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第二十二話:回転する生首

中★恐怖度:6


年女性の死に顔をした生首が病院の前で回転しているのを見た話。

 ゆうたはコンビニの弁当やおにぎりを製造する工場でアルバイトをしている。

 大きな銀色の容器に入って運ばれて来た白ご飯をバットに移し、パートのおばさん達にそれをベルトコンベアに乗せて供給する。

 朝から夕方まで延々と白ご飯の匂いを嗅ぎ、延々とそれを流し続ける。


 家が近いので一時間ある昼休みには家に帰る。

 スポーツ自転車でほんの10分もかからない距離だ。

 工場では余りのおかずとごはんを無料食べ放題で労働者に提供しており、初めのうちは喜んでそれを食べていたのだが、さすがに仕事中に嗅いでいる匂いと同じごはんを食べるのに飽きてしまった。

「今日のごはんは何かな」

 勝手な予想を頭の中でしながら自転車を漕いだ。

「カレーライスだったらいいな」


 途中で小さな個人病院の前を通りかかる。ゆうたも何度かお世話になった皮膚科だ。黒メガネの若い先生の顔を思い浮かべる。腕はいまいちだったな。

 建物は新しく白く、20cmほどの低いブロック塀で囲まれている。塀と建物の間は芝生で覆われている。

 自転車を漕ぎながら、芝生の上に女の人の顔がゆるゆると回っているのをゆうたは発見した。


「えっ?」と思って2度見した。

 芝生の上で、死人の顔に見えるものがゆっくりと横向きに回転していた。

 前を見て漕がないと落車すると思って気をつけて自転車を前に進めながらも、ペダルを踏む足がゆっくりになった。


 ゆうたの視線に気づいて死人の顔にしか見えないそれは、つまらなそうに伏せていた目を開け、こちらを見た。

 中年女性の生首だった。青白い顔に得意そうな笑いを罅割ひびわらせて浮かべると、回転する速度をちょっとだけ早めた。


 自転車は前に進むが、ゆうたの視線は後ろに引っ張られた。

 生首は見られていることを喜ぶように回っていたが、ゆうたが離れて行くにつれてまたつまらなそうになった。


 仕事疲れで幻覚でも見たかな、と思い、暫くしてからもう一度振り向いて見ると、生首はやはりそこで回転していた。


 ◇ ◇ ◇


 ゆうたは自転車を停めた。

 暫く考えて、考えた。考えてから、自転車を後ろへ方向転換させた。

 さっきまでは後方だった前方を見るとまだ生首が病院前の芝生の上でゆるゆると回っているのが見えた。

 ゆうたは勇気を振り絞ってペダルを前へ踏んだ。生首がだんだんと近づいて来る。


 至近距離まで行き、自転車を降りた。

 気づいたようで、目を伏せている女性の表情が少し照れ臭そうな緊張を浮かべる。

 どう見ても胴体はなかった。

 芝生の上から少し浮いたところで生首はやや重たそうな動きで回転しているのだった。


 話しかけてみた。

「あの……」


 生首は反応せず、しかしどう見ても話しかけられたことには気づいているようだった。閉じた目がぴくりと動いたのだ。


「何かのトリックですか? ドッキリ?」


 しかし人通りのそこそこある場所ならともかく、車とバイクとスポーツ自転車ぐらいしか通らないこんな田舎の国道沿いの病院の前でドッキリをやっているとはちょっと思えなかった。


「あの……」


 女性の目がかっと開いた。

 からかうような濁った目でゆうたを見てニヤリと笑うと、スピードを上げた。

 ドリルのような速度で回転すると、芝生の上から飛び上がった。


 ゆうたは悲鳴を上げた。

 飛び上がった生首に、胴体がついていたのだ。

 それは人の胴体ではなかった。龍のような蟲のような、長細い体がずるずるずると地中から現れると、尖った尻尾を最後にそのまま空へと昇って行った。


 呆気にとられて見送っていたゆうたは、ふと気づいて辺りを見回した。

 道路の向かいにある金物屋の屋根の上にも中年女性の生首が回転していた。

 そいつも突然狂ったような高速になると、屋根の中から長い体を引き抜いて、空へと昇って行った。


 本屋の横にも、電柱のてっぺんにも生首がいた。

 車屋の屋上にも、マンションの5階のベランダにも生首が回っていた。

 それらが一斉に高速回転すると空へ飛び立った。

 遠くからも飛び立つ生首の影がたくさん見えた。

 生首に細い胴体を揺らして昇って行くそのさまは、保健体育の授業で見た精子の大冒険を思わせた。


 青い空に、ゆらゆらと尻尾をゆらめかせ、数千数万の生首たちが昇って行った。




◇マークまでは実体験です。実際には私は自動車を運転していました。

この話は以前に『私が実際に体験した心霊話』でも紹介しました。

今まで見て来たおかしなものの大半は夢とか気のせいとかで説明出来ますが、これは最も説明のつかない体験のひとつでした。

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