7話 すごい人
エミリアの朝は早い。
「おはよ!」
悠希を起こしにやってきた。
エミリアは1日のほとんどを部屋の中で過ごしている。
「エミリー、今日は何するの?」
朝食のパンとスープを食べながら話しかけた。
「んー?ヒ☆ミ☆ツ!」
舌を出してウインクしているエミリアを見た悠希は若干引き気味だ。
「それはそうと、昨日の話の続きなんだけど」
「え?なんか話しした?」
「…俺に魔法を教えて欲しいって話」
「あぁー…ん?そうだった?」
「はぁ…言ったでしょう」
エミリアは目を閉じ腕を組み唸っている。
「んー、まぁいいよ。あれコントロールしてもらわないといけないしね」
「…ありがとう」
「それじゃあ、早速はじめよう!」
「今からかよ」
2人は家の外へと出た。
「それじゃあ、まずは魔力について」
「魔力は血液のように体中に流れてるの。だからそれを感じて!こう、スーっと!」
「…え?」
「だから、魔力が体をスーっと流れているのを感じて、使うときは体からジュワーって魔力を出すイメージ!」
「こうかな…?」
悠希は目を閉じて集中したが、何も感じられなかった。
「下手だねぇ。こうだよ!こう!」
これから先不安しかない悠希だった。
「け、賢者様!」
声がする方を見ると1人の青年が立っていた。
「あぁ、君ですか」
「…何度も言いますけど、その呼び方はやめてくれませんか?」
「そんな!賢者様は賢者様です!」
「はぁ…まぁいいです。どうしたのですか?」
「じ、実は…」
青年は悠希をチラチラ見ている。
「私の弟子ですから大丈夫です。話してください」
「…友人が大怪我を負いました。魔法薬をいただきたいのですが…」
よく見ると体中から血が出ている。
一緒に魔物狩りに行った友人がやられたのだろう。
「お金はあるのですか?」
「…5銅貨あります」
「それだとポーションしか買えませんよ?いいですか?」
「はい…!ありがとうございます!」
青年はポーションを喜んで受け取り、走り去っていった。
「…私は甘いわね」
いつものエミリアじゃないエミリアを口を開けて見つめていた悠希は我に返った。
「いや、誰だよ」
「…てへ!」
「賢者様って呼ばれてたよね?」
「あー、バレちゃったか!そう!賢者様なのです!」
「だから何で?」
「それはね…私がすごいからだよ…」
エミリアはしんみりとした顔でうつむいている。
悠希はほっといた。
「私は魔法薬を作ってるの。それで沢山の人を助けてるのよ!お金をたんまり貰ってね!」
「ふざけなくていいから」
エミリアは少ししょんぼりした。
「で、その薬の評判を聞きつけてこうやってくる人がたまにいるのよね。なけなしのお金を握りしめて。あの子はこれで2回目」
「…本当はポーション高いんじゃない?」
「そうだね…。ポーションは1銀貨。ハイポーションで1小金貨。フルポーションで1金貨」
「半額じゃないか…」
「利用されてるだけかもしれない。甘いとはわかってるけど、ほっとけないじゃない。本当はただであげたいけど、それだとね」
「そうなんだ。でも賢者と呼ばれる理由はそれだけじゃないでしょう?」
少しの沈黙。
2人は見つめあっている。
「まぁ、それはいつか話すとして!続きしましょうか!そのうち魔法薬も作ってもらうからね!」
エミリアは強引に続きを始めた。
エミリアの目が涙目になっていたのを悠希は見逃さなかった。