後編 ~大魔王vs宇宙戦艦~
「うーん。アニメの宇宙戦艦の乗組員は、もっとメンタル強かったと思うんだけどなー。おーい、やる気がないなら、職務怠慢ですって本星に通報しちゃうぞー」
大魔王が発したワードに、ガイアの艦長が反応した。人間を動かすのは、良いも悪いも含めて欲である。名声を欲した結果として今の立場にある彼は、職務怠慢と通報の言葉で再起動を果たした。
だが、悲しいかな、彼の瞳には、狂気の光が混じっていた…。
「通信士、SOSを打て。総員、ワープ準備。大至急この空域から離脱するんだ、急げ!」
仮の話になるが、母星の利益を最優先に考えるAIなら、間違ってもこのような命令は出さない。
救援隊が来れば、新たな犠牲が増える。ワープで逃げ切れなければ、母星の位置がバレるのだ。
4人の魔王が冷めた目で眺める中、ガイアはワープのシーケンスに入った。
航海士が出口を指定。艦体が光を帯び、ワームホールのリンクが始まる。
程なくして、前方に黒く円い穴が現れた。これはワームホールの入口。出口とのリンクが確立したサインだ。
「ワープ」
操縦士がレバーを押した…。
「!?」
安全装置が作動した。エンジン音が変わらない。原因はワームホール内のリンク切れ。これでは突入できない。
「……」
艦体から光が消え、入り口も閉じてしまった。ワープ失敗である。
「ど、どうしたのだ!? ワープ出来んではないか!」
艦長が声を荒げた。そこに大魔王の得意げな声が響く。
「知らなかったの? 大魔王からは、逃げられないのよ」
「だ、大魔王…だと?」
「ええ、そうよ。私はマユ。ヴェダーシャッドを統べる大魔王よ。そして、貴方たちの艦を沈めたのは、配下の魔王たちよ」
「大魔王に…魔王…。それでは、ワープできなかったのは、お前の仕業だとでもいうのか?」
「その通りよ。ゲームでも、ラスボスからは逃げられないでしょ?」
「ゲーム…ゲームだと!? お前にとって、これはゲームだとでもいうのか?」
「うーん、ゲームというか…暇つぶしかな? 私、ずっと気になってたのよねー。私たちの魔法と宇宙戦艦、どっちが強いだろうなーって。で、ちょうど貴方たちが来たから、試してみたの」
「な、なんということだ…それでは、我々の科学は、魔法に負けたというのか!?」
「その通りよ。ま、考えてみたら、当然の結果なんだけどね」
「どういうことだ?」
「簡単な話よ。科学じゃ法則は超えられないでしょ? でも、魔法は使い手次第で法則を超えるのよ」
「フハハハ。信じられんな」
「貴方、幸せ回路全開ね。いいわ、メイドさんの手土産に見せてあげる」
「ほう、どうやって?」
「その艦、ワープできるエンジンのエネルギーを発射するナントカ砲を積んでるでしょ。それを跳ね返すってのはどう?」
「面白い冗談だ。お前たちの攻撃力は認めよう。だが、攻撃力なら我々の方が上だ!」
「じゃ、決まりね。今からそこに行くから」
大魔王は転移魔法でイトーラに瞬間移動。飛行魔法でガイアの艦橋の前まで飛んだ。
「フッ、今から、だと。長くは待てんぞ」
「待たなくていいわよ。もう来てるから」
ガイアの乗組員たちは、外を見た。
そこには、4人の魔王を従え、発育途上の胸を思いっきり張る大魔王の姿があった。
「さあ、私たちは攻撃しないから、遠慮なく撃ってきていいわよ」
大魔王の挑発。艦長は乗った。
「全砲門開け! 目標、敵性異星人! 撃てぇ!」
光線にしては遅すぎる、実体弾にしては弾頭から長く伸びた尾の終端までエネルギーっぽい、粒子集合体にしては拡散しないという謎の攻撃がたくさん、大魔王たちに迫る。
「あーあ、舐められたものねぇ」
あきれ顔で大魔王。
謎の攻撃は大魔王に届く前に、見えない壁に当たった。
そしてすべて跳ね返り、ガイアの直近を通過する。
エネルギーが大気を震わせる。艦が小刻みに振動する。艦長は再び言葉を無くす。
「な…なに…を…」
「何をじゃないわよ。無駄なことを無駄だってわからせてあげたの。さあ、ナントカ砲を撃ちなさい。じゃないと、潰すわよ」
大魔王の声が終わったとき、乗組員たちはリアルな幻を見た。ガイアより大きな手が現れ、蚊をパチンと潰すように、ガイアを潰す幻を。
交戦前なら、一笑に付しただろう。だが、魔王たちの力を見せつけられた後である。大魔王なら、本当にそうするだろう。
乗組員たちは覚悟を決めた。
「艦長、空間殲滅砲に賭けましょう」
「そうですよ。何もしなければ、やられるだけです」
「ああ、そうだな」
艦長は艦内に告げる。
「これより、空間殲滅砲を最大出力で使用する。総員、配置に着け」
ガイアは空間殲滅砲の発射シーケンスに入った。
リング状のワームホールが形成され、大魔王たちを囲む。
人間の目には見えないそれが、大魔王たちには見えていた。
「ほうほう、これはなかなか強力そうね」
「マユ様、いいんですか? そんなのんきなこと言ってて」
「いや、私としては感慨深いのよ。科学も頑張ってこれだけのエネルギーを使えるようになったのかってね」
「マユ様って、時々おかしなことを仰いますよね?」
「まあね。それじゃ、少しだけ大魔王らしいところを見せますか」
ガイア艦内では、エンジン出力が臨界寸前まで高まっていた。
「エネルギー充填完了しました」
「よし。安全装置解除、衝撃に備えろ。空間殲滅砲発射!」
艦首発射口から薄紫のエネルギー粒子のようなものが迸る。
エネルギーはワームホールに流れ込み、リングの内側をぱっくり開く。
ワームホールだったものは、上下が伸びて丸まり、紫紺の球状に姿を変えた。
その内側は虚無。
内部にあるもの全てを引き寄せ、消滅させる力だ。
「やったか?」
「ああ、これを跳ね返すなんて、できるわけないさ」
乗組員たちに安堵が漂う。
…が。
「!?」
紫紺の球が左右に割れた。
切断部には、まるで引き合うかのように、紺の稲妻が無数に走る。
「マユ様、これはどうやってるんですか?」
「私たちの周りに外側が虚無のボールを作って左右に伸ばしただけよ。簡単でしょ?」
唖然とする魔王たち。虚無は創造自体を否定する力。彼らにしてみたら、4人がかりで何とか扱えるレベルの力だ。
そんなことを簡単と言ってのけるのは、大魔王だけである。
「はーい、宇宙戦艦のみなさーん。宣言通り、これは返すわよ。お疲れさまー」
紫紺の球はガイアの左右に転移し、ゆっくりと閉じた…。
「よしっ。ミッションコンプリート。さあ、作業再開。早いとこ宮殿を作って、次は他の星を目指すのよ」
大魔王の言葉は絶対である。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
他にもいくつか書いてますので、よろしければ読んでやってください。