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ほんとうの意味での初夜が明けて……

 遠くの方で何か叩いている音がする。


 それから、すぐ近くでうめき声がする。


 突然覚醒した。


 一番最初に目に飛び込んできたのは、天蓋である。


 ああ、そうだったわ。


 年代物の豪華な天蓋を見つつ、昨夜のことを思い出した。


 先程から、バンバンと音がしている。それから、うめき声もきこえてくる。


 一瞬、自分が宙に浮いているような気がした。


 気のせいではない。物理的に寝台から浮いている。


「お、重い。メグ、どいてくれないか」


 頭の下から、うめき声とともに懇願がきこえてきた。


「やだ。皇太子殿下、どうしてわたしの下で眠っているのです?」

「わからないよ。すごい重みで目が覚めたら、きみが上にのっていたんだ」


 彼ったら器用だわ。どうやって眠っているわたしの下に潜り込めるのかしら。


「待ってください」


 彼の上から、横向きに転がりおりた。


「いったい何があったんだろう?たしか、きみが浴室から出てくるのを待っていて……」


 彼は、わたしと同時に上半身を起こした。そして、頭を抱えた。


 そのとき、バンバンという音がよりいっそう激しくなったので、二人して飛び上がってしまった。


 テラスへと続くガラスの大扉を見ると、外はまだ薄暗い。早暁の中、だれかがガラスの大扉を叩いている。

 

「何事だ?」

「外の様子って、夜が明けかけているのかしら。まさか、一日中寝ていて夜になりかけているってことはありませんよね?」


 お腹の減り具合は……。


 減っているのは減っている。おおよそ一日中、何も食べずに眠っていたとしたら、もっと減っているはずよね。


 ということは、明け方かしら?


 二人して寝台の端まで膝立ちで進み、目を細めてガラスの大扉の向こう側を見てみた。


 帽子みたいなものがユラユラ揺れている。


「レナウト師?」

「レナウト師?」


 同時につぶやいた。


 間違いないわ。よく見ると白いシャツが浮かんでいて、その上に帽子みたいなものが揺れている。


 それは、麦わら帽子に見える。


「きみはここにいて」


 わたしが寝台から降りようとするよりもはやく、皇太子殿下が滑り降りた。


 ほんとうは、わたしが行かなきゃいけないのに。


 ガラスの大扉の向こうにいるのがレナウトではなく刺客だった場合、皇太子殿下を守るのはわたししかいない。


 もちろん、わたしに武術とか格闘術の素養はない。小説の登場人物が武術家とか格闘家だったりすると、戦いの場面を真似ていたくらいである。

 

 そうそう。双子の兄たちがまだ祖国にいたころ、剣や弓や武術を習っていた。だから、それを教えてもらったことはあるわね。


 そんなわたしでも、皇太子殿下が部屋から飛び出せるくらいの時間稼ぎは出来るかもしれない。


 噛みついてやってもいいんだし。なぜか歯や骨は丈夫だから。


「殿下、わたしが行きます」


 思いなおし、寝台から飛び降りた。モフモフスリッパははかず、素足で彼を追いかけた。


「刺客だったら危険だ。こう見えても、おれは護身術がそこそこ出来るんだ」

「……」


 そのわりには、わたしを抱っこして満足に歩けないのね。


 そんな失礼なことは、これっぽちもかんがえない。


「では、二人でいきませんか?刺客だったとしたら、二人でやっつけてしまいましょう」


 そう提案してみた。すると、外から射し込むわずかな光の中、彼の美形に白い歯が浮かんだ。


 そうして、テラスへと続くガラスの大扉の前に並んで立った。


 不意打ちの訪問者は、元皇宮付きの司祭でいまはナルディ公爵家のバラ園をはじめ庭園を任されている、ブルーノ・レナウトに間違いなかった。


「お愉しみ後でお疲れのところ、申し訳ございません。殿下と妃殿下をお連れするよう承っております」


 レナウトは意味ありげに口角を上げると、いっきにそう告げた。



 バラ園の奥に、レンガ造りの小さな教会と住居がある。


 そこがレナウトの住まいらしい。


 立派である。すくなくとも、わたしの実家よりかは何百倍も立派である。


 ずっと昔は、近くの町の人たちがこの教会に集っていたらしい。だけど、数十年前にナルディ公爵家の当時の当主が町に立派な教会を造った。それ以降、この教会はナルディ公爵家バラ園の片隅でひっそりたたずんでいるというわけである。


 その教会で、ある人物たちが皇太子殿下とわたしを待っていた。


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