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2.死刑は嫌です

 『セブンス・ジュエル』。

 宝石のようにきらきらと輝いたイケメン達との甘い恋を体験できる話題の乙女ゲームだ。プレイヤーは平民出身のララ・コーラルとして学園生活を送りながら攻略キャラクター達と親睦を深めていくという、よくある設定だった。


 しかし死ぬほど顔が良い。

 キャラデザが優秀すぎて一目見た時から私の心をがっちり捉えて離さないのだ。


 そりゃあもうやりこんだ。

 どんなに仕事が忙しくても毎日一時間は全員の顔と声を拝みにいったし、生きる活力だった。


 選択肢によって攻略対象のルートが変わっていくのだが、初見の時は一人に絞れなくて満遍なく親密度を上げていった結果、誰とも結ばれず大団円エンドを迎えたのもいい思い出だ。


(そうだ、これはあの時の――――!)


 ララを守るように、悪役令嬢の前に立ちはだかるイケメン達。攻略ルートが確定していたら、ヒロインを守るのはそのキャラクター一人だけになる。

 しかし、大団円エンドだと全キャラクターが登場する仕組みになっていた。そう、このように。


(すごく……眼福です……)


 舞台となるここアレキサンドライト国の王子であるカイル様を始めとした多種多様なイケメンが私の前にずらっと並んでいる。あまりの豪華さに感動している私と違って、皆様格好良いお顔を険しくさせていた。


「シンシア、お前には罰を言い渡す」


 冷たいカイル様の声に私ははっと我に返った。


(そうだ、私は今『シンシア』だった……!)


 何がどうしてこんなことになったか分からないが、悪役令嬢として認識されている。散々ヒロインを苛め抜いた『シンシア』には最終的に裁きが下るのだ。

 ルートによっては悪役令嬢への処罰もいくつか種類があったはずだが、この大団円エンドは確か……


「死刑は嫌ですわ!」


 ぶわっと泣きだした私にサロンの中の空気が一変した。どよどよと騒めく中で、一番動揺したのはカイル様達だろう。


 そう、極刑だ。死刑。死罪。


 ゲームをしていた時はヒロインを虐めたくらいでそこまでする?!とプレイヤーをびびらせたこのシナリオ。ストーリー自体はヒロインに焦点を置いていることから、断罪された悪役令嬢は連行されたところで出番終了となっているため正確なその後は分からない。


 だけど死。デス。無理。死にたくない。

 夢なら夢でもっとイケメン達を見ていたい。自分がヒロインになってちやほやされなくてもいいし、むしろされたくない。イケメンは遠くから眺めるのが一番いいのだ。その隣に自分が並ぶなんて解釈違いです。


「ま、まだ俺は何も……!」


 慌てたのはカイル様だ。それもそうだろう。今までツンデレの化身の如く高飛車だった婚約者がわっと泣き出したのだ。しかも死刑。あまりにも重すぎる罰に周囲の人々からの視線も集まる。


「お願いします殺さないで下さい!」

「死刑なんて言ってないだろう!」

「でも考えてましたよね?!」

「うっ……」


 言葉に詰まったカイル様の様子に、傍観していた人達のヒソヒソ声が一層大きくなった。


「やっぱり死刑なんですわー!」


 わっと顔を覆うと明らかにおろおろとカイル様は狼狽える。

 関係ないが自然とですわ口調になった自分に私も内心驚いた。自我はゲームをプレイした『私』だが、『シンシア』としての記憶もしっかり残っている。口調や所作はそちらの方に引っ張られるようだ。


「うわあ可哀相……」

「ええい少し黙ってろレオン!」


 レオンと呼ばれた赤髪の褐色男性が引き気味になるとカイル様が声をまた荒げた。本来であれば粛々と行われるはずだった断罪イベントがもう何かのコントみたいになっていて非常に申し訳ないのだが、死ぬのは断固拒否なので許して頂きたい。


「お前も泣くんじゃない!」

「申し訳ありませんー!」


 怒鳴られてまた涙がぽろぽろ溢れてくる。そうするとまたカイル様は何も言えなくなってしまって、どうにも収集がつかなくなったようだ。


「シンシア様」


 そんな中、可憐な声にそっと囁かれる。

 優しい声に私はしゃくりあげながらも顔を上げると、それまでカイル様の後ろに隠れていたララが私の前に膝をついてくれていた。


「ララ! 下がるんだ!」

「いいえ、大丈夫です」


 カイルの静止の声にはにこりと微笑んで、ララは再び私に向き直った。


「そのように泣いては赤くなってしまいますよ」


 目元をごしごし拭う私の手を優しく押し留めて、ララは白いハンカチで涙を拭ってくれる。めちゃくちゃいい匂いがした。可愛い女の子はなぜ匂いまでも可愛いのか。


「ララ……」

「安心して下さい。死刑になんて絶対させませんから」

「でも、私、あなたを……」


 助けてくれるのは正直有難いが、それでも『シンシア』がララを虐めたことに変わりはない。


「大丈夫、全部分かってます」

「え?」


 天使のような微笑みに私は思わず首を傾げた。

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