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反省学校のお地蔵さん

作者: ウォーカー
掲載日:2022/02/21

 これは、山奥の反省学校に転校してきた、ある男子生徒の話。


 反省学校。

山奥にあるその学校は、そんな名前で呼ばれている。

他の学校で問題を起こした生徒が反省の為に入れられる学校。

それが反省学校の名前の由来。

そんな山奥にある反省学校に、その男子生徒は転入することになった。


 その男子生徒は、以前通っていた学校で問題を起こし、

この反省学校に転校することになった。

反省学校は全寮制。

生徒は全員、学校の敷地内にある寮に住んでいる。

山の中の窪地に建っていて、規模は都会の学校よりやや小さい程度。

学校の校舎と寮と学内の施設だけが、生徒達の生活の場だった。

そんな山の中の反省学校にやってきた初日。

その男子生徒は、諸々の手続きを終えると、

てがわれた寮の一室に足を踏み入れた。

そこでは二人の男子生徒達が待ち構えていた。

一人は赤毛でいたずらっ子のような男子生徒、

そしてもう一人は、眼鏡で神経質そうな男子生徒、

これからルームメイトとして同室に住むことになる二人だった。

その男子生徒は会釈をして挨拶する。

「はじめまして。

 今日からこの学校に転入してきました。

 よろしく。」

「おう、よろしくな。」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。」

気さくに返事をした二人は、早速その男子生徒の肩を抱いてヒソヒソ話を始めた。

「で、お前は前の学校で何をして、この反省学校に来たんだ?」

「君、見た目は大人しそうなのに、何をしたんです?」

いきなり馴れ馴れしい二人に合わせて、その男子生徒も砕けた調子で応える。

「ぼ、僕は学校で先生にちょっと意見しただけさ。

 そういう君達は、何をしてこの反省学校に来たんだ。」

「俺は、学校で横暴な奴と喧嘩になったんだが、

 相手が野球部のエースだったらしくてな。

 怪我をして大会に出られなくなったって言われて、ここに送られてきたんだ。」

「私は、学校で研究活動中に、うっかり火事を起こしてしまいましてね。」

ニヤリと笑って応える二人に、

その男子生徒もニヤリと歯を見せて応えた。

「なんだなんだ。

 それじゃあ僕達三人とも、

 なんだか締まらない理由で転校させられてきたんだな。

 僕はてっきり、

 校舎裏でタバコを吸ってたとか、他の生徒を脅迫して金を取ったとか、

 そういう不良みたいな理由かと思ったのに。」

「そんな不良の対処法は、学校の先生達はとっくに心得てるさ。

 わざわざこの反省学校に送るまでもない。」

「むしろ我々の様な生徒にこそ、

 先生達は手を焼いているのかも知れませんね。」

その男子生徒達三人は揃って声を上げて笑った。

初対面の三人だったが、そうしてすぐに打ち解けたのだった。


 そんなこんなで、その男子生徒の反省学校での生活が始まった。

その男子生徒と、赤毛の男子生徒と、眼鏡の男子生徒と、

ルームメイト同士の三人はすぐに仲良くなって、

一ヶ月も経った頃にはすっかり親友同士の様になっていた。

反省学校という名前の通り、先生も校則も厳しいものだったが、

友人に恵まれた学校生活は意外と悪くないと思えた。

しかし、間もなくしてその男子生徒は、

この反省学校の秘密に関わる事件に出くわすのだった。


 学校の授業が終わって放課後。

その男子生徒はルームメイトの二人と共に、校内の掃除をしていた。

反省学校では、学校内も寮も生徒達が掃除をすることになっている。

昔ながらの竹箒たけぼうきを手に、狭くはない学校の校舎と寮を掃除していく。

そうして、校門までやって来たところで、

その男子生徒達三人はどっかと地面に腰を下ろした。

「は~、疲れた。

 この学校、掃除して周るとなると結構広いね。」

「寮も自分達で掃除しないといけないものな。」

「そうですね。

 建物の中だけでなく、敷地内を全て掃除しないといけないとなると、

 結構な広さがありますね。」

「ところで、あれって何だろうね?」

その男子生徒が指し示した先を、ルームメイトの二人も眺める。

指差す先、校門の脇には、

小さな地蔵じぞうしつらえられていた。

「何って、お地蔵さんだろ。」

