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ざまぁからの真実

「おいおい、アルノルド。そんなことは、その売女にきけよ。おれにわかるわけはない」

「今回のことは、あなたの入れ知恵じゃないのか?」

「だから、その売女にきけってば。その売女が勝手にやったことだ」

「な、なんですって?アルノルド、どういうことなのよ?」

「売女、おまえはだまっていろ。おまえの愚かきわまりない言動のせいで、おれは義弟から謀反の疑いをかけられているんだからな」

「なにを言っているのよ。あんたのせいでしょう?あんたがわたしを捨てるからじゃない」

「捨てる?はんっ!おれに皇太子の地位を奪うつもりのないことを知った途端、皇太子に乗り換えようと媚びを売りはじめたのはおまえだろうが」

「ち、違うわよ。あんたが貴族のご令嬢と浮気をしたからでしょう」


 なんてことなの。

 この二人、皇太子殿下がちょっと水を向けただけで醜い争いをはじめちゃったわ。


「おまえこそ、男なら見境なく尻尾を振りやがって。だいたい、おまえの言うことは嘘ばっかりじゃないか。しかも懐妊だぁ?皇太子に子どもなんて出来るわけないんだよ」

「はあ?どういうことよ。そんなこと、きいてないわよ」


 これには驚いた。彼女と違ってポーカーフェイスを維持しているけれど、わたしだって「そんなこと、きいてないわよ」と言いたい。


「皇太子には子種がないんだよ。それなのに、懐妊だって大嘘をつくなどとは」


 第三皇子の言葉に、思わず皇太子殿下を見てしまった。


 向こうもこちらへ視線を向ける。


 ポーカーフェイスのその心の中は、穏やかではないのだろうか。


「殿下、わたしをだましたわね?」

「だます?」


 ラウラは、皇太子殿下にたいしてキレた。が、皇太子殿下は意に介さない。


 女神をもうならせるであろう美形に冷笑が浮かんだ。


「きみに一度たりとも子どもを作ろうと言ったかい?きみに子種を授けたって告げたかい?きみが酒に酔い潰れて一夜を共にしたことがある。だが、そのときには何もなかった。たしかに、ヤッたっぽいことはにおわせはしたが、ヤッたとは断言しなかった。何もなかったんだよ。いずれにせよ、子種があろうがなかろうが、チャンスはあの一夜だけだ。きみは、あの一夜を迎えたときにはすでに懐妊していた。よって、おれがきみをだましたのではなく、おれがきみにだまされたわけだ」


 皇太子殿下は、冷笑をはりつけたまま続ける。


「それに、どこから得た知識かはわからないが、きみの出自も嘘だ。何がモンターレ王国の王女だったはず、だ?本人がきいたら、きみをぶっ飛ばしたくなるはずだ。なあ、メグ?」


 突然、話を振られてしまった。


「ええ、まあそうかもしれませんわね。噂によると、どんなやり手の皇太子でも震え上がるほど冷酷非情な王女らしいですから。なりすまされたなんて耳に入ったら、頭の皮を剥いでしまうかもしれませんわ」


 どこかの大陸に暮らす部族か何かは、敵の頭の皮を剥いだりするらしい。


 昔、どこかの冒険家が記した本を読んで驚いてしまった。


「ああ、彼女なら平気でしそうだ」


 皇太子殿下は、わたしの顔を見るなりニヤッと笑って思いっきり同意した。


 な、なんですって?


 冗談にきまっているのに、同意するわけ?


「とりあえず、きみは目障りだ。皇都に連行し、収監する。詳しくは、弁護人からきくといい」

「ちょっ、待って、待ってよ」


 ラウラは涙を流しつつ謝罪をし、慈悲を乞いはじめた。


 涙も言葉も嘘で塗り固められている。


 皇太子殿下は容赦ない。


 ラウラは、護衛兵たちによって連れて行かれてしまった。


 連行される彼女の懇願や皇太子殿下に対するきくに堪えない罵倒の数々は、ついにきこえなくなった。


 その瞬間、皇太子殿下と第三皇子が同時に笑いはじめた。


「フレデリク、あぶりだすのにずいぶんと手間がかかりましたね」

「楽しみながらやらせてもらったからな。まぁ、これで連中を皇宮から追い払えるんだ。よしとしてくれよ、アルノルド」


 え?今度はいったいなんなの?


