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とんでもない噂

「アルノルド。きみが各領地を見回っている間に、とんでもない噂が流れている。きみが愛妾、つまりラウラといっしょになりたいが為に、メグをどうにかしようとしているとね。領地を連れまわしている間に、精神的にも肉体的にも追い詰めるとか、追い払ってしまうとか。それだけじゃない。きみはラウラが出自を偽っているのを知っていて、それでも皇太子妃にするつもりでいると。懐妊を理由にね。当然、メグは子どもを産めない体とかなんとか嘘を並べ立てる。そうなれば、本物のメグが邪魔になる。だから、殺す機会を狙っている、なんて噂もある」

「そんなバカな。むちゃくちゃすぎる」

「そうですよ。穴だらけの噂じゃないですか」


 皇太子殿下とまたかぶってしまった。


 第三皇子の語った噂とやらは、矛盾や穴が多すぎて滑稽だわ。


「あくまでも噂にすぎない。その内容が矛盾だらけだろうと胡散臭かろうとどうでもいいことだ。ようは、皇太子が皇太子妃をどうにかしたがっている。それさえわからせればいいだけのことだ」

「そんなこと、だれが信じるのです?」


 不可思議でならない。根も葉もない噂を、だれが信じるというの?


「メグ、いまやきみは皇宮で絶大な信頼と人気を得ている。だから、きみの身が危険だということになれば、だれもがきみを助けたいと願う」

「そんなバカな。だって、あれだけ他人ひとが嫌がることをしまくったというのに……」


 言いかけてハッとした。


 そうだったわ。一生懸命悪妻を演じたのに、その行動すべてが逆効果、つまり良い行動や行為になっていたんだった。


「それにしたって、皇太子殿下ご自身の人望があるでしょう?つい最近あらわれたわたしなんかより、殿下の方がよほど信頼や人気があるはずです」

「ないんだ」


 皇太子殿下は、わたしの言葉をつぶやくように否定した。


「はい?」


 意味がわからず、彼を見た。


「信頼も人気も人望もない。ついでに言うと、人脈も後ろ盾もまったくない。おれは、皇帝のお手つきの子だ。死んだ母は、皇宮の侍女の中でも最下級だった。だから、何もない。あるのは皇太子という望みもしない地位と、フレデリクという友だけだ。そうだな。いまは、メグ。きみもいてくれているな」


 なんてこと。


 でも、よくそんなので皇太子になれたものよね。


「他の皇子たちが、それほどクズばかりだということだ」


 当然抱く疑問に、皇太子殿下は即座に応えてくれた。


「母は、おれを産んですぐに亡くなった。お情けで皇宮に置いてもらった。いつも一人だった。だれかが絡んで来るときは、おれを蔑むときだけだ。他の皇子とその母たちはもちろんのこと、執事や侍女や料理人や庭師までおれをバカにし、嘲笑した。食事すら満足にあたえられなかった。唯一、第三皇子、つまりフレデリクだけだ。彼だけが、おれを気にかけ味方でいてくれた。おれが生きているのは、いや、おれという存在がいまあるのは、彼のお蔭だ」


 皇太子殿下の告白は、彼との初対面で雇用結婚のことを叩きつけられたこと以上に衝撃的だった。


 こんなの、小説のまんまじゃない。


 ということは、彼はそれが口惜しくっていろいろ学んだのね。本をたくさん読んで知識を得、剣とか武術とかも見様見真似で練習したはずよ。それこそ、寝る間も惜しんで努力を続けた。


 その努力が実を結んだ。他のクズ皇子たちよりずっとずっと優秀で、それが父である皇帝陛下の目にとまった。


 皇子の一人としてすら数えられなかったのに、皇太子殿下に選ばれたという王道の成り上がりストーリーね。


 わたしは、結末がわかっているのにそういうストーリーが大好きである。底辺から成り上がる。しかも、皇太子や皇帝、王太子や国王となれば、究極のサクセスストーリー。


 他の皇子やら王子たちの口惜しがったり呆然とする描写が、またたまらない。


 お兄様たちは、「しょせん小説だよな」とか「結末はどれも同じじゃないか」とバカにしていた。だけど、そういうある意味パターン化したストーリーは安心して読み進められる。


 当然、バッドエンドよりハッピーエンドの方が読んでいて楽しい。



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