メグ、皇子たちに狙われる?
「あの後、そのときの侍女たちからうらやましがられました。だれもが『侍女のことを心配してくれる主人なんていないわ』と言っていました。あなたが『ドジな娘』と言っただけでは、傲慢にも悪っぽくも感じられなかったのですね」
ベルタもまた、両肩をすくめた。
なんてことなのかしら。
わたしにとって、「ドジな娘」は最高の罵倒だったのに。
「ショックだわ。わたしの思いがみんなに通じなかったなんて」
溜息が出てしまった。
その瞬間、だれかがプッとふいた。
すると、みんな笑いはじめた。だから、わたしも笑うしかない。
「先程の妃殿下のご質問ですが……。皇太子殿下は、愛妾のラウラに首ったけで妃殿下を疎ましく思っているように周囲に見せています。それを信じきっている宰相派やその他もろもろの派閥は、それを利用するようです。妃殿下、皇子たちがあなたを狙っています。皇子たちは、皇太子殿下とあなたを離縁させるつもりです。そして、あなたを妻に迎えるつもりなのです。もちろん、第三皇子、つまり義兄は違いますが」
「なんだって?」
「なんですって?」
ベルタの衝撃発言に、またまた皇太子殿下とかぶってしまった。
「ラウラが出自を偽っているのも、向こうにとっては有利に働きます」
「おいおい、カミラ。それは、連中がそうするよう入れ知恵したんだろう?」
「殿下、それはあくまでもわたしたちの推測の域を出ません。ラウラは、あくまでも出自を偽る男癖の悪い元侍女です。皇宮内の人々の認識がそうなのです。向こうにしてみれば、入れ知恵の有無よりもその認識さえあればいいのです。そんなラウラと隣国の元国王の孫娘という存在……。しかも、その孫娘は皇宮で絶大な人気を誇っています。二人のどちらを味方につければいいのか、あるいは妻にしておけばいいのかは申すまでもありません」
カミラの言葉を他人事のようにきいてしまっているけど、元国王の孫娘ってわたしのことよね?
やだ……。
それってまるで小説に出てくる「亡国の王女様」だわ。しかも、男性を一瞬にして虜にするような絶世の美女よ。
「大陸一」とか「この地域で一番」とか、そんな謳い文句のついている美女って設定よね。
そして、作中ではたいてい王女を巡り、皇子たちの間で熾烈なアピール合戦が繰り広げられるのよ。
「メグ、メグ?どうしてそんなににやけているんだ?いまの話に、にやにやするような要素はなかったはずだぞ」
「殿下、だって面白いじゃありませんか。一人の高貴な美女を巡り、皇子たちが戦うのですよ。わたしにとったら、お姫様抱っこと同じくかなえたい夢なのです」
「お姫様抱っこ?」
「お姫様抱っこ?」
「お姫様抱っこ?」
「お姫様抱っこと同じくかなえたい夢?きみにはまだ夢があるのか?」
第三皇子とカミラとベルタと皇太子殿下がかぶった。
彼らにお姫様抱っこのことを話してきかせた。
「これは面白すぎる。アルノルドが?バラ園から屋敷の寝室まで、アルノルドがメグを抱っこして運ぶのか?」
「素敵。妃殿下、お気持ちわかります」
「素敵ですね。女性でしたら憧れますよ」
「フレデリク、そうなのです。五か年計画くらいで達成出来ればいいと思っています」
四人がまたかぶった。
って、皇太子殿下?お姫様抱っこは、あなたの中でとうとう五か年計画になってしまったわけ?
それって、国家や民間事業のレベルをかなり上回っていませんか?