家族との再会
「殿下、宰相に呼ばれました」
執事の気配がなくなってから、彼にささやいた。
小説のようにどこでだれが聞き耳を立てているかわからない。ついついささやき声になってしまう。
「やはりな。でっ、なんて?」
「とくに何も。父と兄を呼びよせたので会ったらいい、と。いまから行こうかと思います。そこでぜひ、殿下にも会っていただきたいのです」
「もちろん」
「カミラとベルタにも同道してもらいます」
「ああ、その方がいい」
彼はクローゼットに行くと、紺色のジャケットを羽織りながら戻って来た。
「執事はついて来ないのですか?」
「来るものか。執事は、宰相派のスパイだ。来させる必要はない」
二人で彼の寝室を出た。
その様子を、執事が柱の蔭からそっと見ていることに気がついた。
「そしらぬふりをして欲しい」
大廊下をあるいていると、彼がささやいてきた。
「護衛の兵士たちもそうだ。あいつらも宰相や他の派閥に飼われている。あいつらは、おれを護っているんじゃない。おれを見張っているんだ」
彼は、続ける。
「きみとさまざまな領地をまわって領主たちの不正を暴いても、たいていは揉み消される。きみも見聞きしている通り、領主の中には領民から不当に、あるいは過剰に搾取している者がいる。自分の利益にしたり、皇都にいる有力者に献上する為だ。情けないが、それをわかっていても正すことが出来ないのが現状だ。せっかくきみと調べ上げても、何も出来ない。調査をさせてはいるが、すべて揉み消されてしまっている」
彼の左斜め後ろを歩きながら、口惜しさの入り混じった言葉をきいている。
「すまない。きみに愚痴っても仕方がないのにな。さあ、メグ。ここで待っているから、カミラとベルタを呼んでくるといい」
彼は、体ごと向き直った。
その美形には、疲れがにじんでいる。
そういえば、領地をまわっているときは明るいのに、皇宮にいるときはじゃっかん表情が暗くて硬い気がする。
彼にうなずいて見せると、カミラとベルタを呼びに行った。
彼の為に何か出来ることはないかとかんがえつつ、大理石のつやつやした床を早歩きした。
「うおおおおおっ!」
「うわあああっ!」
「わあああああっ!」
客殿に行き、客殿付きの侍従にお父様たちの部屋に案内してもらった。
部屋に一歩踏み込むなり、お父様とお兄様たちが雄叫びを上げた。
そして、そうと気がつくまでに三人に抱きしめられていた。
っていうか、もみくちゃにされていた。
「ああ、メグ。元気そうじゃないか」
「メグ、わが妹よ。あいかわらずだな」
「メグ、メグ。愛しい妹よ」
三人でギュウギュウ抱きしめてくるものだから、苦しくてならない。
「お、お父様、お兄様、く、苦しいわ」
「おっと、ついうれしくて」
三人に訴えると、ようやく解放してくれた。
そこであらためて三人を見た。
三人とも、あいかわらず血色が悪い。痩せてもいる。
お父様とお兄様たちは、もともとスラリとしていて美形である。
お父様は渋い美形、お兄様たちはやさしい美形。
上のお兄様は、やさしく知的な美形。下のお兄様はやさしく可愛い美形。
それでも、三人とも日頃の農作業や土木作業のせいで筋肉質である。
「お父様もお兄様たちもお元気そうで何よりです。三人とも、またすこし痩せましたか?」
尋ねると、三人はお互いに顔を見合わせた。