プチっと音が鳴る〜SSSランクの魔の森に入る事になった一人の兵士の回顧日記〜
長編書いてるのに何してんだ俺。
カラオケで歌ってたら突然閃いた為に衝動的に書いてしまった。
後SSSランク付けたらなんかよくね? と言うやっつけタイトルである。
王国の広場にて我が軍の母にして偉大なる女王の御前に膝を折る。
その数や15万の大軍勢、今から女王の無理難題を聞かされる。
「我が愛しき軍隊達よ、神の食物を我の前に届けよ!」
広場のみんなが見る、一つ高い所に設けられたバルコニーには神にも等しき女性がいる。
「あぁ我らの神よ! 貴方のお望みのままに……」
大軍勢の前に跪く一際体の大きい人間、私だ。
私はこの大軍勢の大隊長を拝命している、女王様に選ばれた光栄と慈悲に感謝を。
「皆聞いたか! 女王陛下の有難き御言葉ゆめゆめ忘れるなよ!」
私の言葉に部下達は一切の乱れなく敬礼を行う、我が部隊は最強の第11部隊だ実に誇らしい。
「我らが女王陛下の為、命を賭してでも神の食物を麗しき貴方の元に届けましょう」
神の食物、それはSSSランク指定されている魔の森に存在すると言われている伝説の食物。
食べた物には全ての叡智が授けられ、不老不死にして全知全能の神に届くと言われている。
「出発の旗を掲げろ! 我らは女王の栄光なる部隊! 第11部隊だ!」
大きくも美しい旗が掲げられる、英雄の門出。
15万の大群は黒い行列を成して歩き始める。
SSSランクの生存者1%にも満たないと言われる魔の森へ。
「大隊長! 見て下さいドラゴンです!」
一人の男が私に直言して来る、我が頭脳にして副官の男だ。
「慌てるな! アレは伝承通りなら我らに危害は加えない、近付かなければ実害は無い」
我が部隊のはるか遠方で巨大で全身を光らせる恐怖の象徴「ドラゴン」だ。
この魔の森はSSSランクの魔物がウジャウジャ存在している、ドラゴンは最たる物の一つとして数えられている。
目の前に出たら最後、目にも留まらぬ速さでドラゴンの爪で引き裂かれてしまう。
幸いな事に彼らドラゴンは我らが「竜の道」と呼んでいる場所から外に出て来ようとしない。
何が原因で外に出て来ないかは謎だが、近付かなければ安全だと言うことが偉大なる先祖達の言い伝えにより判明している。
「それにしても、この森は異質だ」
そう自分が声を漏らしてしまうのも無理はない、本来我らが過ごす土地は茶色い地面があり、木と植物に囲まれた自然溢れる場所なのだ。
だがどうだろうが、魔の領域として我らが決めつけている森の入り口は明らかに様相が異なっている。
まず地面が黒い、そしてゴツゴツしている。 太陽に反射してキラキラと光っているところを見ると、この場所は非常に濃密な魔力を含んだ石が結晶化して出来た物だと分かる。
そこで育まれる魔物も他と一線を画している、やはり濃密な魔力により汚染されて凶暴化をしているのだろう。
最初こそ、怯える部下を宥めながらの行軍も、時間が経てば落ち着きが見られるようになり、呑気な兵士は口笛も吹けるようになっている。
「そろそろ、来てもおかしくないですね」
「あぁ……場所的にココは危険領域だ」
副官とやり取りをする、ここでまず命を落とすものが少なくない、目印となるのはでっかく赤い山が存在している。
この赤い山とは何なのか昔探検チームが調査に乗り出し山頂を目指したことがあった。
結局彼らは山頂に到達する事が無かったが、奇妙な水を持ち帰ったことで知られている。
「神の飲み水」と名付けられたその水は当時の女王を大いに喜ばせたと言う、今でも神の飲み水を得ようと挑むものは少なくない。
だがこの赤い山には守護神とも呼ばれる存在がいる。
