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クリスマス特別SS リゼ <1/2> 現代パロディ版

キャラクター投票5位だったリゼの記念SSです。

(現代パロディ版です!!)



 クリスマス――去年までのフォスター家では、家族皆で過ごすイベントだった。


 壁掛けのカレンダーが十二月に替わったらリビングにツリーを飾って、当日はちょっと気合の入ったオードブルが食卓に並ぶ。

 お母さんが仕事帰りに買って来た大きなホールケーキを五等分、誰のお皿に砂糖で出来たサンタさんを乗せるのか一揉めあって。


 プレゼントをもらって、クリスマスは終了。

 既に冬休みに突入しているので、何をして過ごそうかと話をしながら後片付け。年末年始、祖父母の家に遊びに行くのが楽しみの一つだった。



 だが今年は事情が180度、丸っと変わってしまったのだ。




 ※






 本日、十二月二十四日。

 世間様はこの日をクリスマス・イブと呼ぶ。


 ――恋人たちの日。





 ※



「うう……

 今日は日曜なのに……」



 外出の用意をし、玄関前の姿見の前を入れ代わり立ち代わり使用する同じ顔の三人の女の子。

 出来る限りのお洒落をして自分の姿を確認している愛娘たちの姿を、階段の影から歯ぎしりをして悔しそうに眺めているのはフォスター家の大黒柱たる父である。


 そんな恨みがまし気に唇を噛み締める彼を、母親は苦笑を浮かべて「まぁまぁ、いいじゃない」と慰めている。

 娘に全く男っ気がないままより、素敵な彼氏が出来たことを喜びましょう。

 なんて言っているが、それをすんなり飲み下せる父親は多くない。現実に打ちのめされるばかりだ。


 子供たちと一緒に過ごせる久しぶりのクリスマス、気合をいれて用意したパーティ帽子を斜めに被る彼は今にも血の涙を流さんばかりだ。

 激情に肩を震わせる父に気づき、リナは少し困ったように笑う。


「お父さん、明日は一緒にお家でクリスマスパーティしようね。

 私、お母さんと美味しい料理作って待ってるから」


 心優しい娘の励ましは、逆に父の心を深く抉った。


「明日は残業確定なんだよぉ!

 くっ……三人とも! 今日は七時までには帰って来ること!

 決して羽目を外さないように! お前たちは受験生、いいね!?」



『……。

 はーい』



 三人とも、視線を逸らして父の言葉に曖昧模糊な返事をした。




 しょうがない。

 今日はそれぞれ、彼氏が出来てから初めてのクリスマス。

 少なからず、色んな期待も渦巻くわけで。

 まぁ、父親の言う通り学生であることに違いはなく、養ってもらっている立場上門限は厳守なのは三人とも分かっている。


 今後の親の心象を考えると門限ブレイクはご法度だ。

 一応、それくらいの良識はある。




 揃ってマフラーを巻き、寒空の下凍える外気の中クリスマスデートに出陣する準備は整った。



 いってきまーす、と玄関を出る。

 今にも雪がちらつきそうな暗い空を同時に見上げ、三人は首を竦めて身体を震わせた。








「リゼが受験勉強そっちのけでデートとか珍しいね?

 あー、それ言ったらフクカイチョーも同じかもしれないけど」


 既に生徒会は代替わりしているというのに、リタはシリウスのことを怪鳥のような異名で呼び続ける。

 呼び捨てにするのも気が引けるとかで。

 まぁ人物判別が可能ならそれでいいのかもしれないが。 


「……まぁ、クリスマスだし?

 今日一日勉強サボって落ちるようなら、仮に合格うかったとこでついてけないわよ……。

 それに家に帰って続きすればいいだけでしょ」


「ふふ、シリウスと全く同じこと言うのね」

 

 リナはニコニコ笑って、手袋を填めた手のひらで口元を押さえた。

 これからリナが会いに行く彼氏の名前である。

 ……一体いつの間に付き合い始めたというのか、彼女リナの事は本当に分からない。


 リタのように浮かれて大騒ぎして廊下の端から端へでローリング状態なら分かりやすいのだが。



「あ、そうだ。

 ねぇ、ちょっとリゼのスマホ見せてくれる?」


 突然リタが変なことを言ってきた。


「何で?」


「ジェイクとどんなlineしてるのか見ーたーいー」


「別にいいけど。」


「おっと快諾!?」


 右手の手袋を外し、まだまだ慣れない『スマートフォン』なる精密機械のタッチパネルを悪戦苦闘で操作する。

 アイコンに触れ、今から向かう先にいるクラスメイトの名前を人差し指の腹で押した。



「どれどれ、見せて~……

 ……って、なにこれぇ!?」


 リタは物凄い物を見るかのような強張った視線で、画面を見る。

 そして――驚きを共有するべく、リナに向かってそこに載っているやりとりを指差すという暴挙に出た。



「業務連絡帳か何か!?

