第十五話:幽霊になろう
★恐怖度:4
霊界に画期的なインターネットサイトが立ち上がった。その名も『幽霊になろう』。それはそれまで現世への怨みを抱きながらも幽霊になること叶わず霊界でくすぶっていた死人たちの夢を実現してくれるサイトであるように思えたのだが……。
その昔、幽霊は誰でもがなれるものではなかった。
特別な怨みや大きな未練を抱えて死んだ人や幽霊になる才能に恵まれている人だけに、それはなれるものだった。
しかも才能があっても必ずしもなれるわけではなく、まずは新人幽霊賞に応募して、その中から「この怨みは凄い」「煌めくような未練だ」「期待の幽霊登場!」などと認められた者だけが幽霊となれ、現世での活動を許されていた。
そうでない死人たちは晴らしたい怨念がありながらもそれが平凡なためだったり、あるいは人間を驚かせたり怖がらせたりするのが好きなだけの趣味レベルだったりを理由に、死人の国から出ることを許されず、現世に呪いを振り撒くこともなくさまよい、そのうち天国か地獄かへ行くのが常だった。
幽霊になれる者はほんの一握りであり、その他大勢の凡庸な死人たちは、自分の怨みを近辺の死人に愚痴るぐらいしか出来ず、現世の誰にも怖がられることなく、『うらめしや』を言う権利すらなく霊生を終わるのが普通だったのである。
しかしインターネットの普及と発展は霊界にも押し寄せていた。
かつては幽霊のみが持っていた霊界に対する『発言権』がみんなのものとなり、平凡なただの死人であろうと『誰でも』が自分の考えを不特定多数に向けて発言したり、現世で活躍する幽霊たちに対しても批判したり称賛したり出来るようになった。
しかしそれでも死人はやはりただの死人のままであった。
しかし今、誰でもが幽霊になれる夢のようなサイトが誕生した。
株式会社『iwa project』が立ち上げた投稿サイト『幽霊になろう』である。
投稿者たちはここに自分の怨み、未練、幽霊に対する憧れ等を文章にして投稿することで幽霊になることが叶えられる。
誰でも現世に化けて出て、人間を驚かせたり怖がらせたりすることが出来るようになったのだ。
誰でもが『うらめしや』を発言出来る時代が到来したのである。
とはいえつまらない怨みや平凡な未練、わかりにくい呪いなどには人間もあまり怖がってはくれず、幽霊になることの難しさに挫折する投稿者がほとんどだった。
それでもこのサイト出身の幽霊で都市伝説にまでなった者も少なからず登場した。
『お前の脳髄を食べたい』『現世に化けて出てみたらスッキリしちゃった件』『呪殺好きの丑の刻参り』その他、人間たちの間で大きな話題となった呪いが多数、産まれた。
投稿者の多くはそれに続く夢を見て、熱心に投稿を続けた。
認められた呪いは『怨霊化』や『地縛化』あるいは最高の待遇として『都市伝説化』の声が出版社からかかる。それを夢見て。
裏召優太の怨みは死人の世間からすればありふれた、つまらないものだった。
しかし彼自身にとっては重大事で、何が何でも晴らさなければならないものだった。
彼は享年36歳。新婚旅行の最中に新婚の妻に保険金をかけられ、殺された。妻には別に恋人がおり、その男との共謀だった。
現世ではワイドショーに取り上げられるほどのニュースになり、死んでから一躍時の人となり騒がれたが、それでも彼は幽霊にはなれなかった。
妻と男に対する怨みを幽霊新人賞に投稿したが、審査員たちへのウケは悪く、一次選考すら突破できなかった。
むしろ現世で若い奥さんとラブラブできてたくせに、今さら何が怨みだよ! との反感を買った。
加えて睡眠薬を多量に飲まされるなんて綺麗な死に方だったのがよくなかった。
その年の新人賞で大賞を獲ったのは恋人もなく幸薄くしかし小金持ちだったため詐欺師に騙されて身ぐるみ剥がされた挙げ句バラバラに切り刻まれて山に埋められた男性と、二人で一杯のかけそばを食べた帰り道に白い乗用車に轢き逃げされた貧しい母子の二組だった。
裏召優太は諦めることなくその後も毎年自分の晴らしたい怨みを形を変え品を変え投稿し続けたが、現世のワイドショーではあれほど話題になったにも関わらず、霊界の話題にはまったくならなかった。
うちひしがれていた彼はある日、『幽霊になろう』というインターネットサイトのことを知る。
これだ! と彼は思った。
現世でワイドショーネタになるほど特別な前世を持つ自分がこのサイトでトップになれないわけがあろうかと考えた。
そこへ会員登録して怨みを投稿すれば即、誰でもが幽霊になれる。しかしそれでは単なる野良幽霊にしかなれず、しかも化けて出たところで人間から馬鹿にそれるのがオチだった。事実、裏召優太も不特定多数の人間の前に化けて出て、「ワイドショーやニュースで有名になった裏召優太です」と名乗ったところ、「嘘つけ」「ニセモノ」「人気取りたいからってそういうことしちゃダメ」みたいな反応しか返っては来なかった。
呪いたい相手の前に化けて出るためには最低『怨霊化』しなくてはならない。そのためには人気の幽霊となる必要があった。
サイトに投稿される呪いはPVとかブクマと呼ばれるものの数でランク付けされる。怨霊化される作品は最低PV3万以上と言われ、裏召優太のPVは一番多くついた作品でも20程度だった。
「早く自分を殺した二人の前に化けて出たい」
そう思い、彼は努力した。
人気作品に学び、流行りにも乗った。しかし流行りの作風の呪いはあまりに多く、単にそこに埋もれただけだった。
セルフプロモーションもした。自分はあのワイドショーやニュー……と自己申告したところでブラバされた。
怨みのパワーを全開にすれば、もっともっとこの想いを滾らせれば皆もわかってくれると思い、妻の姿を頭に描いた。そこには憎しみと同じぐらいの愛が残っており、特に付き合いはじめの頃の可愛かった笑顔を思い出すとほっこりしてしまい、かえって怨む気持ちが萎えてしまった。共謀した男のほうを思い浮かべようにも顔を知らなかった。
呪いたい、殺したい相手がいる。
自分を陥れた憎い妻と見知らぬ男への怨みがある。
しかし彼はこうして怨霊になれずにいるのである。
彼を応援する手立ては、実はある。
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