第二十七話:夢探偵眠京介事件ファイル 『不可能密室殺人事件』
マンションの13階で殺人事件が起きた。
事件当時、部屋は内側からロックされ、チェーンロックもされており、外からは開けられない状態だった。窓もすべて鍵がかかっており、現場は完全な密室となっていた。
しかし被害者の内田直子(27歳)は自分のベッドの上で背中からナイフで突き刺され、それが心臓まで達して死んでいた。
「天井や床も調べたが、どこから侵入することも出来ない」
目暮警部は溜め息をついた。
「幽霊の仕業でもなけりゃ、考えられんよ」
「いいえ。そんなオカルトではないですよ、この事件は」
関係者全員を集めた部屋の中で、パジャマ姿の探偵が言った。
「犯人はこの中にいます」
「ちょっとちょっと! 何なのよ、このパジャマ男は?」
遺体の第一発見者である水沢優美(31歳)が怒鳴るように言った。
「いきなりしゃしゃり出て来て、何を偉そうに仕切ってんのよ!?」
「申し遅れました」
パジャマ男は慇懃に挨拶をすると、名を名乗った。
「私、夢探偵・眠京介と申します。この難事件を解決するため、目暮警部から依頼されて参りました」
そう、彼こそはこれまでに数々の難事件を解決し、警察から何度も感謝状を送られている希代の名探偵、眠京介である。
「警察が一般人のお世話になってるのかよw」
語尾に草を生やして言ったのは被害者の元カレ、剛田草太郎(34歳)である。
「みっともねーなwww」
「ですよね〜www」
眠京介は大笑いした。
「ですが、実は私、元々警視庁の警部まで登り詰めた人なんですよ。居眠りが多すぎてクビになっちゃいましたけどね」
「おいおい。嫌な予感がして来たぞ」
被害者の今カレ、吉田吉蔵(29歳)が言った。
「アンタ『夢探偵』って……まさかこの事件、アンタの夢だったとかじゃないだろうな?」
「あり得ますねぇ」
眠京介はさらに大笑いした。
「冗談はやめてくれよ!」
吉田吉蔵は怒りをなんとか抑えながら、言った。
「もう既に3人も容疑者候補が登場してるんだぞ? 読者も頑張って名前を覚えようとしてるところなんだ! 無駄な努力をさせるのはやめてくれ!」
「はい。じゃあ最初にバラしておきますが、これは夢オチです。読者の皆さんは登場人物の名前なんか覚えなくていいです。
ただ、夢オチの何がいけないんでしょうか? それはもちろんタブーとされていますが、タブーに挑戦してこそ創作者というものじゃないんですかね。
作者は過去にも某所でさんざん夢オチの物語を書き、読んでくださった方から『感動した』と感想を頂いたこともあります」
目暮警部も容疑者たちも帰ろうとしはじめた。
「あっ、待ってください。今までのは冗談です。私が夢探偵と呼ばれるのは実はそういう理由ではないんです。
私は眠ると、夢の中で推理を閃くんです。夢の中で事件を解決してしまう能力を持っているんです。
今まで100%の事件をそれで解決して来ました。任せてください。では、今からこの事件を解決してみせましょう」
「ちょっと待ってください! 私、まだ紹介もされてないんですけど!?」
被害者の友人等々力加奈(26歳)が言った。
「要りません」
眠京介はにっこり笑うと、言った。
「すぐに事件は解決します。ところで私は犯人はオカルト的なものではないと申し上げましたが、みなさん、何か違和感を覚えませんか?」
「違和感だって?」
ピザの宅配に来ていた悠馬洋介(81歳)が言った。
「ええ。よく見てください。この小説のカテゴリーを……」
「あっ」
その場にいた全員が声を上げた。 「ホラーだ!」
「ホラーになってるぞ!」
「と、いうことはこの話もホラーでなければならない!」
もはや誰がどの台詞を喋っているのかわからなかった。
「ホラホラ」
眠京介は得意げに言った。
「ホラホラホラ〜」
「どういうことなんだ?」
目暮警部は京介のテンションを無視して言った。
「やはり幽霊の仕業だと言うつもりか?」
「まぁ、眠ってみればすべては解決です」
眠京介はそう言うと、ベッドの上の被害者の隣に寝転び、持参した枕をそこに置いた。
「宣伝文句を繰り返しますが、私は眠りながら見る夢の中で名推理を閃き、今まで100%の難事件を解決して来ました。
今から私は眠りの中に入り、この事件の謎を解き明かして来ます。
決して起こさないでくださいね? では、行って来ます」
眠京介は布団をかぶると、目を瞑った。
隣で被害者の女性が恨めしそうな表情で見ていたが、気にしなかった。
「ウリジン、アデノシン」と寝言のように睡眠物質の名を唱えると、すとんと闇の底が外れるように眠りの中へと落ちて行った。
夢の中で、眠京介はパンダに抱かれていた。
ふかふかで、もふもふのパンダだ。
母親を思い出した。
母親は10年前に宝くじで3等100万円が当たってから行方不明になっていた。
昨夜、場末のスナックで働いているところを発見したが、逃げられた。
もう、何も考えられない……。
睡眠物質ウリジンが夢を見ないノンレム睡眠へと誘う。
死んでいるように、何も考えない。
無意識の中から何かが上がって来た。
ああ、子孫だ……。
子孫を残さなければ……。
……。
……。
目を覚ますとホテルのベッドの上だった。
真っ白なシーツが自分の体の形にしわしわになっている。
眠京介は起き上がり、うーんと伸びをした。
窓のカーテンの隙間から差し込む朝日の中で、カメラに向かうように、にっこり笑うと、
「夢オチですよ」
誰もいないところへ向けて言った。




