5話 家族
「ここは…?」
目を覚ました悠希は布団に寝ていた。
「痛っ」
起き上がろうとした悠希だったが、
身体中が痛くて起き上がれなかった。
「まだ寝てなさい」
一人の女性が食事の支度をしている。
「あなたは?」
「私?私はね…」
食事の支度をやめ、
悠希に近づいてきた女性の顔は暗かった。
「あなたの本当の母親だよ」
「…は?」
「あれは20年前のことだっー」
「違うだろ」
食い気味に反論した。
「もぉ、もう少し冗談に付き合ってよ!人と話すの久しぶりなんだから!」
「で、何者なんだ?」
女性は大きなため息のあと、優しく微笑んだ。
「私は、エミリア=アイナノア。あなたのお母さんの弟子よ」
悠希は驚いた。
もう家族と関わりのある人間がいるとは思っていなかったからだ。
血は繋がってないが、悠希にとって唯一のつながりである。
「久しぶりね、悠希」
「…本当なのか?そんな話聞いたことないが」
エミリアは、再び大きなため息をついた。
「まぁ、そうよね。初めて会ったのは赤ちゃんの時だし」
そう言いながら食事の支度に戻った。
「信じなくてもいいからとりあえず休んでて」
「…わかった」
悠希は信じていなかったが、動ける状態ではなかったため休むほかなかった。
悠希は目を閉じた。
「…寝ちゃってたのか、俺」
悠希は一日ぐっすり寝てしまった。
もしかしたら、
エミリアの記憶はないが、エミリアが信頼できることを脳が覚えていたのかもしれない。
悠希は起き上がり、エミリアを探した。
また食事の支度をしていた。
「起きたの?とりあえずそこ座って」
「これ食べれる?」
悠希はテーブルに置かれたスープを一口飲んだ。
「…おいしい」
悠希は暖かいスープをもう一口飲んだ。
あっという間に飲み干した。
「少しは休まった?」
「えぇ、まぁ…」
「じゃあ、少しお話ししようか」
エミリアは悠希の前の椅子に座った。
「悠希、ここに来る前のことは覚えてる?」
「えーっと…襲われた村の様子を見に行ったことは覚えてます」
エミリアの強力な魔法を受けたからか、
悠希は最近の一部の記憶がなくなっていた。
悠希は必死に思い出そうとしている。
「えっと…たしか叔父さんの家に行って…」
「叔父さ…ん…」
「あ…あぁ…」
悠希は頭を抱えて苦しみだしてしまった。
「叔父さんがどうしたの?」
「叔父さんが…叔父さんが…殺されました」
「そう、それで?」
「それで…」
「あぁ…あ…」
悠希の体からまたドス黒いオーラがで始めた。
「意識をしっかり!それで、そのあとは?」
怒鳴ったエミリアの顔を見た悠希は、
必死に話そうとしている。
「そう…あの時もこんな感じになって…」
「村の人たちを…殺したんだ」
そう言い終えた悠希は、罪悪感でいっぱいになった。
「あぁ…!」
悠希の意識が薄れかけた。
「ここまでかな。これを飲んで」
エミリアは小瓶に入った薬を悠希に飲ませた。
すると、悠希のドス黒いオーラは徐々になくなっていった。
「よく頑張ったね」
「エミリアさんはこれが何なのか知っているのか?」
「エミリーでいいわよ♡」
エミリアはぶりっ子ポーズをしながら悠希に言った。
悠希は何も言葉が出なかった。
エミリアは何事もなかったかのように話しだした。
「それはあなたのスキルなの」
「あれが?固有スキルなのか?」
「そう。あなたが生まれてすぐに封印された固有スキルよ」
「封印…お母さんか…」
「知っていたの?」
「いや、詳しくは知らないけど、お母さんが俺の魔力を封印したってことは知ってる」
元魔王マリオンから伝えられたことだ。
「そうね。魔力もすごかったけど、固有スキルもすごくて」
「あの時、あなたのお母さんは私の魔力と命を使ってくれなくてね。どんなに後悔したか」
「でも…」
エミリアは悠希の目を見つめ、両手を握った。
「あなたのことを任されたの。このスキル、魔力のせいで悠希が危なくなった時は助けてあげてって」
エミリアは涙を流しながら微笑んでいる。
「だから私は、その能力が復活した時のために薬の研究を始めたの。それがさっき飲ませた薬
」
エミリアは少しため息をついた。
「しかもこれが完成したのは去年なの。研究を始めてから19年…長かったわー」
エミリアは素材を探しに行く以外はずっと家に篭って研究し続けた。
「こうなったのが今年でよかったね☆」
「…そうですね。笑い事じゃないけど」
「まぁそういうことで、これからはここに住んでもらいます!」
「え?どういう流れでそうなった?」
「ついてきて!あなたの部屋に案内するね!」
エミリアは悠希の話を聞かずに、無理やり部屋まで連れて行った。