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皇宮に戻って来た

 門番たちは、荷馬車が臭いから通せないと言った。


 なぜ?たしかに、荷馬車に積んでいるのは糞である。なんの糞かはわからないけれど。

 だけど、皇都内にも農業をしている人はいる。植物園や公園もある。


 つまり、肥料が使われる場所はたくさんある。


 園芸屋とか花屋とか雑貨屋とかでも、肥料は売っているはずよ。


 そういうお店などがどこかからか仕入れて来た肥料なども、ダメだって言うのかしら?


 皇太子殿下は、だんまりをきめこんでいる。


 表立っては、わたしにやさしくとか気遣うってことが出来ないからである。


 仕方がないので、門番たちには「これは第三皇子から皇太子殿下への貢物だ」と告げた。


 まったくの嘘ではない。


 さらに「皇宮内で使用する」と言うと、門番たちは渋々通してくれた。


 その際、彼らは嫌がらせみたいに荷台をさらなるシートで覆ってしまった。


 皇都内を進んでいても道ゆく人々がかならずこちらを見た。


 馭者台にいる乗馬服姿のわたしを見、だれもが表情を険しくする。悪気のない子どもたちは、臭い臭いと声高に叫び、親たちを慌てさせた。


 気がつけば、護衛の兵士たちと距離があいていた。皇太子殿下とラウラの乗る馬車も、ずいぶんと後ろの方をついてきている。


 そんなわけで、皇宮に入る門でもひっかっかってしまった。


 当然、同じ言い訳を連ねた。


 とりあえず、荷馬車は厩に置いておくことにした。


 一瞬、肥料が盗まれやしないかとかんがえた。が、そもそも皇宮内で盗もうものなら即極刑である。


 盗もうなんて魔がさすバカは、そうそういないでしょう。



 皇宮に戻ると、皇宮そこで働いている人たちが出迎えてくれた。


 もちろん、先に戻ったカミラとベルタもいる。


 二人は郷里で不幸事があったからと皇都を出、皇太子殿下とわたしに皇宮で起こっていることを報告に来てくれたのだ。


 だけど、わたしと会った瞬間、なぜかだれもが「うわっ!」という表情になった。


 乗馬服に肥料のにおいがしみついていたみたい。


 みんなの「おかえりなさい」に迎えられた後、カミラとベルタに強制的にお風呂に入らされた。乗馬服は、洗濯にまわされてしまった。


 その日は、とりあえず部屋に食事を運んでもらって食べ、寝台に倒れてそのまま落ちてしまった。


 久しぶりに、部屋に一人っきりである。


 最近は第三皇子のナルディ公爵家の領地だけでなく、いろんな領地をまわった。基本的には領主の屋敷や城に泊まらせてもらうのだけれど、そこで提供してくれる部屋はつねに皇太子殿下と同室だった。


 一応夫婦だから、社会的には問題ない。それが当然であり自然である。だけど、個人的には気になってしまう。


 田舎では、狭くてボロボロの小屋・・に家族四人で身を寄せ合い、眠っていた。そういうのとはわけが違う。


 だから、皇太子殿下に気を遣って仕方がない。その為、慢性的な寝不足に陥ってしまった。


 唯一、最後の夜くらいね。ほんとうの意味での婚儀をやった後の初夜。あのときだけだった。


 ぐっすり眠れたのは。


 というわけで、皇都に戻って部屋に一人っきりで眠ったその夜もぐっすり眠れた。


 目が覚めたのは、翌朝だった。




 宰相の名は、バルトロ・ロッシ。彼は、表向きは名宰相として活躍している。しかし、彼は反皇太子殿下派の筆頭である。というのも、皇妃の兄だからである。皇妃は、第一、第四、第五皇子の母親である。


 三人の皇子たちのだれかに玉座を継がせたいと思うのは、当然のことかもしれない。


 宰相が会いたいという。なにやら、わたしを驚かせたいことがあるとか。


 それが何かはすでに知っている。だけど知らないふりをして、こちらから会いに行くことにした。


 彼の執務室は、皇太子殿下のそれよりも立派である。ムダにどうでもいい飾り物や置き物で溢れかえっている。


 これみよがしに所有物をひけらかすなど、その人物の器量がしれるわよね。


 彼には何度か会っている。彼に会うたびに、電気ネズミにそっくりだと感心してしまう。


 側によると、「ビビビッ」ときてしまいそうである。


 この場合の「ビビビッ」は、恋愛による衝撃ではない。


 ほんとうの意味での感電である。

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