 私、スタンプどころか絵文字も使ってないline画面初めて見たんだけど!?」



 一番最新の時刻が記されている吹き出しには、



『これから出ます』


 というリゼの発言。ちょうど今のタイミングで、『了解』というジェイクの文字がぴょこっと追加された。



「うっわぁ……」


「失礼ね、携帯見せてそんな顔されるのは心外なんだけど」


「こないだジェイクに『頼むからリゼにスタンプの送り方を教えてやってくれ』って言われてね。

 何の冗談かと思ったら、これは……

 スタンプの送り方くらい知ってるでしょうに、いやそれ以前の問題!?」


「えー……。

 メールもそうだけど、文字のやりとりを口語でやるのは嫌だし……

 ずっと残るでしょ? お互い、後で見返して死にたくならない?」


「ならないよ!

 むしろそれを読み返してニヤニヤするのが乙女でしょうが!


 ジェイクが聞いたら絶望するから、もっと可愛く送ってあげたら?

 ほら! ほらほら、最初の方はジェイクもめっちゃ浮かれてスタンプ押しまくりなのに!

 絵文字とか頑張って使ってるのに!

 ”了解”の一言だけで会話を強制終了ブロックしている!?


 既読スルーより居たたまれない……!!

 そりゃ、あいつも諦めて発言が単語にもなるわ」



 完全にドン引きするリタからスマホを奪い返し、コートのポケットに赤いケースのスマホを滑り込ませた。






 ――余計な世話だ、放って置いてくれ。







 ※ 




 ジェイクと付き合い始めたのは、高校三年の一学期の話だ。

 そうか、もう半年以上経つのかと時間の流れの速さに戸惑ってしまう。


 入学当初は殆ど接点がなく、クラスメイトであっても会話をすることもなかった。

 むしろ三つ子の妹のリタの方が運動部同士仲が良かったのではないか。


 金持ちという話は聞いていたが、親御さんが国家権力――警察機構の中でもかなりのお偉いさんという話で、本人は警察を志望しているのか柔道部に所属している。

 本人は自衛隊にも興味があったらしいが。

 ――警察という組織に入ったとしても自衛隊でも、間違いなくキャリア組だろうな。



 地味で運動音痴の”ガリ勉族”たるリゼが関わる要素の無い相手。


 だがそんな事態が急変したのが、高校二年の夏真っ盛りの時節の話だ。


 リゼが自転車を漕いでいる最中、何とも情けないことに濡れた板の上でスリップし地面に転がって出てしまった事があった。


 飛び出た先は車の交通量が多い場所ではなかったけれど、その分気ままに爆走する二輪車が多い。


 車道端っこをシャーーッと勢いよく走るロードバイクの先に飛び出てしまったのである。

 競輪選手かな? というくらいの速さだ。

 高くしたサドルに前傾姿勢で乗り、突っ込んでくる黒い影。


 これは接触事故は免れないと思っていたが、自分を庇って自転車にぶつかってしまったのがクラスメイトのジェイクという男子生徒だ。

 ぎゅっと目を閉じて頭を抱えていたので詳細は分からないが、自分を抱えこみ、突っ込んだ先が飯店の前――沢山の自転車が無造作に置かれているスペースだったのが不運だ。



 彼はそのせいで、腕に全治二か月の怪我をした。

 しかも翌週に迫った夏の全国高等学校総合体育大会――インターハイに出るはずが、怪我のせいで出場できなかったというおまけつきである。


 いくら今まで無関心だったクラスメイト相手とは言え、これで責任を感じない方がどうかしている。


 それがきっかけで話をするようになったが、その際に「出来る事があったらなんでもする」と殊勝に申し出たリゼに、彼は気にしなくてもいいのに、と言った後。


 折角だから試験のヤマでも教えてもらえるか、と冗談交じりにそう言った。

 ……それは本気だったのかそうではなかったのか未だに聞いていないので分からないのだけど。


 リゼは困った。


 ヤマを張るのは苦手だ。


 それにヤマを張って高得点がとれるのなら、全範囲押さえて勉強した方が早いよ、と。

 どうせ二年二学期の試験範囲の内容は、三学期になっても進級しても紐づいて生きるものなのだ。

 無駄に正答を暗記して乗り切るより、ちゃんと理解した方がこの先楽だよ、と勉強をみてあげることにしたのである。





 まぁ、それからなんやかんや多くの出来事を経、三年に上がってしばらく彼に告白されたので付き合うことになった。




 ハッキリ言って何故自分に告白しようと思ったのかは謎のままである。



 アホみたいにモテるのに、よりによってこんな可愛げのない女子をわざわざ選んだのか、怖くて聞けない。

 だって……


 気が付けばいつの間にか、リゼも彼の事を好きになっていたからだ。

 告白された時は夢か幻かとその日は眠れないくらい興奮し、嬉しかったのを未だに憶えている。


 好きな人に好きと言われることがこんなに嬉しいことだなんて、人生で初めて知った。

 一緒に居れば要る程彼の事を好きになっていく自分に気づき、恐らく想いの強さでは自分の方が強いのだろうと自覚している。



 その結果、リゼは一層受験勉強に精を出すようになった。

 彼の志望する大学はリゼの第一志望の大学と同駅圏内! とても近い!


