前編 魔族の宇宙開発
諸般の事情で日の目を見なかった設定を供養してみました
マユ暦3年。
魔界の住人は、宇宙にまで版図を広げていた。
母星ヴェダーシャッドの第1衛星ザブーンに宇宙都市を設営し、より遠くにある第2衛星イトーラへ進出する準備をしてるところである。
彼らが宇宙に出た理由、それは、暇を持て余した大魔王が発した一言だ。
「月に宮殿を作るわよ」
大魔王は転生者。前世は日本の女子高生だった。おそらくだが、前世紀に人気だった美少女戦士な漫画を再現したかったのだろう。
大魔王の言葉は絶対である。魔界は持てる力の全てを結集し、半年でザブーンに都市を築いた。
それは、魔法がある世界ならではの力技だった。
先に、魔法について説明しておこう。
生物の思念にマナ(素粒子の一種)が反応し、様々な現象を起こす。それが魔法である。
マナを反応させる力を魔力と呼ぶ。魔力が強いほど多くのマナが反応し、強力な魔法や高度な魔法が使える。魔力さえ強ければ、奇跡を起こす魔法も使えるのだ。
世界の管理者(いわゆる神)も、魔法を使っている。『これは、こう決めた』と思ったことが、法則となって現れるのだ。
話を戻そう。
半年前までの魔界は、不可視の結界に覆われ、閉ざされた領域だった。
極点が無く、地図が南北でもループする、謎空間だったのだ。
もちろん、宇宙へも出られない。もっとも、それを試した者は誰もいなかったのだが…。
その結界は、大魔王が破壊した。
結界の維持管理は天使たちの担当。神に才能を認められて魔族に転生した彼女が本気を出せば、薄紙も同然だったのだ。
こうして、宇宙への道は開かれた。
余談だが、結界は魔界を人間の世界から隔離する役目も持っていた。そのため、人間の世界では、一夜にして新大陸が現れたと大騒ぎになった。
閑話休題。
次は、ドラゴンの出番である。
魔界最強のドラゴンが球状の絶対防御シールドを展開し、ザブーンまで飛んだ。ドラゴンは魔法で飛ぶので、宇宙空間でも飛行できるのだ。
絶対防御シールドは、宇宙服の代わりである。使用者に害をなすものは通さず、内部を母星と同じ環境に保つのだ。
ザブーン行きの目的は、転移魔法の移動先に登録するためである。
転移魔法は、使用者が時空の制約を無視して移動する魔法である。道中の障害の影響を受けず、魔力次第で同行者を増やせる便利な魔法だ。但し、移動先は使用者が行ったことがある場所に限られる。これは『いしのなかにいる』悲劇を起こさないための制約だ。
ザブーンに着いたドラゴンは、転移魔法で母星に帰る。
そして、今度は転移魔法で、技術者たちをザブーンへ連れて行く。
絶対防御シールドで護られた技術者たちは、空間収納から部材や機材を取り出し、様々な魔法を駆使して設備を造り、建物を建てる。
最初の仕事は、都市全体を覆う規模の絶対防御シールド発生装置を設置すること。
それが済めば、後は楽である。母星と同じように作業をすればいい。
こうして、ザブーンは魔界フォーミングされた。
だが、計画は停滞していた。理由は、関係者たちの会話を聞いてもらえばわかるだろう。
「さて、どうやってイトーラへ行くかですね」
「イトーラは遠いからねー」
「ティアマト様も絶対に無理って言ってたわ」
「大魔王様なら余裕なんでしょうけど、さすがに言い出せないわ…」
「いや、それだよ!」
「「「?」」」
「大魔王様に、ティアマト様を打ち出してもらうんだ」
「「「おお!」」」
「でも、ティアマト様の絶対防御シールドって、大魔王様の力に耐えられるの?」
「…無理じゃね?」
ティアマトというのは、計画の最初期に母星からザブーンへ飛んだドラゴンである。
その飛行距離は、ザブーンまでで、ほぼ限界。イトーラまでの距離は、その3倍あるのだ。
「そういうことなら、仕方ないわね。私が飛ぶからティアも付いてきなさい」
「はい、ご主人様」
外見はスレンダーな女子高生の大魔王は、小さなドラゴン(ペット形態になっているティアマト)を頭に乗せ、イトーラへと飛び立った。
この大魔王、自分の退屈を紛らわせるためなら何でもやる性格なのだった…。
☆
計画は急ピッチで進んだ。
だが、そんなある日、それは起こった。
「報告します。大きな物体が5個、イトーラに接近中です」
「それは、大魔王様が仰っていた、小惑星というものか?」
「違う…と思います。高い建物を横倒しにしたような形ですから」
「では、宇宙船というものの可能性があるのか?」
「はい、おそらく」
「それはいかん。大魔王様にお伝えせねば」
連絡を受けた魔王城から、4人の魔王が派遣された。
当然、退屈していた大魔王は、自分が出ると駄々をこねた。だが、最初からラスボスが出るのは格好悪いですと皆に説得され、魔王たちの出番となったのだ。
☆☆☆☆
一方、こちらはメディアによってペコ○ンだったりポコ○ンだったりする星の宇宙調査船団である。
彼らの目的は、人類が未踏の空域を調査し、資源や文明を発見することだった。
恒星域にワープし、ハビタブルゾーン内の惑星の有無を調べる。惑星があれば、文明の有無を調べる。文明があれば接触し、交易や移民の交渉をする。なければ資源を調査する。それが、彼らの任務である。
ただ、文明に対するスタンスは、友好的ではないかもしれない。
それを現すのが船団の構成である。
旗艦は戦艦ガイア。他に戦艦ウラヌス、戦艦クロノス、空母オケアノス、調査船アルゴスの計5隻。なんと4/5が軍艦、しかも、全長600メートルを超える大型艦ばかりなのだ。
どの艦もワープができるエンジンを搭載しており、その仕組みを利用した時空断層防御幕を使える。
時空断層防御幕は、触れた物をどこか別の場所へ飛ばす(実際は艦の十数キロ後方が多い)ことで、一切のダメージを回避するというもの。エネルギー消費からくる時間制限はあるが、無敵のバリアと言っていいだろう。
また、戦艦3隻は、ワープに使うエネルギーを特定域に作用させることで、対象を空間ごと分解する空間殲滅砲を艦首に備えている。
威容を示すために大きく作られた艦体は、これでもかと言わんばかりの主砲、副砲、対空砲、ミサイル射出口を備える。
また、集団行動時の見栄えを考慮したのか、海上船舶のように艦橋もある。
さらに、技術の無駄遣いの象徴、秒速29.7万キロで航行できる補助エンジンも搭載。宇宙空母は通常の空母同様の甲板を持つなど、無駄なサービス精神も満載である。
西暦2202年に母星を出た調査船団は、それと知らずに時空を超え、ヴェダーシャッドがある空間にきていた。
乗組員たちは、誰もそのことを知らない…。
「異世界なら宇宙戦艦で~」が消化不良気味だったので、似たテーマを別視点で描いてみました。
設定は「神様に世界征服を~」で未使用だったもの等、他の作品からのリサイクルです。
描き始めた時点では短編を予定していましたが、予想をはるかに超えて長くなったので前・中・後に分けました。