第十八話:まんが宇宙むかしばなし 『みにくい なめくじの子』
★恐怖度:7
宇宙に散らばっていた知的生命体文明が同盟を結びはじめた頃のお話。創設されたばかりの宇宙小学校に通う黒人のサムは、いじめられっ子のクックの唯一の友達だった。クックはなめくじのような姿をしたジーク星人だった。
みにくい
なめくじ
塩かけろ
やーい
やーい
きもちわるい
◇ ◇ ◇
ぼくの名前はサム。
地球系星系母性テラはアメリカ区生まれのアフリカ系アメリカ人だ。
今日はぼくの友達の話をしようと思う。
彼のなまえはナメクック。サバ系星系属星ジークからやって来たとても内気なやつだった。
ぼくらは宇宙中から集められたこども達で、あの事件でも有名な、その頃創設されたばっかりの宇宙小学校に通っていた。
ナメクックはいじめられていた。
ぼくらは宇宙に散らばる色んな星から集まっていたけれど、姿はみんな似通っていた。頭と胴体と手足で出来ていて、顔には2つの目と、口と鼻が1つある。
でもナメクックはジーク星人で、ジーク星人の姿はぼく達と大きく違っていた。
目は2つだけど上に向けて飛び出していて、鼻も口もなく、体は溶けたバナナみたいで手も足もない。ほんとうは地べたを這っているお腹に無数の手足があるらしいんだけど、それはぼくらからは見えなかった。
しかも彼らの体はほんとうに溶けたバナナみたいで、いつも粘液を出している。ナメクックが廊下を通ると糸を引いたみたいな足跡が残った。
肌の色が違うだけでもいじめられるのに、姿がまったく違う彼らのことをいじめるやつらの差別ぶりはそれはひどいもんだった。
彼らはジーク星人を同じ学校に通う仲間としてどころか、宇宙連盟に属する同じ文明人としてさえ見ていなかった。
何しろ宇宙に散らばるさまざまな人種が出会い、同盟を結びはじめたばかりの頃の話なので、みんな慣れていなかったのだ。
学校にジーク星人は2人いた。どちらもぼくと同学年で、1人はナメクジーオというやつだった。こいつは無愛想で口が悪く、意地悪なのでぼくも嫌いだった。いじめはしないけれど。
ナメクックは優しくて、いいやつだった。ぼくは彼を『クック』と呼んで仲良くした。彼と仲良くするぼくをみんなは物好き扱いしたけど、いじめはしなかった。ぼくもみんなと違って肌の色が黒いけど、ぼくの人種に対する差別の問題はもう過去に色々あって片付いていて、ぼくをいじめると世間から逆に叩かれるからだった。
「元気だせよ、クック」
S-146恒星が夕陽に変わって黄色く照らす窓辺で、ロッカーの上に並んで座り、ぼくはうなだれるクックの触覚を覗き込み、声をかけた。
「ぼくじゃないのに」
クックの体の横のほうにある涙腺からジュルジュルと涙が落ちた。
給食費を盗んだやつがいたのだった。盗まれた子の席の近くの床に糸を引いたような跡があったので、真っ先にクックが疑われたのだ。ナメクジーオはクラスが別なので、同じクラスの彼だけが疑われた。
「クックの足跡なんて、そこら中にあるのにな。なんでそれを『動かぬ証拠』とか言うんだか、ぼくにもわからないよ。明らかに『不当な嫌疑』ってやつだ。元気だせって」
「ありがとう、サムだけだよ」
クックは消えてしまいそうな声で言った。
「ぼくのこと、偏見の目で見ないの」
そう言われてちょっと胸が痛んだ。正直、最初はぼくも彼らジーク星人のことを色眼鏡で見ていたからだ。
正直、気持ち悪いと思った。もちろん情報としては前もって知ってたけど、いざ実物を目の前にすると背筋を蛇が這うみたいな嫌悪感に襲われた。地球の生物でいえばナメクジに彼らはそっくりで、それが人間大なもんだから、隣に来られるだけで思わず睨んでしまっていた。
でも、クックの中にいるのはぼくらと何も変わらない、宇宙平和を望む文明的な少年だということにぼくはそれからすぐに気がついた。それどころか彼は高度に知的で、そしてとても優しいやつだった。このへんを証明するための例を挙げようとするときりがないぶん返って1つだけなんて浮かばないけど、とにかく成績はいつも上位でトップを取ったことも何度もあり、何よりいじめなんて絶対に出来ないやつだった。
