毒すぎるわ。
だけど彼のいまの発言で、彼が皇子たちの中で一番厄介かもしれないということがわかったわ。
まだ第一皇子には会っていないけど、彼は同腹の兄すら眼中になくって平気で皇太子になってみせると妄想を抱いているくらいですもの。彼が傲慢で身の程知らずということを差し引いても、第一皇子は彼よりへたれなのかもしれないわね。
「どうだい、メグ?きみも、あいつはもちろんのこと他の皇子たちよりおれについておいたほうがいいぞ。本当の皇太子妃にしてやる。愛妾にうつつを抜かされるようなお飾り正妃ではなく、な。伯父貴や母上とは関係なく、おれたちでこの皇国を支配するんだ」
だまっていると、彼は調子にのってきた。
彼の皇太子殿下に対することもそうだけど、この国の人たちに対する考え方も気に入らないわ。
ダメダメ、わたし。落ち着くのよ。いまはまだガマンするの。
彼ったらすっかり調子にのっているから、もっと囀ってくれるかもしれない。
言葉には出さず、彼の提案について興味があるような素振りを示してみた。
つまり、淑女っぽく控えめな笑みを浮かべてみたのである。
「えっ?もしかして、支配するだけでは足りないとか?それとも、おれの力を疑っているのかい?いいだろう。だったら、特別に教えてやるよ。どうせきみとはいっしょになるんだし」
彼はますます調子にのってきた。最高潮って感じ。
っていうか、どうしてわたしが彼と一緒になるの?それ、どういう自信なわけ?
「ラウラがいるだろう?きみを辱めているあの売女だ。じつは、あのクソ売女をけしかけたのはおれなんだ。アルノルドはもちろん、第一皇子たちにもな。それとは別に、アルノルドや多くの連中に皇太子の座を狙っているのが伯父貴と第一皇子って思わせている。たしかに、伯父貴も狙っていないわけではない。だが、その野心はおれに比べれば大したことはない。それこそ、命や地位を賭けてまでな。第一皇子にいたっては、まったくそんなつもりはない。あれは、ダメだ。伯父貴や母上の手前、しっかりしている風を装ってはいるが、真実はただの弱虫で気弱なやつだ」
なんてことなのかしら。この夢みるバカは、とんでもないことを囀りはじめたわ。