お父様とお兄様たちを?
「お姫様抱っこはともかく……。メグ、すまない。『一人の高貴な美女を巡って皇子たちが戦う』という意味がわからないのだが」
「フレデリクの言う通りだ。メグ、どういう意味だ?」
「皇太子殿下も第三皇子もいやですわ。言葉どおりじゃありませんか」
シンと静まり返った。
遠くの方で小鳥たちの囀りがきこえてくるような気がするのは、きっと気のせいね。
「ピシッ」
教会内のどこかで、突然大きな音がした。
その突然の音に、五人そろってベンチから飛び上がってしまった。
古い建物ですものね。壁とか屋根とか床とか、悲鳴を上げたくなる時もあるわよね。
「いや、メグ。きみは、勘違いをしているのではないだろうか」
「フレデリク、彼女は本が大好きなのです。想像力が豊かってわけです」
「ど、どういう意味なのですか?失礼ですね、二人とも」
思わず、腐ってしまった。
カミラとベルタは、なぜかわからないけどクスクス笑い続けている。
「妃殿下。宰相は、ご家族に使いを出しました」
「ええっ?ご家族ってお父様とお兄様たち?」
ベルタは、ひとしきりクスクス笑いを続けた後真剣な表情でまたもや衝撃発言をした。
「三人に何の用なの?わたしの親兄弟というだけの存在なのに」
田舎者の落ちぶれ親子を、いったいどうしようっていうの?
都会の人って、いったい何をかんがえているのかしら?
理解に苦しむわ。
「おそらく、きみを味方につける為の保険だろう。家族に説得してもらおうっていう算段かもしれない。見返りに、故国の王座復帰の協力をするとかなんとかをひけらかせてね」
「はあああ?」
第三皇子の推測は、さらに戸惑わせる。
いまさら故国の王座も何もない。そんなもの、家族のだれも欲しやしない。
そんなことより、その日の糧を心配せずに家畜たちとまったり暮らす。平穏でのんびりした毎日を送る。
もしも家族が何かを欲するとすれば、そういうことを欲する。
王座どころか、田舎を出て行くことすら嫌がるでしょう。もっとも、わたしが困っているとか、来てほしいと言っているとか言われれば、三人で来てくれるでしょうけど。
それ以外では、すくなくとも自らの意志で都会に出てくることなどないわ。
ましてや、そこで生活する、なんてことも。
「そうだわ。そんなにわたしや家族を味方にしたいんだったら、すべての人にわたしの嫌なところを見せつければいいのよね。今度は大丈夫。コツはつかんでいるから、いまからは磨きのかかった悪妻を演じられるはずよ。ついでに、父や兄たちにもそのように振る舞ってもらえばいい。悪妻とその悪家族ってわけ。四人でひっかきまわしてみんなを幻滅させるの。すぐにでも用なしって思わせられるわ」
わたしってばすごい。戦記物に出てくる有能な参謀みたい。もしくはスマートな政治家ね。
完璧な作戦だわ。
ほら、皇太子殿下も第三皇子もカミラもベルタも感心している。
無言のままわたしに熱い視線を向けてきている。
「それはムリだろう」
「それはムリだと思います」
「ムリ、ですよね?」
皇太子殿下とカミラとベルタがつぶやいた。
「まぁまぁ。彼女はともかく、彼女の家族はまともかもしれない。おれからも話をしてみる。アルノルド、作戦変更だ。きみは、このままラウラといい仲を続けるんだ」
「しかし、ラウラがバラしやしないだろうか」
「彼女はすでに見捨てられている。彼女の言葉など、だれもききやしない。きみはラウラの子どもが自分の子だと信じた風を装い、表立っては彼女を気にかけているふりしてくれ。それと、メグには冷たくな。カミラ、ベルタ。おまえたちは、メグの側について見張る、あ、いや、守るんだ」
第三皇子の知的な美形がこちらを向いた。