 ジェイクは部活動の実績などから一足早く推薦入学が決まるのだろうと分かっていたので、絶対に落ちるわけにはいかなかった。

 本来付き合いたてで楽しいだろう学生生活も、受験の事を考えると遊び惚けているわけにはいかない。


 卒業後にジェイクと縁を切れないようにするため、この半年は必死だったと言える。


 蟻とキリギリスではないが、ここで彼に誘われるままに休みの度にデートだなんだと一緒に過ごしていたら――待っているのは、不合格サクラチル。『遠距離恋愛』。



 高校生同士の恋愛なんて、通う大学の場所であっけなく切れてしまうか細い糸のようなものだという先入観が根強い。

 物理的に距離が離れてしまっても今のまま彼氏でいてくれる……なんて希望的観測が過ぎる。

 きっと自然消滅してしまうに違いない。


 リゼは遠距離の恋愛なんて、全く自信がなかった。



 唯一の望みは、この一年を乗り切って合格すれば遠距離にはならない! という事実のみ。

 付き合いが続けられるのでは、という希望を見い出せる。

 大学同士が近ければ、最寄りのショッピングセンターとかで待ち合わせて会うこともできるだろうし。





 折角好きになった相手に告白されたというのに――高校三年、殆どジェイクとの思い出は無い。


 ゴールデンウイークに水族館に行って、夏祭りに行って……それくらいか。



 以降、リゼはずっと進学塾に缶詰状態。

 意地でも絶対合格してやるという熱意に燃えていた。

 ジェイクもそれは理解し、応援してくれていると思っている。


 だけど彼女らしいことは何もしていない。

 もしかしたらとっくに気持ちは醒めているのかも知れないなぁ……と、怖くなることもある。



 lineの文面が必要以上にそっけないのは、画面上の会話を時間関係なく続けたら――勉強以外で悩みが増えてしまうと思ったから。

 返信や話す内容、絵文字、スタンプ。

 文字の一つ一つ、いや記号にさえ意味を見い出し深読みして、悩み悶えるのは容易に想像がつく。




 学校に行けば必ず会えるし。

 一緒に下校も出来るし。



 その時間だけで、十分幸せで勉強の励みになっている。





 幸い彼は未だに自分のことをちゃんと「彼女」だと思ってくれているらしい。

 十二月初めのリゼの誕生日に、今までリゼが手にしたこともないような可愛い真っ白なコートをもらった。



「こんなに高価なの、もらえないんだけど!?」


 高校生の誕プレのラインナップに通常上がってこないだろう。

 新品のコートを前に、リゼは激しく動揺した。


「いや。頼むからもらってくれ」


 しかし彼は珍しく強硬に、こちらの意向に取り合わずに押し付けるようにして手渡してきたのである。


「お前、休日に着る用のコートもってないって言ってただろ?

 いつも学校指定の通学用コートなのは……俺の方がモヤモヤする」


 彼は切実な訴えと共に、そう言った。




 普通の一般家庭で三つ子、全員受験ともなれば――経済状態はカツカツになるもの。

 ただでさえ金食い虫の塾代のことが常に頭にある。


 それを捻出してもらうため、リゼは高額な商品購入を控えざるを得なかった。

 厚かましくも新しいコートを買ってくれ、と言えないままだったので有難いプレゼントだったのは確かだ。


 しかも自分が選ぶのでは絶対に購入を見送るだろう、飾り紐の先の白いポンポンが可愛いコート。





 今日、初めて袖を通した。


 嬉しさを顔には出さないよう感情を抑えつつ、彼の自宅へ向かうことにしたのである。





 ――リタは遊園地に行くと言っていたな。

 ――リナは映画を楽しみにしているようだった。





 対するリゼは、クリスマスにも拘わらず”お家デート”になってしまった。


 理論上は当然の帰結かもしれないが、色んな感情が渦巻いてしょうがない。


 この受験シーズン、人混みの中に長時間いて風邪でもうつされたら大変なことだ。

 受験生にとって最も恐ろしいものは不慮の事故、そして体調不良だ。間違いない。


 ジェイクもこちらから言わずとも、事情を分かってくれたから――不特定多数の押し寄せない場所を選ばざるを得なかった。



 で、選ばれたのが彼の自宅だった、というだけだ。





   全く、全然、他意なんてないもんね!

 




 ………インターホンを押す指が震えた。



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