「うわ! なんだ身体が何かに引っ付いて離れない!」
一人の隊員がそう叫んだ。来た、奴らがやはり居たことを認識する。
「皆周囲に気を付けろ! 魔物が潜んでいる! 油断していると飲み込まれるぞ!」
飲み込まれた隊員を扇状に取り囲み警戒心を引き上げた。
魔の森の赤い山の守護神。
「スライムだ……」
凶悪にして捉えたものを亡骸にするまで離さないと言われている変幻自在の魔物、スライムだ。
「赤いスライムか、隊員は蜜にやられたか……」
スライムにも数々の色が存在している、赤いスライムは体から甘い蜜を吐き出して敵を誘惑させる危険度SSSランクの超危険生物だった。
「隊員は……すまない助からない! 我が部隊よ! 用心して進め! ああなりたくなかったらな!」
悲惨な光景を目にして隊員たちは竦み上がった、魔の森の恐怖を直に味わったのだ。
鼓舞をしながらも前へと前進する様に命令を下す大隊長、上の立場に立つ者は時に大多数を救うために少数を切り捨てる無情さを備えて居なければならなかった。
警戒心が引き上げられた第11部隊を見て赤い山を越えた辺りで私は皆に休息を与える事にした。
「皆良くここ待て来たな、神の食物まであと半分だ、しっかりと水分補給を欠かさないように」
思った以上に疲労を抱えてしまっている部隊を眺めて心配をしてしまう。
「(やはり神の食物は無理な任務だったのだろうか……いや私がへこたれてはいけないな)」
フッと息を出しながら自重をする、数時間休んだ後で行軍を再開させた。
規定のルートを危なくも間一髪の所で躱し続けて道を進む、だが計画には無い予想外の事態に困惑をする。
「な、何だこの巨大な壁は! こんなの前の探索では無かったはずだ!」
前回の探索ルートを辿って居た、前回では目の前にこんな壁は存在しなかった。
急のイレギュラーなトラブルに戸惑う、何度も地図と現地を確認し直す。
「おかしい、こんなものなかったはずだ!」
「大隊長! もしかしてこれは神の槌では?」
「……神の槌だと!?」
副官がそう言をなす、神の槌は我らを一瞬にして死に追いやられると言われている最悪の現象だった。
その現象はまず空が漆黒に染まり世界の半分を消し飛ばすかのような巨大な何かが上から落ちてくるのだ。
一説には巨大な魔物の仕業と研究員どもが見解しているが全ては謎に包まれている。
「そんな……神の槌なんて……」
「危険です、ここで引き返しましょう」
副官の甘言に惑わされそうになる囁きを必死に耐える、ここで引き返しては女王陛下に合わせる顔がない。
「……前進だ、先を急ぐぞ!」
「な! 無謀です! 死ぬかもしれないんですよ!」
副官は尚も食い下がる、私だって本音を言ってしまえば帰還の途に就きたい、だが使命を放棄する事は我らの存在価値もまた無きに等しい事なのだ。
「……女王陛下が待っているのだ、分かってくれ、頼む」
「……! 失礼しました、我が身の浅ましさ故からの失言、誠に申し訳ございません」
自分の発言に恥じ入るところがあった事に気付いたのだろう、丁寧に腰を折って謝罪をする。
私は得難き部下を持てたことを誇りに思う。
「もう良い、副官よ名誉を挽回したければこの異常事態に対し解決策を献策せよ!」
「はっ! 恐れながら愚策を発言させて頂きます。回り道するのが得策だと」
前の道が通れない為に回り道か、なかなか理論的で実直な案だな。
「貴様の案、既存のルートを放棄して新たな場所を行けと言うのか? 15万の大部隊を預かる私に未知の道を進めと?」
「はっ! いえその様な事では申し訳ありません」
「見よ! 目の前の壁は確かに巨大だが天に貫くほどの高さは無い、かつての英雄が仰っていた天に届くほどの巨大な壁とは違う」
