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第二十九話:冷房


冷房を、切れ。冷房を……




俺は動けない後部座席から念を送り続けた。




冷房を、切れ。冷房を……




寒い。凍えてしまう。






昼間は暑かった。

半袖のTシャツさえ脱ぎたいくらいだった。

今の季節は朝夕の寒暖の差が激しい。

しかもここは山の上だ。




寒い。凍え死んでしまう。




どうせほっておいても死ぬのだろうが、

どうせ苦しいのは同じだろうが、

それでも出来るなら眠るように死にたい。

死ぬ間際までこんなことで苦しむのは嫌だ。

俺は声を出せない代わりに、運転席の若山に念を送り続けた。




冷房を、切れ。冷房を……




冷房を、止めてくれ。冷房を……










「このへんで昔、死亡事故があったらしいよ」

「え。こんな見晴らしのいいとこで?」

「昔の車のライトって暗いじゃん? スピード出しすぎて、カーブが見えずに突っ込んだんだって」

「バカだなぁ。若い人?」

「当時大学生だったらしい3人組」

「ねえ、ちょっとクーラー効きすぎじゃない? 寒いよ」

「え? 設定25度だけど?」

「だんだん寒くなって来た。温度上げてよ」

「確かに言われてみれば、少々効きすぎだな」

「早く上げてよ。また温度下がったみたいだよ」

「おかしいな。じゃ、切るよ?」

「早く切ってよ。……あれ? 切れてる」

「おい」

「え?」

「なんか後ろの席から声、聞こえないか?」


 助手席に座る女が運転手の男にそう言われて後ろを振り向くと、頭の半分ない男性の顔がすぐ目の前に迫って来た。


 白い液を口から飛ばしながら、男性は言った。


「ワカヤマ……。レイボウヲ……キレ! レイボウヲ……」





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