 急に親し気に会話を交わしはじめた二人を、呆けたように見てしまった。


「ああ、すまない」


 第三皇子が気がつき、わたしに語ってくれた。


 ラウラを操っていたのは、第一皇子とその実母の父親である宰相だったらしい。


 予定では、彼女を使って皇太子殿下を暗殺するはずだった。


 だけど、大きな誤算が二つあった。


 一つ目は、皇太子殿下が突然皇太子妃、つまりわたしを迎えたこと。もう一つは、ラウラがバカすぎたことと欲が深すぎたこと、である。


 じつは、皇太子殿下がわたしを迎えたのは、皇太子妃を迎えて子をなすことで彼の皇太子としての責務をまっとうし、その地位を確実にするためだった。


 そして、ラウラに関しては、泳がせて暗殺計画の裏をとろうとした。


 もっとも、ラウラは暗殺計画については知らされていないだろう。だけど、彼女が投獄されることで、第一皇子派はなんらかの対策は講じるはず。


 そこにつけこむらしい。


「ナルディ公爵家は、諜報員としての責務を担っている家系なんだ。おれは、一応は皇子の一人だけど、それよりも諜報員として暗躍している。彼らの為にね」


 第三皇子は、皇太子殿下を顎で示した。


「メグ、きみのことを調べたのもおれなんだ。ラウラは、モンターレ王国の王女云々のことについては第一皇子にでもきいたんだろう。祖国を追われた王族の孫ということになれば、皇太子だって政治的にしろ個人的にしろ興味がわくからね。彼から頼まれ、本物の王女について調べたわけだ。そして、彼はきみを呼びよせた」

「そこはわかりました。しかし、なぜ皇太子妃として?ああ、そうでしたね。皇太子として不動の地位を築く為、でした」

「すまなかった」


 突然、皇太子殿下が謝罪してきた。


「先に謝罪しておくよ。フレデリクは、きみやご家族の事情を詳しく調べ上げてくれた。だが、きみ自身の性格まではわからない。つまり、おれにはきみという女性ひとがわからない。だから、冷たくしてしまった。だが、おれが悪女のふりをしろと言ったのに、きみはことごとくきかなかった。きみ自身は気がついていないようだが、皇宮でのきみの人気はすさまじいものだ。あの父上と母上も、きみに惚れこんでいるのだから。まぁ、これはうれしい誤算だったがね」

「ちょっと待てよ、アルノルド。陛下や皇妃はこの際どうでもいい。きみ自身、だろう?そもそも、おれが彼女の存在を報告したときから、きみはメグに興味津々だった。まったく、きみはあいかわらず可愛くないし素直じゃないな」


 第三皇子は、苦笑した。


 そんな……。いろいろな意味でショックだわ。


「メグ、忘れていた。アルノルドの名誉の為に言っておく。先程、彼に子種がないと言ったのは嘘だ。ラウラに思い知らせたかったからね」

「ったくよりにもよって子種がない、などと。フレデリク、あなたでなければ不敬罪で投獄するところですよ。中傷なんてものじゃない」

「おおっと、すまない。アルノルド、お茶目な冗談だ」


 男性二人は、視線を合わせて笑った。


 はぁ、そうですか……。


 そうとしか思いようもない。


 っていうか、だったらわたしは何なの?


「さて、と。おれは一足先に皇都へ戻り、第一皇子と宰相に揺さぶりをかけるとするよ。そうだな。アルノルド、きみは数日視察の続きをするといい。おれが揺さぶりをかけることで、連中が焦ってさらによからぬかんがえに及ぶ可能性もある。ここにいた方が安全だろう。二人でナルディ公爵家の多額の隠し財産や鉱物資源を探り当ててくれ。でっ、探り当てたら半分はもらいたいな」


 第三皇子は、そう言ってからウインクをした。


「あなたと同じく、お茶目な冗談を言ったまでですよ、フレデリク」


 第三皇子の嫌味に、今度は皇太子殿下が苦笑した。


 彼がわたしに言ったことは、冗談だったみたい。


「フレデリク、頼みます。あなたのアドバイス通り、彼女と数日ここですごすことにします」

「それがいい。ここにはうまい物や見るべき物がたくさんある。いい休暇になるはずだ。二人で満喫してくれ。メグ、アルノルドを頼む」


 第三皇子は、ふかふかのソファーから身軽に立ち上がった。


 皇太子殿下も立ち上がったので、わたしもそれに倣う。


 そして、第三皇子を見送った。




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