本領発揮よ
翌日、お父様とお兄様たちは、宰相たち官僚との会食があるということで行ってしまった。
わたしは、朝から皇子たちにお茶を飲まないかと誘われている。
厳密には、第一、第二、第四、第五、第六、第七皇子からである。つまり、第三皇子以外からお声がかかった。
誘われたのがわたしの美しさにほだされて、というわけじゃないから残念すぎる。
カミラとベルタと話し合い、とりあえず順番に会ってみることにした。
当然、どの皇子も晩餐会やちょっとしたお茶会などで何度か会っている。偶然、庭園や宮殿内でばったり会えば話をしたりもしていた。
だけど、今回は違う。
どの皇子も後ろ盾からの指示に従い、わたしを味方につけなければならない。
彼らも大変である。つくづく気の毒になる。
第七皇子は、皇族の中でもめずらしく痩せてひ弱そうな青年である。顔はそこそこイケているけれど、いつもおどおどと周囲の顔色をうかがっている。
性格が気弱すぎ、自分自身にまったく自信を持てないでいるみたい。
こんな皇子が皇太子や皇帝になったら、おならをするのですら周囲に許可を求め、それが出てはじめてしそうである。
彼と小一時間東屋でローズティーを飲んだが、あまりにも気弱すぎて向こうから話しかけてくることがない。時間ばかりがすぎてゆく。
途中、何度か話を振ってみた。
彼は弱弱しい笑みを浮かべるか、テーブル上に視線を落とすだけである。
こちらが恥ずかしくなりそうなほどモジモジしつつ。
埒が明かない。
嫌われたり憎まれたりする為とはいえ、こんな気弱な皇子に悪口雑言を叩きつけるのは気がひける。
それでもやらなければ……。
はぁぁぁっ。悪妻を演じるのもつらいわよね。
「皇子殿下、趣味とかお好きなことってありますか?」
そう尋ねると、彼は気恥ずかしそうに「読書」と口の中でつぶやいた。
「読書?わたしもですよ。どのようなジャンルがお好きなのですか?」
さらに尋ねると、意外にも経済や政の分野と口の中でつぶやいた。
だから、この国の経済や政について意見を求めてみたくなった。だから、彼の執事と侍女たちに下がるよう申しつけた。
彼らがいては、彼も思うように自分が感じていることや思っていることを言えないだろうから。
二人がいなくなると、彼はおどおどしながらポツリポツリと語りはじめた。
「皇子殿下、しっかりなさいませ。周囲に頼りすぎです。依存しすぎです。従順すぎます。あなたは、自分に自信を持つべきです。あなたのかんがえや思いを、周囲に伝えなさい。もしも周りの人たちが間違っていたりおかしなことを押し付けてきたら、正しなさい。断わりなさい」
彼が言葉を出し尽くしてから、今度はわたしが暴言を叩きつけてやった。
心苦しいけど、立ち直れないほど彼を傷つけないといけない。
「このままでは、あなたは負け犬のままです。ただの負け犬皇子です。口惜しかったら、いま持っている知識や意見をちゃんとした場で披露してみたらいい」
吐き捨てるように言ってから立ち上がった。
「お茶の時間をご一緒出来てよかったわ。次の約束があるので失礼します」
テーブル上に視線を落としたままの彼に、そう叩きつけて立ち去った。
もったいない。彼は、クズ皇子なんかじゃない。
おとなしくって従順なだけ。
彼なら、皇太子殿下を立派に支えてくれるでしょうに。
残念に思いながら、次なる皇子に会いに行った。