天に届く程の巨大な壁とは、かつての先祖が見た等間隔に建ち並ぶ壁のことである。
さながら天井を支える柱の様にも見えたと残している。
その様な壁に比べれば今回の壁は大人しい、だから私は敢えて副官の安牌を無視し既存のルートを外れない様に進む事にした。
「……登るぞ」
「は? 今何と?」
「だから登るこの壁を!」
「正気ですか!」
これは一つの賭けだった、だが回り道をして既存のルートを外れるよりかは安全だと判断したのだ。
先祖の英雄達が一歩一歩命を散らしながら作り出した道なのだ、回り道の危険性の方が遥かに高いと判断した。
そうして、15万の大部隊は壁をよじ登る。 私が思った様に壁はそこまで高く無く數十分で山頂に到達することができた。
「こうして登ってみるとあっけないものですね」
「どうやら賭けには勝った様だ」
「山頂に到達して分かりました、これは隕石の様ですね」
「隕石か……なるほど、確かに冷静に判断してみれは納得だ」
山頂を頂点として周りを見渡すとこの壁が丸いことに気付く、余りにも巨大だった為に壁だと勘違いして居たのだ。
「だがそれだけでは無いぞ、あれをみろ!」
「大隊長まさか! あれが伝説の」
「あぁ、神の住まう楽園に到達したぞ!」
山頂から見えるのは薄っすらとした光景、だが伝承の通りの楽園の地がそこに広がって居た。
「行きましょう! 我ら第11部隊は偉業を成し得たのです!」
「そうだな、目に見えるあの伝説の地へと向かうとするか!」
駆け足で山を下っていく第11部隊、彼等の伝説の地というのは緑の山のことを指す。
豊穣の神がもたらした伝説の山だと言われ、気まぐれの山だとも言い伝えられている。
と言うのも、神の食物は七日のうちに二日しか無く、それ以外の日は食べる事の出来ないガラクタに変わってしまうと言われているのだ。
まだ全容を解明されて居なかった時代では到達者が欲深いと食物はガラクタに変化して恵みを与えないと言う言い伝えまで本気で信じられて居た。
「もうすぐ着くぞ! ここが一番危ない場所だ! 気を引き締めろ!」
私が危険というのもこの場所は「竜の道」に隣接している場所に聳え立っていた。
時折大食漢なドラゴンがこの伝説の山に止まり食物を全部掻っ攫ってしまう事がある。
山を全部消してしまう程の大食漢が通った後は一つも残らない。
だがそれはドラゴンが食してしまう程に美味な食物である証拠なのだ。
私も含め、我が部隊は目の前に広がる緑の山に到達しようと躍起になって居た、だからだろうか空が次第に暗くなって行くのに気付けなかった。
「何だ……空が暗く」
「本当ですね」
次第に暗く暗雲が立ち込めてくる、絶望を見せられている、頭がおかしくなりそうだ。
「副官よ、神は私たちに試練を与えたもうたのか?」
「嫌なジョークですね、もうこれは祈るしかありません」
もっと、より暗くそれこそ漆黒に世界が変わって行く、この現象を人は「神の槌」と呼ぶのだ。
「あぁ神よ、楽園を前にしてこの様な仕打ち。余りにもひどいではないか!」
私は神にこの時ばかりは恨まずにはいられなかった、なぜ今なのだ! 目の前には楽園の地が直ぐだと言うのに。
だが無情にも神の槌は世界を覆い隠す様に我が部隊の大半を飲み込み。
彼らを。
容赦無く踏み潰したのだ。
ここは長閑な住宅街。
一人の男がゴミ捨て場で不快な音を聞く。
「なんか今、プチっと音がなった様な……」
男は自分の靴を上げて確かめた。
「やべっ、アリの行列踏んでた」
これは何気ない日常の一コマで名も知られずに命を落とした英雄達の話である。
ふう、書いたらスッキリした。