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3.ララが可愛いです

 全部分かってるってどういうことだろう。

 呆然としている私の前でふわりと柔らかい薄桃色の髪が目の前で揺れる。

 ララは優しく微笑んでくれた後、まるで私を背に庇うように立ち上がってカイルに向き直った。イケメンVS美少女ヒロイン。なんか構図がおかしいような気がする。


「カイル様」


 鈴が転がるような可愛い声が鳴ると、フロアが静まり返った。


「私のためにお心を砕いて下さってありがとうございます」


 スカートの裾を摘まんでララがゆるりと礼の形をとる。もう妖精と言っても過言ではないくらい可憐な姿に私の中の私がスタンディングオベーション。最高。ブラボー。

 女の私でさえきゅんきゅんくるんだから、そんなのを正面から見たらイケメン達は堪らないだろう。現に、最前線にいたカイルが直撃を食らってぽっと頬を赤くしていた。


「ゆ、友人が理不尽に虐げられているのだ。助けるのは当然であろう」


 おお、リアルはにかみ王子。大団円エンドとはいえ、皆平等にヒロインとの親密度は高いせいか仄かにフラグは立っているらしい。

 カイル様は見た目がザ・王子様という感じなのに、女性慣れしてなくて初々しいところが人気の一つでもあった。

 割と奥手なカイル様がそんな風に照れていると、ララがくすりと笑う。


「お優しいのですね。それなら――――」


 ぴん、と背筋を正してララは続ける。


「どうか、この判決をもう少しお待ち頂けないでしょうか」

「ララ?!」


 驚いたのは私だけではない。カイル様一同も皆目を丸くしていた。


「何を言うんだララ! シンシアはお前にどれだけ酷いことを……!」

「そうですわ! 散々苛め抜いてきたのに!」

「お前が言うことか!」


 きっとカイル様が私を睨みつける。すみません。

 こほんと咳払いをした後、カイル様は再びララに向き直った。


「何か理由があるのか」

「はい」


 ララはこくんと頷く。


「確かにシンシア様からは厳しいお言葉が多かったです。けれど、それは私が至らぬせいでした」

「どういうことだ……?」


 ララの言葉に誰しもが困惑している。私も理解が追い付かない。


「私が平民の出だということは、ここにいる学園の皆さんならご存じでしょう」


 そう言いながらララは周囲に目を移した。 

 そもそもこのパーティーはヒロイン達が通う魔法学園での一年間が無事に終了したことを祝うものでもあった。生徒の多くが貴族である中、ララは聖女と呼ばれる力を持っているために平民でありながら国の援助を受けて学園に通っている。


 差別をする訳ではないが、平民と貴族ではやはり異なる部分は沢山あった。不慣れな生活をイケメン達に支えられながら触れ合っていくのも『セブンス・ジュエル』の楽しみ方の一つである。


 校内で迷子になったヒロインの手をひいてカイル様が教室まで連れてってくれたっけ。ふふふとゲーム中の美麗スチルを思い出した私の前で、ララはとんでもないことを言い出した。


「学園に慣れていない私をシンシア様は指導してくれてただけなんです」

「えっ」


 思わず声が出て慌てて口を抑えた。

 ありえない、なんて思っているのは私だけじゃないようだった。カイルの後ろで他のイケメン達もひそひそと確認しあっている。


「校内を把握していない私に立ち入り禁止区域を教えて下さったり、移動教室を忘れていた私に声をかけて下さったり、身嗜みまで気にかけて下さいました」


 ぽ、となぜか頬を染めるララの言葉に誰もが無言になった。


『ここはあなたのような一般生徒が入っていい場所ではなくてよ!』

『いつまでここにいるつもりです! 早く立ち去りなさい!』

『そんなリボンの結び方で恥ずかしくないのかしら!』


 確かにゲーム中でそんな風なことを悪役令嬢は言っていた気はする。するけれど、それにしたって超ポジティブ解釈すぎやしませんかララさん。


「し、しかし現にララはそのせいで傷ついていたではないか」

「けれど、面と向かって私にそう言って下さったのはシンシア様だけでした」


 きっぱりと告げたララの言葉に場が静まり返る。

 そうだ。ララは平民で、聖女で。おまけに周囲はハイスペックイケメン達が沢山いて、とても女友達を作れる状況ではなかったはずだ。

 ゲームはイケメン達との触れ合いがメインだからそこまで深く掘り下げてはいなかったけれど、実際の状況では寂しいこともあったかもしれない。


「私はもっとシンシア様とお話がしたいのです」

「ララ……」


 どこまで天使なのだろう、この子は。

 ほろりとまた新しい涙を流した私と同じく、なぜか眼鏡のイケメンも目頭を押さえていた。なんでだ。


「お願いします、カイル様。せめて、猶予を頂けないでしょうか」


 ララが胸の前でぎゅっと手を握る。


「人間誰しも過ちを犯します。けれど、その一つだけで人生を決めていいはずはないのです。どうか、どうかお願いします」


 美少女にここまで懇願されて無下に出来る男はいないはず。場の空気もララに同情的だった。いいぞ、この調子だ!

 ララのあまりの尊さに同じポーズを取っていたらカイル様に凄く顔を歪められたのだけが解せない。なんでだ。

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