全校生徒で1位になって見せてもみんなのジーク星人に対するいじめは止まらなかった。やっかみもあったとは思う。でもたぶんだけど、一番主な理由はまだ『ジーク星人をいじめるのは悪いこと』という共通観念がみんなの間に出来上がっていないからだったと思う。
夕陽に照らされた横顔でクックは言った。
「みんなが仲良くしてくれなくて、ぼく、とっても腹立たしいよ……。でもサム……。君だけはぼくをわかろうとしてくれる。だから、とても気持ち悪いよ」
最初はクックのこうした言葉遣いにぼくもみんなと同じく拒絶反応を示してしまっていた。でも、付き合っているうちにわかって来た。ジーク星人の語彙には指し示すその意味がぼくらとは微妙に違っている言葉があることを。
彼らの『腹立たしい』は、ぼくらの『悲しい』に近く、彼らの『気持ち悪い』は『嬉しい』に近いのだそうだ。
悲しくなるとジーク星人は体の奥からマグマが沸き上がって来るような感覚になるらしく、ぼくらで言う腹立たしさに感覚が近く、また嬉しいという感情は胃液が口元に昇って来るような感覚なので『気持ち悪い』が一番似ているのだという。
ぼくがクックを慰めていると、教室の入口にナメクジーオが現れた。
「おい、クック」
彼は宇宙共通語でクックを呼ぶと、その後に意味のわからない言葉で何かを言った。
クックもそれに意味のわからない言葉で答えると、ナメクジーオは頷き、ヌルヌルと足音を残して去って行った。
「今のジーク星の言葉?」
ぼくが聞くとクックは無言で、皮膚を上方向に波打たせて頷いた。
「なんて言ったの? 彼」
「話があるから後で彼の家に来いって」
「ふーん。でも、宇宙共通語で喋ったほうがいいぜ? 母星の言葉で会話なんかしてたらコソコソ悪口言ってるみたいに取られる」
「気をつけるよ」
「でも……『彼の家』って、ナメクジーオは寮には入ってないの?」
「ジーオのお父さんは有名な科学者なんだ」クックは自分のパパのことでもないのに自慢するように言った。「だからこの宇宙連盟国に住んでるんだよ」
「すごいな」
ぼくは心からすごいと思った。ここに通う生徒はみんなそれぞれに家柄のいい子が集められているけど、みんな家族と離れて来ていて、寮に入っていた。
宇宙小学校のある宇宙連盟国はいわば宇宙社会の中心で、基本的には公共の建物か大企業のビルやドームしかない。ここに家を持てるなんて相当にすごいことだ。世界的な偉人でなければ無理だ。確かにジーク星人は知能が高いからな。
「ぼくにも寮を出て、ジーオの家に一緒に住んでいいって言うんだけど」クックは言った。「あきらめてないんだ、ぼく。みんなと仲良くなりたいんだ」
「……なれるよ、時間がいるだろうけど」ぼくはクックを慰めた。
そんなある日、ちょっと洒落にならないことが起こった。
理科の授業で鉱物から塩を取り出す実験をやったんだけど、その塩をクックに振りかけたやつがいたんだ。
「あつうっ……!」
クックがそんな声を上げたので、ようやくぼくは気づいた。
クラスでも際立って元気のいい男子4人がクックを取り囲んで上から塩を振っていた。
「うわー! 面白ぇー! っていうか気持ち悪ぅー!」
「溶けてんぜ? こいつ、塩をかけたら溶けやがんの」
「俺の母星にナメクジって気持ち悪い動物いるけど、それと同じだわ」
「たくさんかけたらどうなるんだ、これ? 死ぬ?」
「体の水分が抜けて縮むだけで死にはしないんだって。ほっといたら元に戻るんだって」
「じゃ、大量にかけてみようぜ。ひゃっ! 気持ち悪いから近づくな、このヌルヌル星人が! オラッ!」
「やめろ!」
ぼくがそう怒鳴りながら助けた時、クックは萎びたように少し小さくなっていた。
「ひどいことするな! 許さんぞ!」
