9話 ヒミツ
「…私は賢者なの」
「知ってる」
カッコつけていたエミリアは顔を赤くした。
しかし、またカッコつけ始めた。
「賢者と呼ばれたんだよ理由はね、たくさん人を殺したからよ」
「人殺し」
「そ、そうだけど!戦争中にだからね!」
「昔は冒険者として勇者のパーティーに入っていたの。魔王とも戦ったことあるのよ。
ある時国から召集がかかってね。戦争に参加させられたのよ」
悠希は聞きたいことがたくさんあったが、
話の続きを聞くことにした。
「魔法使いとして大活躍してね、魔法薬も作って兵士たちに配ってたりしたの。私たちのおかげで勝ったようなものよ」
ふーっとため息をついたエミリアの目は再び潤んでいる。
「それで英雄として讃えられて、ついた二つ名が賢者。人を殺したことはなかったけど、やるしかなかったわ」
「悠希が飲んでた薬はその戦争中に作ったの。材料は何だと思う?
ヒント、あなたのスキルは人の命を奪います」
「…人間か」
「そのとおり」
「そんな物を飲ませられてたのか!」
悠希は怒鳴った。人生で初めてこんなに怒ったかもしれない。
「仕方ないでしょ。魔物でもよかったけど、
そんな大量現れないし。ただ殺すよりもいいかなって。結局は誰かの命を奪わないと生きていけないのよ?」
悠希は固まっている。
頭がついていけていないようだ。
「生きていけないって?」
「そうよ、1日生きるのに1命必要なの。
他の命を奪わないと死ぬわ。
まぁこれはある奴に教えてもらったことだから本当かはわからないけど」
「誰が知ってた?」
「…当時魔王だった男の子だよ。
名前はマリオン。倒した褒美に一番に知りたいことを教えてくれたのさ」
「マリオン…」
まさかもういないマリオンの名前が出てくると思っていなかった。
悠希は自分のスキルについて詳しく聞くことができないことにショックだったが、
自分にはマリオンから受け継いだ固有スキルがあることを思い出した。
「俺にはもう一つの固有スキルの全てを知る者があるんだ」
「何ですって!?マリオンのスキルじゃないか!」
「いろいろあってね」
悠希は集中し、唱えた。
「全てを知る者 発動」
自分のスキルの情報が目の前に文字となって現れた。
固有スキル[全てを知る者] レベル10
知りたい情報を手に入れることができる。
固有スキル[命を奪う者] レベル10
触れた相手の命を奪う。
1日1命、自分の命を奪う。
残りの命:5日
「よかった、使えた。…残りの命5日かよ」
エミリアの薬で命をストックしていた。
「あ、そのくらいの情報ならステータスで確認できるわよ。誰でも使えるスキル」
「…ステータス」
ステータスを唱えた悠希の目の前には、
自分の能力値とスキル一覧が表示された。
「その程度のことだから使えたのか…?」
「そうかもねー。悠希に使いこなせるとは思えないし!」
苦笑いしかできない悠希だった。
「ていうか、残り5日なの!?
ちょっと!焦りなさいよ!」
エミリアは予想していなかったようで焦っていた。
「昨日までは1年くらいはあったのになんでよ…」
「あー…実はこっそり魔法の練習してて暴走しかけた」
「あーもう!とりあえず薬飲みなさい!」
悠希は急かされながら薬を飲んだ。