再会と正体
「フレデリク、いったいどうしたのです?」
驚いたのは皇太子殿下だけではない。わたしも驚いてしまった。
わたしたちを待っていたのは、ラウラを連れて皇都に戻ったはずのフレデリク・ナルディだったからである。
「皇太子妃殿下」
「皇太子妃殿下」
「まあっ!あなたたち」
さらに驚いたことに、わたし専属の侍女のカミラとベルタの双子の侍女までいるじゃない。
皇宮にいるはずの二人が、である。
驚きはすぐに去った。祭壇の前で皇太子殿下に挨拶している二人に駆け寄り、思わず二人まとめて抱きしめてしまった。
「まさか会えるなんて思わなかったわ」
「妃殿下、お元気そうでなによりでございます」
「妃殿下、お会いしたかったです」
「カミラ、わたしはすっごく元気よ。元気だけがとりえですもの。ベルタ、わたしも会いたかったわ」
二人は同郷である。だから、仲良くしてもらっている。
皇太子殿下の最初の雇用契約の際の悪妻を演じていたときも、三人きりのときは仲良くしていた。だけど、人目があるときには居丈高な主っぷりを発揮していたのである。
「アルノルド、メグ。情勢がかわってね。いったん戻ってきたんだ」
第三皇子がベンチから立ち上がると、古くてボロボロのベンチが悲鳴を上げた。
教会内に何本か蝋燭が灯っている。その淡い光を受け、古いベンチは艶々と光沢を放っている。壁も床もところどころ穴が開いていたり崩れかかっている。
風雨に耐えられるのかしら?
つい不要な心配をしてしまう。
古めかしくボロボロではあるけれど、レナウトが朝夕のお祈りをしているのね。祭壇はきれいに磨き上げられている。
「ラウラは?彼女はどこに?」
第三皇子は、ラウラを連れて皇都へ戻ったのである。
「メグ、彼女は奥の部屋で眠っているよ。ずっと文句を言いどおしでね。疲れたよ」
彼は、溜息をついた。
彼女があなたに文句を言い続けている場面は、頭の中ではっきりと思い描けるわ。
「それで、情勢がかわったというのは?」
皇太子殿下が尋ねると、レナウトは気をきかせて一礼してから奥の部屋へと消えた。
皇太子殿下は、わたしに座るようベンチへと導いてくれた。二人して座ると、第三皇子とカミラとベルタも近くのベンチに腰掛けた。
「アルノルド。それを説明する前に、二人のことを説明させてくれ」
第三皇子は、そう言いながら視線をカミラとベルタへ向けた。
「きみにメグ専属の侍女をと頼まれたから、この二人をつけたんだ」
「ええ、わかっています。出来るだけメグと同郷の、とお願いしましたよね。その方が彼女も気がラクだと思いましたから」
いまの皇太子殿下と第三皇子のやり取りで、カミラとベルタがわたしの侍女になってくれたのが、皇太子殿下の配慮だったと知れた。
「違うんだ。二人はメグの同郷じゃない。すまない。きみとメグをだました形になる。じつは、二人はおれの腹違いの妹なんだ」
「なんだって?」
「なんですって?」
皇太子殿下と言葉がかぶってしまった。
「妃殿下、申し訳ありません」
「妃殿下、申し訳ありません」
カミラとベルタの謝罪がかぶった。
「二人は、おれとおなじ様に幼い頃から諜報員となるべく特殊な訓練を受けている。メグを守る為や情報を得る為など、理由は幾つかある。とりあえず、彼女に二人をつけておいた方がいいだろうと勝手に判断した。いまから話すことは、二人が皇都で探った情報だ。彼女たちは実家で不幸があったと嘘の申告をして暇をとり、急いでおれに知らせに来てくれたわけだ。その道中で出会ったというわけだ」
第三皇子は、そこでいったん口を閉じた。
皇太子殿下と顔を見合わせた。それから、同時にカミラとベルタを見てしまった。
二人とも申し訳なさそうにうなだれている。
カッコいい。むちゃくちゃカッコいい。イケてるわ。
女性諜報員……。
小説みたいじゃない。
だまされたなんて思わない。だって、いっしょにいてすごした中で嘘やごまかしはいっさいなかった。
すくなくとも、わたしには二人との付き合いはすべて真実にしか感じられなかった。
そんなことよりも、まさか二人がそんなイケてる人たちだなんて想像もしなかった。
二人ともどこからどう見ても完璧な侍女だから、その点ではだまされたけどね。