4人はそれぞれ違う星から来た生徒だった。1人は地球出身で、しかもぼくと同じ区の出身で、肌の白いジャックという名前の子だった。ジャックはぼくの顔をニヤニヤ見ながら、言った。
「お前は仲間だもんな」
「おいやめろ、チクられたら大変だぞ」と言ったのはセグル系星系の背の低い子。
星系が違ってもテラの差別問題は有名なようで、肌の色を理由にぼくを差別すると問題とされることをよく知っているようだった。
ジャックは舌打ちをすると、クックから離れ、向こうへ行った。
クックはさらに小さく萎みながら苦しんでいた。
「大丈夫、クック!? どうしたらいい? 水かけたらいい?」
ぼくが聞くとクックは答えずに、ただ震えながら悲しみの言葉を繰り返していた。
「腹立たしいよ……。ぼく、すごく腹立たしいよ……」
ぼくはジーク星人に対する差別は子供の社会だけのことだと思っていた。しかし実は大人の世界でも同じことが起こっているようだった。
宇宙連盟国が創立されてまだ数年しか経っていなかった。それまではお互いに遠く離れた場所から文字を使ってのコミュニケーションしかしていなかったジーク星人と他の星々の大人達が直接会って談話するようになり、状況が変わっていたのだ。
ぼくはナメクジーオの家に遊びに行った。
ぼくは彼とは仲良しじゃなかったけど、クックが行くと言うので。ジーオにも許可をもらった。
連盟国に家を持てるほどのジーオのお父さんがどんな人かも興味があった。
それは家、というよりも大きなドーム型の研究所だった。
虹色を浮かべた銀色の扉がシャッと横に開くとナメクジーオが立っていた。
「物好きだな、黒いの」彼は言った。「お前なんか邪魔だけど、まあ入れ。クッキーを出してやる」
ぼくはクックと親しいのでもちろん知っていた。ジーク星人はぼくらとは食べるものが違う。熱いものがダメで、動物性のものは食べられず、でも卵や牛乳を使っていてもクッキーは大好物だ。だから彼の言うクッキーがぼくも大好きなあの普通のクッキーのことだと知っていた。
ジーク星人は日光にあまり強くなく、じめじめした場所を好むので、ナメクジーオの家の中は湿気が多いを通り越してじめじめしていた。
長い動く廊下に乗って進むとまた虹色の扉があって、それがシャッと横に開くと何と言うのだろう、熱帯雨林みたいな部屋があった。
広いその部屋の中心にただの岩みたいなテーブルがあり、緑色の湿った椅子の上に……何て言ったらいいか、この表現しか浮かばないんだけど、腐ったバナナみたいな色をしたジーク星人が這いつくばっていた。
「ナメクジオン教授、こんにちは」とクックが言って、踊った。
「やあクック。いらっしゃい」と言って、ナメクジオン教授もお返しに踊った。
まるで馬が前脚を上げるみたいに立ち上がって、ヒラヒラと体中を蠢かせて踊るこの動きはジーク星人同士の挨拶だ。
「サム君だね? いらっしゃい」
ぼくのほうを見てそう言うと、ナメクジオン教授はぼくに体の下にある肛門まで見せて立ち上がり、ヒラヒラと挨拶してくれた。
ぼくは同じ挨拶をしようにも出来ないので、「どうも」と言って握手するため右手を前に差し出した。
二人の動きが噛み合わないまま、ぼくらは暫くそうやって友好の意思を示していた。
「サム君は私達を差別しない珍しい人だそうだね」
夕食を四人で囲みながら、ナメクジオン教授がぼくに言った。
食卓みたいな岩の上には胃液でドロドロに溶かした青のりみたいなもの、ちょっと匂いの独特な白い吐瀉物のような何か、砕いた蟻の外骨格みたいなキチン質の果物などが並んでいた。
ぼくにはレタスとトマトをそのまま生で出してくれた。ぼくの国にはベジタリアンが多いからこういうのには慣れていた。
「ぼくの国には『みにくいあひるの子』という有名な童話があります」ぼくはトマトをもぐもぐしながら、言った。「姿が違うからという理由で差別するのはとても愚かなことだという教訓を描いた素晴らしい童話なんですよ」