「いや、そうじゃなくて。

 この学校、お地蔵さんが妙に多くないか?」

「ああ、そのことですか。」

うんざりとばかりに、ルームメイトの二人が首をすくめた。

その男子生徒が言う通り、

この反省学校の敷地内には、至るところに地蔵が置いてあった。

校門の脇、校舎や寮の出入り口、花壇の近く、

あるいは校舎の中の廊下の真ん中や教室の中にまで、

学校のあちこちに地蔵がいるのだった。

あまりの地蔵の多さに、その男子生徒が顔をしかめて言う。

「教室の中にまでお地蔵さんがある学校なんて聞いたことがないよ。

 そのせいか、いつも誰かに見られてる気がして気味が悪い。」

ルームメイトの二人も頷いて言う。

「そうだな。

 それに、廊下の真ん中にお地蔵さんが置いてあるなんて、

 通る時に邪魔なんだよな。

 この前なんて、危うくぶつかって転ぶところだったよ。」

「邪魔なんて言っては罰が当たりそうですけどね。

 でも、学校の中にこんなにたくさんのお地蔵さんがあるなんて、

 何のためのものなのか気にはなります。

 校舎の中にある分に関しては、

 少なくとも校舎が建てられた後に設置された物でしょう。

 誰が何のために、そんなことをしたんでしょうね?」

その疑問に対する返事は、意外なところからやってきた。

地面に腰を下ろしてお喋りをしていた三人のすぐ近く、

農作業姿の小柄な老婆が、地面に腰を下ろして座っていた。

その老婆にも、その三人の話は聞こえていたようで、

老婆は丸くなった腰に手を当て、顔を皺くちゃの笑顔にして、

その男子生徒達三人に向かって語りかけるのだった。

「ほっほっほ。

 この学校の地蔵が気になるんだろう。

 でも、悪いことは言わない。

 困ることがあっても、あまり粗末にしない方がいい。」

「お婆さん、この学校のお地蔵さんについて、ご存知なんですか。」

眼鏡の男子生徒の質問に、老婆はゆっくりと反応する。

「ああ、知ってるとも。

 あたしは、この学校ができる前からこの辺りに住んでいるからね。

 逆に、あんたたちに聞くけど、

 この学校の地蔵は何のためにあると思う?」

老婆にそう尋ねられて、その男子生徒達三人は考え込んだ。


 反省学校では、至るところに地蔵が置かれていた。

学校の建物の中にまで置かれている地蔵は、何のためにあるのだろう。

その男子生徒と、赤毛の男子生徒と、眼鏡の男子生徒の三人は、

各々の考えを老婆にぶつけていった。

「お地蔵さんが置いてある理由。

 それって、亡くなった人を供養するためとか?」

老婆は、くしゃくしゃの笑顔のままで応える。

「そういうこともあるだろうねぇ。

 地蔵は事故現場に作られることもあるから。

 でも、少なくともこの学校の地蔵は違うね。

 供養のためにあるものじゃない。」

「だったら、置物として置いてあるんじゃないか?

 この地域ではお地蔵さんの生産が盛んで、

 いっぱい飾る風習があるのかも。」

「ほっほっほ、置物ねぇ。

 この地域で地蔵が盛んに作られているとか、

 地蔵を建物の中にまで置く風習があるとか、

 あたしはちょっと聞いたことがないね。

 そもそも、そんな事情があったとしても、

 わざわざ学校の廊下の真ん中に地蔵を置いたりはしないだろうね。」

「お地蔵さんが置かれている場所に、

 霊的な何かがあるのではないでしょうか?

 霊的な存在を守るためにお地蔵さんが置かれているとか。」

「いいや、違うね。

 少なくともこの学校の敷地内に置かれた地蔵は、霊的なものとは関係がないよ。

 もっと実質的な目的で置かれているんだ。

 だから、この学校の地蔵は粗末に扱わない方が良いだろうね。」

結局、その男子生徒達三人は、

学校の中に地蔵がたくさん置かれている理由を、

誰も正解することができなかった。

背中の丸まった老婆は笑顔のまま、

その男子生徒達三人に解答を教えてやろうと口を開きかけた。

すると、丁度そこに、

校舎の方から足音が近付いてくるのが聞こえたのだった。

重い足音の主が誰か予想して、その男子生徒達三人が慌てて立ち上がる。

間もなく現れた足音の主は、生活指導の先生だった。

生活指導の先生は、体格が良い中年の男で、

粗暴なその性格から、生徒達に恐れられている。

そんな生活指導の先生が、肩に竹刀を乗せて現れたのだった。

その男子生徒達三人の姿を見つけて、大声で怒鳴り散らす。

「こら、お前ら!

