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人体ガチャ

作者: ウォーカー

 「次こそ、レア景品を当てるぞ!」

「どうだ、何が出てきた?」

「あちゃー、またダブリだ。」

今日も子供たちが、駄菓子屋に集まって遊びに興じている。

子供たちが熱中しているもの、それはガチャ。

いわゆる、カプセルトイというもの。

一回、100円か200円くらい。

ガチャの機械に硬貨を入れて、レバーを回す。

そうすると、景品が入ったカプセルが出てくるようになっている。

景品には、出やすいもの、出にくいものがあって、

数が少ない景品には希少価値があり、元の何倍もの価値が付けられることもある。

ガチャの機械の前に集まった子供たちは、

他人がガチャを回す時でも、

まるで自分がガチャを回しているかのように、固唾を飲んで見つめている。



 これは、ガチャに熱中している、ある男子中学生の話。


 ガチャを回す時の興奮がたまらない。

ガチャなら、当たっても外れても、その過程をゲームとして楽しめる。

もしも、珍しいレア景品が当たれば、

それを欲しがっている人と、他の欲しい景品に交換してもらったり、

あるいは換金することだって出来る。

だから、ガチャは損をすることがない遊びだ。

その男子中学生は、そういう考えのもと、ガチャに熱中していた。

親から貰った月々のお小遣いの多くは、ガチャの代金として消えていた。


 その男子中学生は、今日も学校が終わるとすぐ、

お気に入りのガチャがある駄菓子屋にやって来ていた。

ガチャを回そうとポケットの小銭を弄る。

するとその手を、背中からの声が遮った。

「なあ、向こうに面白いガチャがあるんだけど、行ってみないか?」

後ろを振り返る。

そこに立っていたのは、同じく男子中学生で、

クラスメイトのガチャ仲間だった。

「誰かと思ったら、お前か。

 面白いガチャって、何の話?」

その男子中学生が聞き返すと、ガチャ仲間の男子は、にやりと笑った。

「実は、向こうにもっと良いガチャがあるのが、見つかったんだよ。

 お前もガチャが好きだろう。だから、きっと気に入ると思って。

 ちょっと行ってみないか。」

その男子中学生は、面倒くさそうに返事をする。

「これからガチャを回そうって時に、邪魔をしないでくれよ。

 そもそも、もっと良いガチャって何だ。

 レアな景品が当たりやすいガチャか?」

その男子中学生が話に乗ってきたので、

ガチャ仲間の男子は、満足そうに鼻を鳴らした。

「当たるかどうかはお前の運次第だけど、景品がレアなのは保証するぜ。

 なんと言っても、人体が出てくるガチャだからな。」

「・・・人体が出てくるガチャだって?

