第二十話:ゾアラ
恐怖度:8
写真には6人の男女が写っている。
不規則に並んで写るその中に、時間をかけて7人目がいつの間にか出現している。
明らかに人間が1人増えているのに、意外と気づかないものだ。
7人目が出現しきったところで司会者が明るい声で問題を出す。
「さて、どこが変わったでしょうか?」
TV番組でよくあるような問題だが、私は最近、実際にこのような体験をした。
私は最近、あるVRゲームにハマっている。
オンラインで3vs3のチームに分かれ、フライングディスクを使ってゴールを奪い合う架空のスポーツゲームである。
プレイヤーは皆、同じデザインのアンドロイドのアバターを着て、グリーンチームとオレンジチームに分かれて無重力空間を泳いで争う。
いわば宇宙空間でフライングディスクを使って行うハンドボールといった感じのゲームだ。
海外製のゲームで日本語に対応していないためか、日本人のプレイヤーは多くはない。
しかし有名なYouTuberのサルトルさんという人が同好の士を集め、土曜日の夜に暇な者達でゲームを行っていた。
「うぉぉぉ! めっちゃええシュート決めるやん」
サルトルさんが言った。
VRゴーグルを被って見る世界はすべてCGだが、声はまるで隣で本人が喋っているように聞こえて来る。
シュートを決めた仲間がガッツポーズをする。彼の部屋でガッツポーズをしているリアルの彼を家の人が見たらアタマを心配しそうなほどに派手なアクションで。
私はオレンジチームでサルトルさんのグリーンチームと試合をしていた。
メンバーは皆、顔は知らないが気心の知れた人達で、私達は和気あいあいとゲームを楽しんでいた。
試合を進めていると、サルトルさんがそのことに気がつき、叫んだ。
「うぉい!? 1人多いで!?」
試合を止めて皆が周りを見た。
本当だった。オレンジチームのメンバーが4人いる。
「誰?」
「ちょっと皆、真ん中に集まってください」
「こっち、こっち。集合」
6人がアリーナの中央に集合する。アバターの上に表示されている名前を確認する。
「あれ、誰や……?」
1人だけこっちに来ずに、下のほうでじっと浮遊しているオレンジチームの人がいた。間違いなく7人目だ。
「あなた、誰ですか?」
「日本語、わかります?」
呼び掛けても返事がないので、私達のほうから7人目のほうへ移動した。
近づいてみると、アバターの上に【Stigia】という名前が浮かんでいる。
「人、入ってる?」
「外国の人かな」
「もしかしてバグ?」
私達がジェスチャーで「ハロー」とか「動いてみてよ?」とか意思を示してもStigiaは無反応だった。
「まさかBot?」
「人、入ってへんのかいな」
「おーい。アー・ユー・ゼア?」
するとStigiaが喋った。
なんか意味はわからなかったけど、めっちゃ低くてはっきりしない声で「ゾアラ」と言った。
ゴーグル内蔵のスピーカーからこんな重低音が出るとは思わなかった。
アバターはずっとすっとぼけた顔でフワフワ漂ってる。
「ゾアラ?」
「ゾアラって何や」
「何語?」
私達がざわざわしていると、Stigiaはまた一言だけ喋った。
また凄く低い、はっきりしない声で「オム」と言った。
そして私達の見ている前で、彼のアバターはすうっと消えて行った。
「すーっと消えたで」
「普通ぱっと消えるもんなんちゃうん」
「運営にバグ報告しとく?」
「海外やで。言葉通じへんで」
「幽霊がいつの間にか混じってたのかな……」
「こ、今夜はこのへんでお開きにしよかー」
そう言い合って私達は散会した。
VRゴーグルを脱ぐと、そこは架空の宇宙空間のアリーナではなく、いつもの私の部屋だった。
私は滑り止めのマットを敷いた床の上に立ってずっと動いていたので、ふうと息を吐いて汗を拭った。
手にはもちろんフライング・ディスクではなく、タッチ・コントローラーが握られている。
私はそれを置き、コーヒーを淹れに台所へ向かおうとしたところで足が止まった。
ぎしり、と誰かが床を踏み鳴らす音がしたのだ。
VRゴーグルを被っていると、当然だが視界が塞がれる。耳もずっとヘッドフォンを当てていて、聞こえない。誰かが家に入って来ていても気づかない。
私は息をひそめ、声を殺し、気配を窺った。
台所のほうでまたぎしりと音がし、低く囁くような声が聞こえた。
「ゾアラ」と。
今、これをここまで書いて、台所へ行ってみるところだ。もし、この後の私の文章が途切れてしまったら、私に何かあったということなので、どなたか警察に連絡