あひるの子が実は白鳥で、それまで自分をいじめていたあひるの子らを見下して『ざまぁ』するみたいな話だという側面についてはなんとなく伏せた。
「なるほど君はその童話を読んでいたから差別はしないということかね」教授は言った。表情はわからなかった。「それならなぜ同じ有名なその童話を読んでいる筈の者達が、私達のことを姿が違うからという理由で差別するのだろう」
「努力を続けていれば、時間が解決しますよ」ぼくは言った。「ぼくら肌の色が黒い人間にも戦いの歴史があります」
「けっ」と、ナメクジーオが嘲笑うように言った。「解決する頃には俺ら死んでるぜ」
クックはいつものように大人しく、黙って青のりみたいなものに首を伸ばし、直接食べていた。
「ところであれは何ですか?」
ぼくは気になっていたもののことを教授に聞いてみた。部屋の隅のほうに、幕をかけられた何かの機械らしきものが置いてあったのだ。ちょうどカバの子供ぐらいの大きさで、銀色の車輪が幕の下から覗いていた。
「あれは宇宙平和のために役立つ機械だよ」とだけ教授は答えてから、話題を急に変えた。「ところでクック。級友からメルォツをかけられたそうじゃないか」
どうやらジーク星人の言葉に『塩』という単語はないらしく、『恐怖の大魔王』みたいな意味の『メルォツ』というのがそれに最も近い単語らしかった。
ナメクジーオが立ち上がり、彼らの言葉で怒ったように何か言った。どうやら『そうなのか!? 初めて聞いたぞ!?』のようなことを言ったようだった。
「だって……ぼくさえ黙ってれば、ジーオも怒らないだろ?」と、クックは宇宙共通語で言った。
食卓上にジーク星の言葉が飛び交った。意味はわからないけど彼らが怒っているのはわかった。ただし喋っているのはほとんどナメクジーオの親子だけで、クックはたまに聞かれたことに答えているだけのようだった。
ぼくはばんと机を叩いたけど岩なのでぺちんとしか音がせず、仕方なく大声を出した。
「共通宇宙語で喋ってくださいよ! 何を言っているのかわからない!」
すると教授とナメクジーオがぼくのほうを振り返り、内緒話をするように何か囁き合った。
「いい加減にしてよ!」ぼくは語気が荒くなってしまった。「いい加減にしろよ、このナメクジども!」
すると親子はぴたりと話すのをやめ、体中からどくどくと液体が沸騰するような音を立ててぼくを見た。
「それ、知ってるぞ」
「テラに住む気持ち悪い動物のことだな? 差別用語だ」
「あ……。ごめんなさい」
ぼくは失言を謝った。クックもぼくを擁護してくれた。すると2人は仕方なさそうに席に戻り、言った。
「クックがお前を擁護するなら仕方ない」
「2対2だ。ドローだ。多数決は自由民主主義の原則だからな。クックに免じて君の失言を許そう」
テーブルの上の緑色のどろどろした液体を飲むと、教授は言った。ようやく宇宙共通語に戻ってくれた。
「それにしても歯痒いよ。君達がジーク星人を差別するのも結局は多数決だろう? 宇宙人の大半が私達のような姿をしていれば、姿の違うのは君達のほうだった。とはいえ、そうだったとしても私は差別していたつもりはないがね」
「ぼくは差別してませんよ」ぼくは言った。
「そうだったね、すまない。それにしても宇宙連盟での私の立ち位置もおかしなもんだよ。いい年をした大人のくせに、私がどんな有益な発言をしても私が姿が違っているというだけで相手にしてくれないんだ。姿を知るまではこんな立派な家も用意しておいてくれたというのにね。姿を知った途端、差別されはじめた」
「俺も明日、学校に行ったらメルォツをかけられるかもしれないな」ナメクジーオが言った。
教授がそれに対してまた意味のわからない言葉で何か言った。ドイツ人が怒ってるみたいな喋り方だった。
ぼくはもう諦めて、レタスをしゃくしゃく言わせながら食べていた。
クックが2人に反論するように何か言って、ぼくのほうを悲しそうに、触覚をビリビリと震わせて見つめた。