 こんなところで掃除をサボってるんじゃない!

 早く校舎に戻れ!」

「はい、すいません!」

怒鳴られたその男子生徒達三人は、

蜘蛛の子を散らすようにして学校の中に戻っていった。

生活指導の先生が鼻をふんと鳴らして後ろから急かす。

そうして、校門に残る者はいなくなった。


 その後、その男子生徒達三人は学校の中へ戻った。

掃除を粗方終えて、掃除道具を仕舞いに倉庫へ行くため、

三人は今、並んで校舎の廊下を歩いている。

口から出る話題は、先程校門で話をした地蔵についてだった。

「ところで、この学校にお地蔵さんが多い理由って、

 結局何だったんだろうね。」

「良いところで先生が来ちゃって、

 お婆さんから答えを聞きそびれちゃったな。」

「でも、いくらか情報は教えて貰えましたね。

 何と言われていましたっけ。」

「確か、この学校のお地蔵さんは、

 亡くなった人を供養したり、何かの風習だったり、

 そういうことじゃないって話だった。」

「それに、霊的な理由でもないという話だったな。

 もっと実質的な目的だって。」

「どういうことなんでしょうね。」

その男子生徒達三人が、腕組みをしてうんうん唸りながら歩いている。

だから、三人の誰も、向かう先に置いてある物に気が付かない。

向かう廊下の真ん中に、件の地蔵が鎮座しているのだった。

考え事をしていたその男子生徒達三人は、

廊下の真ん中に地蔵があることを失念していた。

前をよく見ずに三人で並んで歩いていたものだから、

物の見事に地蔵にぶつかって、もつれ合うように転んでしまったのだった。

ドタドタと肉が転がる派手な音がして、

視界がぐるぐると回って廊下の天井を見上げて止まる。

体中をぶつけた痛みで、その男子生徒達三人はぶーぶーと文句を言い始めた。

「いててて。みんな、怪我は無いか?」

「いってー!

 転んだのはあの地蔵のせいか。

 こんな廊下の真ん中に地蔵なんか置くなよな!」

「眼鏡眼鏡・・・私の眼鏡はどこでしょう?」

もつれた拍子に絡んでしまった手足を解いて、

各々、埃を払い眼鏡を拾いして立ち上がる。

そうして無事に起き上がった後で、

その男子生徒達三人は、痛い目に遭ったむかっ腹を、

廊下の真ん中にいた地蔵にぶつけるのだった。

「こんな廊下の真ん中に地蔵を置くなんて、何を考えてるんだ。」

「全くです。

 そのうち大怪我をする人が出そうです。」

「くそっ、こいつめ。」

怒りに任せて、地蔵を軽く蹴飛ばしてみせる。

すると、突然。

数人の先生達がそこに駆けつけてきた。

その男子生徒達三人は、何が起こったのか分からず、

駆けつけた先生達によって取り押さえられてしまった。

取り押さえられた三人を何者かが見下ろしている。

見下ろしていたのは、またも生活指導の先生だった。

竹刀を肩に乗せ、怒りの形相でその男子生徒達三人に向かって口を開いた。

「お前達。

 そこの地蔵を蹴飛ばしたな?

