1話 誕生日
「…ふぅ。今日の晩御飯ゲット!」
今日のご飯はウサギ。
なかなかすばしっこくて、気性が荒かった。
他のウサギに比べると一回りほど大きく、食べ応えがありそうだ。
「丸焼きにしようかな。それとも…」
「それにしても、今日も魔法使えなかったな…」
まだ一度も魔法を使えたことはない。
悠希は魔法の使い方を知っているわけではないが、どうしても使えるようになりたそうだ。
家に帰った悠希は、晩御飯の支度を始めた。
今夜はご馳走だ。
今日は悠希の誕生日である。
20歳になった。
「いただきます」
ご馳走を頬張り、
満腹になった悠希は眠りについた。
「きゃあぁぁ!!」
ドォン!
大きな悲鳴と音が聞こえてきた。
サガ村からのようだ。
「早く逃げるんだ!」
大声で呼びかける男の声がかすかに聞こえてくる。
どうやら村が襲われているようだ。
悠希は迷っている。
逃げるべきなのか、助けに行くべきなのか。
「誰も落ちこぼれの助けなんて求めてないだろうな」
悠希には実戦経験はない。
負けたら人生の終わり。
死への恐怖が悠希を襲っている。
立ちすくむ悠希の頭に、走馬灯のように家族の思い出が蘇ってきた。
親と食べたご飯。
親と過ごした家。
少しの思い出しかないが、悠希はほっとけなかった。
村に向かって走った。
全速力で走った。
村は火に包まれている。
悠希は火の中に突っ込んだ。
村は山賊に襲われていた。
村の人たちは山賊から逃げ回っている。
「きゃぁ!」
女の人が捕まった。
「ほぉ〜いい顔じゃねぇか!連れてかー」
悠希はすぐさま男の懐に潜り込み、
腹に一発パンチを繰り出した。
「ぐぇ…」
怯んだ隙に剣を奪い、喉元を切り裂いた。
「あ…ありがとう」
倒れた男の死体を見て呆然としていたが、
女の人はお礼を言うと逃げ出した。
「ーふぅ。さて次だな」
悠希は一息ついて、集中した。
初めて人を殺したが、躊躇いはなさそうだ。
斬撃音とともに山賊が次々と倒れていく。
「ーしまった」
悠希の剣が折れてしまった。
「しめた!もらったぜ!」
隙をついて山賊が狙ってきた。
「うぐぇ」
聞こえてきたのは、山賊の悲鳴だった。
近づいてきた山賊の顎に蹴りを入れ、
剣を奪ってとどめを刺した。
「はは、楽勝だな」
悠希がそう油断した途端、敵に囲まれてしまった。
剣を持った山賊が5人。
2人は倒したが、2人の男に腕を掴まれ、
地面に押さえ込まれてしまった。
「離せ!」
「喚くな」
1人立っている偉そうな男に顔を蹴られた。
「散々同胞を殺してくれて。どうしてくれようか」
「この村から…出ていけ」
悠希は、また顔を蹴られた。
「恨むなら、ここの村長を恨むんだな。
今年の税を納めなかったんだからな」
3年ほど前から毎年、農作物を税として山賊に納めていたらしい。
ここのところ雨続きで不作だったため、今年は納められなかったようだ。
納めるだけの蓄えはあったはずだが、村長が拒んだ。
「まぁ、もうこの世にはいないがな!」
笑いだした男達を見た悠希は、
怒りがこみ上げてきた。
だが、悠希は何もできない。
悠希は、背中にじんわりと暖かい何かを感じた。
剣で背中から胸を突き抜かれていた。
悠希は、死んだ。
(完全回復)
悠希の体が輝いた。
(復唱しろ)
再び、頭の中で声が聞こえた。
「いでよ、我が眷属。筋肉質な牛人」
モォォ!
突然、ミノタウロスが現れた。
「なんだ!?」
山賊達は慌てて逃げ出したが、遅かった。
背後からミノタウルスに切り刻まれてしまった。
ミノタウロスは、悠希に近づいてきた。
「我が主人。余計なことをしてしまったでしょうか」
「な、何が?主人って?俺は生きてるのか?」
「主人は主人です。気にしてるのは、あやつらを殺したことです。
なにせ、主人にたてついていたものでつい・・」
「それは大丈夫だけど」
ホッとした顔をしたミノタウロスは、
辺りを見渡した。
「これは・・。残りの奴らを殺せばいいでしょうか」
「そうしてくれたら嬉しいけど、山賊だけにしてくれ。さっきの奴らの格好してるのだけだ」
「御意」
ミノタウロスは、残りの山賊達を倒し、消えていった。
「何だったんだ・・」
悠希は、何が何だかさっぱりわからず座り込んでいた。
死んだと思ったら、生きていた。
突然聞こえてきた声。
悠希が召喚したらしきミノタウルス。
座り込んで考えている悠希に、1人の男が近づいてきた。
「お前、悠希か?これをやったのもお前か?」
悠希は、頷いた。
「大きくなったな」
母親の兄だった。
村を出ようとしたとき、唯一悠希のことを心配してくれた人だ。
「うち来るか?・・とは言ってもこの有様で何もないが」
悠希は首を横に振った。
「ありがとうございます。でも大丈夫です」
生き残った村人達が集まり始めた。
ヒソヒソ話も聞こえる。
立ち上がった悠希は、自分の家へと帰って行った。