 それは面白そうだな。」

興味をそそられたその男子中学生は、

ガチャ仲間の男子に連れられて、近所の路地裏に向かった。


 路地裏をしばらく歩いていると、向こうに人だかりが見えてきた。

ガチャ仲間の男子が、その人だかりを指差して言う。

「あの人だかりにあるのが、人体が出てくるガチャだよ。」

その人だかりは主に子供たちで、客層は他のガチャと大差ない。

しかし、路地裏の人だかりの熱気は、他のガチャの比ではなかった。

路地裏のガチャでは、子供たちが血眼になっている。

「来い!来い!来い!」

「絶対当てる!」

「今月の小遣いはもうこれだけなんだ!当たってくれ!」

「やった!レア景品ゲット!」

それまで目の前で大騒ぎしていた子供の一団が、

目当ての景品が出てきたようで、ガチャの機械の前から引いていく。

そうしてガチャの前に、人だかりの谷間ができた。

それを見て、ガチャ仲間の男子が、その男子中学生を肘で小突く。

「丁度空いたみたいだぜ。お前、あのガチャを回してみろよ。」

「僕は・・・」

もう少し様子を見てから決める。

その男子中学生は、そう返事をしたかった。

しかし、割れた人だかりの左右から、期待が込められたような視線が降り注ぐ。

その視線に圧倒されて、仕方がなく、ポケットの小銭を弄ってこう応えた。

「わかったよ、一回だけ回してみる。」

ポケットから取り出した小銭を、

ガチャの機械の硬貨投入口に入れて、レバーを回す。

ガチャ・・ガチャ・・ゴトン。

名前の通りの動作音がして、

景品取り出し口に、直径数cmの丸いカプセルが吐き出された。

その男子中学生は、景品取り出し口からそれを拾い上げると、

ポン!とカプセルを開けて、中身を手の平の上に転がした。

すると、手の平の上に、目玉がゴロッと転がり出てきた。

「うわっ、目玉!」

驚いて、あやうくそれを取り落しそうになる。

しかし、落ち着いてよく見ると、それは本物の目玉ではなく、

ガラスか何かで出来た、小さな人形の目の部品のようだった。

目玉の大きさは、およそ1cmくらい。深い緑色の瞳をしていた。

ガチャ仲間の男子が、その様子を見て腹を抱えて笑っている。

「お前、せっかく出てきた景品を、落として壊したりするなよ。

 どれどれ。出てきたのは目玉か。しかも緑色の瞳だ。

 レアだぜ、そいつは。」

周りにいた子供たちに、ざわめきが起こる。

「すっごい!緑色の瞳の目玉だ!」

「ぼく、そんなの初めて見たよ!」

「欲しい!1000円で売ってくれ!」

「それより、僕が持ってるこのレアな足と交換してくれないか?」

もっと良いガチャだと言われて来てみたが。

その男子中学生は、人形を集めるような趣味が無かったので、

そのガチャの景品自体には、さほどの興味をそそられなかった。

しかし、ガチャから出てきた景品への、周囲からの羨望の眼差しが、

まるで自分に向けられているような気がして、気分がいい。

ガチャで手に入れた景品を褒められているのが、

まるで自分が褒められているように聞こえてくる。

その感覚を、もう一回味わいたい。

そう思ったら、いつの間にか、手がポケットの小銭を掴んでいた。

「もう一回だけ、ガチャを回してみよう。」

そう自分に言い聞かせて、その男子中学生はガチャを回した。

ガチャ・・ガチャ・・ゴトン。

吐き出されてきたカプセルを開ける。

次に出てきたのは、金色の髪の毛だった。

またしても、周りの子供たちからどよめきが起こる。

「金色の髪の毛!?そんな景品、初めて見たよ!」

「3000・・いや、5000円出す!売ってくれ!」

景品の珍しさに、もてはやす声があちこちから上がる。

そんな囃し立てる声に背中を押されるようにして、

その男子中学生は、もう一回もう一回と、

人形の部品が出てくるそのガチャを回し続けた。


 その男子中学生は、路地裏のガチャを回し続けた。

いくつもの景品を集め、時には出てきた景品を他の人と交換するなどして、

結果として手元には、人形一体分の部品が集まっていた。

組み上げてみるとそれは、金髪に緑色の瞳をした人形だった。

その人形を見て、周りの子供たちが感嘆の声を漏らす。

「すごいな。あのお兄ちゃん、とうとう一体分の部品を集め終えちゃったよ。」

「金髪に緑色の瞳の人形なんて、組み上げた人を初めて見たよ。」

称賛の声が、こそばゆい。

ガチャ仲間の男子も、感心した様子で話しかけてくる。

「やったな。

 他にも色違いの部品はあるけれど、人形一体分をコンプリート。

 つまり、これで全部集め終わったってことだ。」

「・・・そっか、これで全部なんだ。」

そう話すその男子中学生は、

組み上げた人形ではなく、ガチャの機械を見つめている。

ガチャの景品を全部集め終わった達成感。

それと共に、寂しさと物足りなさを感じる。

あの興奮と称賛を、もっと味わいたい。

これ以上、このガチャを回しても、もう望む景品は得られないかもしれない。

でも、もう一度。

もう一度だけ、ガチャを回したい。

ガチャを回して、珍しい景品を当てて、

みんなに褒められたい。羨ましがられたい。

そんな思いで、その男子中学生は、

ポケットから残り少ない小銭を取り出し、

そのお金で、もう一度だけガチャを回した。

それを見て、周囲の子供たちが、わっと集まってきた。

ガチャ・・ガチャ・・ゴトン。

出てきたカプセルを開ける。

「最後の一回、中身は何だ!?」

周囲から、そんな声が上がった。

カプセルの中身を見るのが、楽しみでもあり、恐ろしくもある。

その男子中学生は、顔を背けながら、片目でカプセルの中身を確認した。

最後の一回のガチャのカプセルの中身。

その中身は・・・空っぽだった。

「・・・あれ?中に何も入ってないぞ。」

その反応を見て、周りの子供から苦笑が漏れた。

「あちゃー、お兄ちゃん、最後の最後でハズレを引いちゃったか。」

「このガチャ、たまに中身が入ってないカプセルがあるんだよ。」

「お店の人に言おうにも、このガチャがどのお店のものか、誰も知らないんだ。

 だから、中身が空っぽのガチャを引いた人は、みんな泣き寝入り。」

横にいたガチャ仲間の男子が、すまなそうな顔で口を開く。

「空っぽのカプセルを引いちゃったな。

 聞いた通り、このガチャはたまに中身が空のカプセルが出てくるんだ。

 残念だったな。」

それを聞いて、その男子中学生はがっくりと肩を落とした。

「そんなことがあるのか。おかげで、金を損しちゃったよ。」

ガチャ仲間の男子が、笑顔になって励ます。

「そんなに気を落とすなよ。もう十分レアな景品が当たっただろう?