次の日、クックは学校に来ていなかった。
誰に聞いても「そんなの知るわけないよ」とか「溶けたんじゃないの?」とか言うばっかりで理由がわからない。
ぼくはその日が例の事件の当日になるなんて思いもせずに、机の上に教科書を出すといつものように授業を受けはじめた。
静かだった。
先生の声とみんなが端末を操作するこちょこちょという音しか聞こえて来なかった。
そこへ廊下をピロピロと音を立てて何かがやって来た。
扉が開いた。
みんながそっちのほうを注目すると、そこにナメクジーオとクックが並んで立っていた。
彼らは銀色の車輪がついたカバの子供ぐらいの大きさの機械を押していた。
それは虹色のカタツムリのような形をした機械で、殻にあたる部分にはいくつもの穴が空いていた。
「なんだなんだ」と言ってジャックが大笑いした。「お家を持参したのか? それともそれで塩を防ぐのか?」
「それは何ですか?」と、先生が怖い顔をして言った。「非常識なものを学校に持ち込むんじゃありません。これだからジーク星人は……」
ナメクジーオが機械を操作すると、ピュッと穴から何かの液体が飛び出し、先生の顔にかかった。
先生は声も出せずにそれをまともに浴びると、煙を上げて溶けた。
みるみる間に先生の体まで溶けはじめ、白骨だけ残して先生は教授は教壇の上に倒れた。
ナメクジーオが意味のわからない言葉で何か宣言するように言うと、機械の穴という穴から液体が飛び、教室中に降り注いだ。
ジーク星人がそんなに速く走れるとは思ってもみなかった。
クックが物凄い勢いでぼくをめがけて襲いかかって来たのだ。
彼はぼくを体内に取り込もうという風にのしかかると、ぴったりと床との隙間を軟らかい体で閉じた。
ぼくは息苦しかった。ヌメヌメとしていて冷たくて、気持ち悪かった。動こうとしても凄い力で抑えつけられ、まったく動けなかった。
「ぼくは反対だったんだよ。でも……」
クックの声が体の振動とともに伝わって来た。
「多数決で負けたんだ。親子2人とぼく1人だったんだ。民主主義には従わないといけなかったんだ」
意識が遠くなって行った。
意識が途切れかけた時、クックがぼくの上から離れた。
ぼくは朦朧とした意識で教室を見渡し、目を大きく見開いた。
同級生のみんながドロドロに溶けて倒れていた。白骨が教室中に転がっていた。
「サム」
クックの声がした。
「動かないで。ジーオに見つかる」
ナメクジーオは体中を波立たせて哄笑していた。
「気持ち悪い! なんて気持ち悪いことだ!」と嬉しがっていた。
言葉を失っているぼくに説明するように、背を向けているクックがお尻から声を出した。
「ぼく達の体は酸に溶けないんだ。君達と違って……」
そして最後に聞いたクックの言葉は、ぼくにも意味がわからないものだった。
「嬉しいよ。ぼく、とても嬉しいよ」
宇宙連盟の会議場では教授が同じことをしていた。空間転送装置でジーク星から仲間を次々と呼び寄せ、彼らは宇宙連盟国を占拠した。数の多さで逆転したジーク星人達はぼく達をいじめたり差別したりはせずに、酸をばら撒いて即刻処刑した。
ぼくは1人だけ、彼らの転送装置でテラに飛ばされた。クックが逃してくれたのだ。
あれから30年経った今も、宇宙連盟国はジーク星人が占拠し、他のすべての星と戦争状態にあるが、ただでさえ科学力と武力で勝る彼らは手強く、その上星全域に酸の雨がずっと振り続けているため手出しが出来ない。
宇宙連盟国とジーク星、2つの拠点からミサイルを飛ばし、彼らは着々と今、宇宙征服を進めている。
この戦争が1人のジーク星人の子供に塩を振りかけた子供の遊びから始まったことを見て知っているのは、私だけである。
ナメクジーオと教授はともかく、私は今でもクックに会いたいと思っている。
そして信じている。もう二度と会うことはないだろうが、クックも私のことを、友達だと思ってくれていることを。




