プレイボーイ系の皇子たちに暴言を
第六皇子は、申し訳ないけど残念だった。
見てくれだけである。それ以外は何もない。
後ろ盾がどうのこうのというのとは別に、ただ単純にわたしを口説き落としたいらしい。どうやら、第二皇子も同類らしい。どちらが先に口説くことが出来るか、勝負、いえ、賭けをしているとか。
しかも、負けた方が勝った方に自分の愛人の中で一番の美人を譲るらしい。
バカじゃないの?レディを賭け事の景品、というのかしら。対象にするわけ?
さすがに、これにはカチンときた。
これだったら、良心の呵責など感じない。
「皇子殿下、モテるのはいまのうちだけですよ。皇太子殿下が皇帝の座についたら、腹違いの兄にすぎないあなたは、ただの皇族の一人というだけですわ。これでハゲたりデブッたりしたら、目も当てられません。いまいる複数の愛人たちも、いまの皇子という立場に惹かれているだけです。その立場がなくなったら、彼女たちはさっさとあなたの前から去るでしょう。レディのお尻ばかり追いかけていないで、将来に備えるべきですわ。それから、レディをバカにしないで大切にすること。よろしいですわね?」
第六皇子と第二皇子は、皇太子殿下の敵になりえない。
もちろん、わたしを口説き落とすなんてことも出来ない。
フツーに叱ってやった。
ちょろいものよね。
さっさと彼の前を辞した。
さわやかな笑みを残して。
さあ、次よ。
プレイボーイ系を先に攻略しておくことにした。
だから、急遽順番をかえてもらった。
第二皇子の執務室に押しかけたのである。
執事の制止をものともせず、カミラとベルタを従え急襲した。
執務室の扉を音高く開けてやった。
「うわっ!」
第二皇子は、執務机上に道具を広げて爪の手入れをしていたらしい。
彼は、文字通り椅子から飛び上がった。
「ああ、くそっ。せっかく乾かしていたのに」
そして、左手を見つめて舌打ちをした。
「約束の時間より早いことは重々承知しております。ですが、一刻も早くお会いしたかったのです」
「へー、そうなんだ」
彼は、キザな笑みを浮かべた。
第六皇子と比較したら、顔の美しさは劣る。だけど、彼は言葉巧みである。
レディをよろこばせ、有頂天にする系の言葉に関してのみだけど。
彼もラウラをひっかけたに違いない。というよりかは、彼女とひっかけあったに違いないわね。
第二皇子は他の皇子の婚約者や好きな人を奪い取ることを、ライフワークにしているみたいだから。
ラウラとどっちもどっちよね。
彼が皇宮内でご令嬢や侍女たちを口説いているのをよく見かける。
そういえば、わたしには一度も声をかけてこなかったわね。
どうしてかしら?
まぁ、表向きは皇太子殿下の妻ですものね。
下手に手は出せないわよね。
「そうだったんだ。もう少し待ってくれないかな?残り五本だから」
彼は、右手をヒラヒラさせた。
何が「そうだったんだ」なのかはわからないけど、五本分の指の手入れが終わるまで待つ時間がもったいない。
「お取込み中申し訳ありません。ですが、急いでいただかなくって結構です。すぐに退散いたしますから」
意地悪な笑みを浮かべてみせた。
執務机に近づくと、彼の自慢の爪を見下ろした。それから、自分の両手を差し出した。
「ずいぶんときれいな指ですね。何もされていない、不自由さなど欠片も知らない指です。わたしのをご覧になって下さい。手は、長年の家事や農作業やその他もろもろの作業でボロボロです。爪なんて、伸ばしていては何かにひっかけて割れてしまったり、家畜を傷つけてしまったりします。ですが、わたしは自分の手が大好きです。家族や家畜たちの役に立っているということが実感できますから。見てくれだってそうです。どれだけ着飾っても、それはあくまでも外側が美しいというだけです。中身が伴わなければなりません。ほんとうの美しさは、中身が伴ってこそです。あなたも、このさきいまの地位が安泰というわけではありません。中身を磨いて、真実の愛を見つけて下さい。一人の女性を心から愛し、しあわせにしてあげて下さい。このことだけを伝えたかったのです」
手をひっこめると、もう一度意地悪な笑みを浮かべてみせた。
どうよ?これこそ、究極の嫌味よ。いらんお世話って感じよね。
心の中は、やってやったという感にじわじわ満たされつつある。
カミラとベルタを連れ、第二皇子の執務室を後にした。
残りは第一、第四、第五皇子よね。
三人は、皇妃殿下の産んだ皇子たち。そして、宰相の甥っ子でもある。
この三人こそが最大のターゲット。
わたしの本領発揮よ。悪妻っぷりを知らしめなきゃ。