 それは立派な器物損壊、つまりは校則違反だ。

 この問題児共が、覚悟はできてるだろうな。」

拘束から逃れようとじたばたするその男子生徒達三人。

しかし、取り押さえてくる相手は大の大人が数人、逃れることは出来ない。

そうしてその男子生徒達三人は、仲良く揃って連行されていった。

向かう先は、無骨な地下室。

反省部屋という名のお仕置き部屋に入れられてしまったのだった。


 生徒達も先生達も寝静まった深夜。

何もない空っぽの反省部屋に入れられて、

その男子生徒達三人はヒソヒソと話をしていた。

「この部屋、寒くてよく眠れないよ。

 ベッドも石のように固いし。」

「こんな何もない空っぽの部屋で、

 俺達これから三日間も過ごさなきゃいけないのか。」

「お地蔵さんを粗末にしただけでこの仕打ちとは。

 ここが問題児が入れられる反省学校だということを、

 私達は忘れていたようですね。」

地蔵を蹴飛ばしたとして先生達に捕まった後、

その男子生徒達三人は、

学校の設備、しかも敬うべき地蔵を破損させたとして、

三日間の反省部屋入りを命じられたのだった。

今日はまだ一日目の夜。

つまり後丸々二日間はこの反省部屋から出ることはできない。

三人はうんざりした顔で、しかし閃いた表情で話をしていた。

「でも、これでこの学校に地蔵が多い理由が分かった。」

「そうですね。

 地蔵を蹴飛ばした途端に先生達が現れたということは、

 そういうことなのでしょう。」

「何だって?どういうことなんだ。」

頷き合うその男子生徒と眼鏡の男子生徒に、

赤毛の男子生徒は訳が分からないという顔をしている。

その男子生徒は一から説明することにした。

「思うに、この学校の地蔵は、

 僕達生徒を試すために置いてあったんだ。

 あえて邪魔な場所に地蔵を置いておいて、

 ぶつかったりして腹を立てる生徒が現れたら、それを取り締まる。

 地蔵は罠だったんだ。」

眼鏡の男子生徒が頷いて言葉を継ぐ。

「そうです。

 地蔵が予め用意された罠だったとしたら、

 地蔵を粗末にした途端に先生達が駆けつけたのも理解できます。

 私達が普段感じていた視線は、気の所為ではない。

 きっと、この学校には至るところに監視カメラなどがあって、

 私達生徒は常に見張られているのでしょう。」

つまり、二人の話を総合すると、

この反省学校にたくさん置いてある地蔵は、

わざと邪魔な場所を選んで置かれていて、

生徒達が地蔵に邪魔されることで問題を起こさないか、

それを見張るための罠だったようだ。

邪魔な地蔵に腹を立てたり問題を起こす生徒がいれば、

すぐに捕まえて、こうして反省部屋送りにして指導する。

そういうことなのだろう。

説明をやっと理解して、赤毛の男子生徒が手を打った。

「なるほどな。

 俺達生徒を試す罠として、邪魔な場所に地蔵が置かれていたわけか。

 それなら、あの婆ちゃんの説明にも合うな。

 亡くなった人の供養でもないし、

 何かの風習でも霊的なものでもない。

 全く、先生達にはしてやられたな。」

何もなく校則違反を犯してしまったのなら、処罰されても仕方がない。

しかし、生徒が校則違反を犯すように、

先生達が先んじて罠を仕掛けていたとなると、いい気分はしない。

その男子生徒達三人は怒りをあらわにする。

「これっておかしいよな。

 だって僕達は、廊下の真ん中に地蔵が無ければ、

 転ぶことも蹴飛ばすことも無かったのに。」

「ああ、そうだな。

 先生が挑発してわざと俺達を怒らせたようなものだぜ。

 これじゃまるで囮捜査だ。」

「囮捜査が違法なのか、あながち断言できないそうですけどね。

 それはともかく、こんなやり方を許していいはずがありません。

 わざと人がぶつかる位置に地蔵を置いておくなんて、

 そのうち地蔵で大怪我をする人が出ないとも限りません。」

一緒になって怒ってくれる赤毛の男子生徒と眼鏡の男子生徒。

その二人に、その男子生徒が悪童の顔になって話しかけた。

「そこで相談なんだけど、ちょっと耳を貸してくれないか。

 ここから出られたら、試してみたいことがあるんだ。」

「なんだなんだ?」

「どんな話です。」

その男子生徒の口元に、ルームメイトの二人が耳を近付ける。

そうして三人がヒソヒソと相談をしている間に、

反省部屋の夜は更けていくのだった。


 それから数日後。

その男子生徒達三人は、反省部屋からやっと出ることが出来た。

日常生活に戻り、学校の授業が終わって、夕方。

その男子生徒達三人は、学校の駐車場に身を潜めていた。

目の前には、生活指導の先生が通勤に使っている車が駐車してあって、

その行く手を阻むようにして地蔵が置かれていた。

置かれた地蔵は、学校の中に置かれていた地蔵の一つを、

その男子生徒達三人が苦労してここまで運んできたものだった。

用意したのは、たったそれだけ。

後は駐車場に身を潜めて、今か今かと待ち続ける。

すると、暗くなってきた駐車場に、目当ての人物がやっと姿を現した。

その人物は帰宅しようと車に近づき、

車の前に地蔵が置かれているのを見つけて、ギョッと立ち止まった。

「何だこれは?