 それに、中身が空のカプセルはシークレット、

 つまり、隠し景品だって言う人もいるんだから。」

「隠し景品?」

「ああ。

 一見、空のカプセルに見えるけど、違うって話もあるんだ。

 景品は入ってるけど、目には見えないものなんじゃないかって話。」

「目には見えない景品?」

「それが何かは、わからないけどな。

 そういう話もあるってだけだよ。

 お前、もう金が無いんだろう?そろそろ行こうぜ。」

「しまった、そうだった。

 僕、今月の小遣いを使い切っちゃったよ。次の小遣い日までどうしよう。」

そうしてその男子中学生は、

小遣い全てと引き換えに、称賛の声と人形一体を手に入れて、家に帰っていった。


 その男子中学生は、帰宅して自分の部屋に入ると、

路地裏のガチャで集めた人形を、改めて眺めていた。

顎に手を当てて、首をひねる。

「僕、なんでこんなものに小遣い全部使っちゃったんだっけ。」

その男子中学生は、家に帰ってくるまでの間に冷静さを取り戻し、

ついさっきまで必死になっていたガチャの景品に対する情熱を、

もうすっかり失ってしまっていた。

「群衆の熱気に乗せられちゃったかな。まあいいや。」

その男子中学生は、その人形を手近な棚の上に置くと、

あっという間に、そのことすら忘れてしまうだった。


 その日の深夜。

寝静まったその男子中学生の部屋で、カタカタと物音がし始めた。

すっかり寝入っているその男子中学生は、その物音に全く気がついていない。

物音の源は、昼間にガチャで獲ってきた、あの人形だった。

棚の上に置かれた人形が、小刻みに震えている。

やがて人形は、自らの意思で立ち上がると、ゆっくりと歩き始めた。

人形は、独りでに歩き始めて、ベッドで寝ているその男子中学生の枕元に立った。

その男子中学生は、まさか人形が独りでに歩き始めるとは気がつくはずもなく、

ベッドでスヤスヤと寝息を立てている。

人形の口がカクカクと開くと、小さく細く、機械的な声を出した。

「私を、あの機械から、救い出してくれて、ありがとう。」

その人形は、小さくお礼を言って、

細く開けられていた窓から、家の外へと出ていった。


 窓から外に出たその人形は、ぎこちなく動く身体で深呼吸をした。

「やっと、外に、出られた。

 これで、私は、自由の身、だ。」

バラバラの身体をカプセルに詰められ、ガチャの機械に詰められ、

そんな拘束からやっと自由になったその人形。

しかし、それを物陰から狙う人影がいた。

屋根伝いに地面に降りてきたその人形に、

上から突然、虫取り網のようなものが被せられた。

「何、だ。」

虫取り網を被せられたその人形は、身動きが取れず、もがくことしか出来ない。

その人形は、独りでに動き出したとはいえ、

たかだか全長30cmくらいの、樹脂で出来た非力な身体でしかない。

一度捕まってしまえば、もう逃れることは出来なかった。

その人形が入った虫取り網をぶら下げて、人影が微笑む。

「活きが良い獲物が手に入ったねぇ。

 こいつなら、またガチャの景品に出来そうだよ。」

その人影の大きな手が、その人形に迫る。

「止め、ろ、離せ・・・!」

か細い悲鳴も虚しく、その人形の身体は、再びバラバラにされてしまった。


 翌朝。

その男子中学生は、昨夜の出来事を何も知らず、

いつも通りに起床して、学校に行く準備をしていた。

そして、出かける直前になってやっと、

あの人形が無くなっていることに気がついた。

「あれっ?ここに置いておいたはずの人形が無くなってる。

 母さんか妹が持っていったのかな。」

玄関に向かい、そこにいた母親と妹に尋ねる。

「ふたりとも、僕の部屋にあった人形がどこにあるか知らない?」

しかし、母親と妹は、首を横に振る。

「私は知らないわよ。自分でどこかに仕舞ったんじゃないの。」

「あたしも知らない。お兄ちゃん、お人形さんなんて好きだったの。」

その男子中学生は、逆に聞き返されて、なんでも無いという風に応える。

「いや、昨日ガチャで揃えただけなんだ。

 そんなに大事なものじゃないけど、でも無くなると惜しくなってくるな。

 よし、次の小遣いで、またあの路地裏のガチャを回して揃えよう。

 今度はどんな外見にしようかな。」

そうして、哀れな人形たちが景品にされた路地裏のガチャには、

今日もたくさんの子供たちが群がって、熱中しているのだった。



終わり。


 ガチャから人の目玉が出てくる話を書こう、

と思ったのが、この話を作ったきっかけです。

ガチャの中身も、ガチャを回す人も、

ガチャに囚われてぐるぐると回され続けている、ということがテーマです。


お読み頂きありがとうございました。


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[良い点] ガチャガチャが題材というのはありふれているけどなかなか良かったように思う。 文章力がなければこんな文は書けない [気になる点] インパクトが足りないんだと思う。 組み上げても人形だというの…
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