 何でこんなところに地蔵が置いてあるんだ。

 生徒達のいたずらか?

 こんなところに地蔵があったら、車が出せないじゃないか。」

その人物は仕方がなく、

えっちらおっちら地蔵をどかそうと持ち上げようとする。

しかし、地蔵の材質のせいか、

つるつると滑って一人では上手く持ち上げられない。

何度も地蔵を運ぼうとしては失敗し、

やがてイライラがつのったのか、

とうとう地蔵を足で蹴飛ばしてゴロゴロと地面に転がし始めたのだった。

それを確認するや否や、

身を潜めていたその男子生徒達三人が、さっと身を踊り出した。

歌舞伎役者の様に手を突き出して声を上げる。

「ちょっと待った!」

「先生、そこで何をしてるんですか?」

その男子生徒達三人が見下ろす先、

地蔵を足で転がしていたのは、生活指導の先生その人だった。

まずいところを生徒達に見られたとばかりに、

生活指導の先生は唾を飛ばして釈明を始めた。

「・・・こ、これは違う!

 俺はただ車を出そうとして、そうしたら目の前に地蔵があったんだ。

 だからどかそうとしただけなんだ。

 こんな邪魔な場所に地蔵があるのが悪い。

 放っておいたら事故になるかも知れないだろう。」

飛んでくる唾を身をよじって避けながら、

その男子生徒達三人は涼しい顔で指摘していく。

「先生の気持ち、よく分かりますよ。

 僕達も好き好んで地蔵を粗末にしたわけじゃない。

 邪魔な場所に地蔵が置かれていたから、粗末にせざるを得なかったんだ。」

「丁度、今先生がやってることと同じです。」

「これに懲りたら、

 もう一方的に生徒を試すようなことは止めて下さいね。

 怪我人が出てからでは遅いですから。」

これが、その男子生徒達三人が反省部屋で相談した作戦だった。

この反省学校では、

生徒が短気を起こさないか試すために、

あえて廊下の真ん中のような邪魔な場所に地蔵が置かれていた。

それは教育でもなんでもない。

まるで動物実験のように、生徒の性質を暴くだけの行為。

ならば、生徒を試す先生自身はどうなのか。

同じ罠を仕掛けて、先生の反応を試すことにしたのだった。

結果は、先生も生徒も同じ。

邪魔な場所に地蔵が置かれていれば、粗末にするのも無理もないこと。

それを悟った生活指導の先生は、何も反論することが出来ず、

がっくりと肩を落としたのだった。


 そんなことがあってから。

その男子生徒達三人が在籍する反省学校では、

学校の中の邪魔になる場所に地蔵を置くような、

まるで先生が生徒を挑発して試すようなことはなくなった。

学校中に設置されていた地蔵は撤去されることになり、

今日、その男子生徒達三人は作業の手伝いをさせられていた。

教室の中や廊下の真ん中にあった地蔵を三人で持ち上げて、

台車に乗せて集積場所へ運んでいく。

そんな作業を幾度も繰り返して、校門までやってきたところで、

生活指導の先生に呼び止められた。

「おい、そこのお地蔵さんは撤去しなくていいぞ。

 そのお地蔵さんは、我々が設置したものじゃない。

 この学校ができる前からあったものだからな。」

言われてその男子生徒達三人は顔を見合わせる。

三人で校門脇の小さな地蔵の顔を覗き込んでみると、

そのくしゃくしゃの笑顔は、

どこかで見たことがあるような気がするのだった。



終わり。


 お地蔵さんをテーマにこの話を書きました。


 お地蔵さんは、事故現場などに置かれて、

亡くなった人を供養するために使われたりします。

でも、もしも違う理由でお地蔵さんが置かれることがあるとしたら、

それはどんな場合だろう。

そんなことを考えて物語にしてみました。


作中で反省学校に地蔵が置かれた理由が明らかになりました。

でも、そのせいで地蔵の意味が損なわれてしまわないように、

もう一つ、学校が置いたものではない地蔵を登場させました。


お読み頂きありがとうございました。


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