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魅惑のウサギ 前編

 マッチの炎に包まれて前後不覚に陥る。

 意識を取り戻した青年は、他者の気配を感じて恐る恐る目を開く……


「……うっ! ど、どなたさまですか?」

 

 そこには布面積の小さな扇情的なバニーガールの衣装に身を包む、肉感的な女性(ウサギ)がいた。

 

 挿絵(By みてみん)


 青年の言葉を聞いたウサギは不満げに頬を膨らませ、唇を尖らせる。


「……むぅー。そんな呼び方するなんて、良くないぞぉ」


 紅い瞳を輝かせて、そう言った。


「そんな……バカな…………」


 青年は絶句して続く言葉を失う。

 室内で起こった異常事態に直面し、ただ呆然と目の前に現れた存在を眺める。

 


 ウサギの頭髪は細い銀糸のようだった。

 滑らかな金属質の光沢を放ち照明を柔らかく反射。白銀に煌めいて輝く髪は、うねるように背を流れ床に達する。そして側頭部から頭頂部の間に、うさみみがふたつ。それを真っ直ぐに伸ばし、青年の呼吸に合わせて機敏に動かす。

 

 薄い耳は室内の照明を透過し、内側の赤く細い毛細血管までが視える。まるで頭部から直接生えているかのように感じ、青年の視線は自然とその動きを追いかけてしまう。

 

「どうかしたのぉ……そんなにじっと見られると……恥ずかしいなぁ」


「……な、」


 ……なんて美人なんだろう。素直に思う。

 だが、その言葉を青年は口に出せなかった。


 現実ではあり得ない光景が、目の前に確かな質量を持って存在している。それはまるで異世界から獣人が召喚されたかのようだった。

 なんとか震える声を抑え込んで、青年は話し始める。


「……えっと……なんで、こ、……」


「どぉしたのかなぁ? さっきからずっと変なのぉ? きゃはぁ!」


 ウサギは屈託のない笑顔で笑い掛ける。

 体勢は両手を床に付けて、膝立ちの四つん這い。上半身を起こしただけの青年に対する距離は一メートルもない。

 自然と深紅の瞳と視線が絡み合う。

 すると青年は、熱が急激に顔に集まる感覚が起こり、次の瞬間に赤面してしまった。その様子を見てウサギは、


「じぃぃ……あはぁ、赤くなったぁ。かわいいぃぃよぉ」


 実に楽しそうに笑うのだった。

 青年は魅力的な女性と、これほどまで近距離で向かい合った経験など当然ない。照れ隠しの言い訳を口にする。


「……だってしょうがないだろ。それに、かわいいなん……」


 ウサギの顔を直視できず、恥ずかしさから目線を下げる。すると、暴力的なまでの(おっぱい)の谷間が視界に入る。青年の視線は固定されたまま、正直な感想を漏らす。


「……すっ、凄まじい……」


「……どしたのぉ?」


 そこにあったのは、重力の影響を受ける二つの柔軟な双丘がある。

 なだらかな曲線を描く谷間が形成。そして衣装を限界まで引き下げる、まるで液体の表面張力を目の当たりにしているようで、青年は震える乳に釘付けとなった。


「あれぇ、なにがかなぁ~ ひょっとしてぇ、これかなぁ?」

 

 そんな様子を愉しげに眺めるウサギは首を傾げ、身体を揺すった。するとワンテンポ遅れて爆乳が揺れ動く。

 ……いたずらっ子のような笑顔が、青年には眩しく映った。


「うにゃぁ、どうしたのかなぁー? 本当にだいじょーぶなのぉ」


「……あ、あり得ねぇ。どうなっているのでしょうか?」


「ほぇ……これ、おっぱいだよぉ……変かなぁ?」


 胸をウサギが掴むと指はめり込んだ。指先が埋没する。そして圧力が掛かると次なる変化が訪れる。

 それは決壊寸前のダムのように境界を越えて溢れ出す寸前と…… いや! 抑えきれない一部は、すでに胸当ての許容量を超えてはみ出す。


 もはやそこから視線を反らすことなど出来る訳がなかった。

 男性ならこの魅力的な崇拝の対象に対し、目を向けないなど失礼だ。男性読者諸氏の発する天の声がそう訴える。誰か知らない人物のサムズアップをする幻視が視えて、それが正解なのだと声高に叫ぶ。ただ、その顔に青年は見覚えが無い……


「…………ッ!」


 口中に唾液が溜まり、生唾として飲み込んだ。次の瞬間だった……


「ふにぃ、つまんないぃ。えいぃっ!」


 かわいい掛け声を上げ、ウサギが飛びついてきた。重量を支えきれず押し倒されると、体の前面に魅惑の感触が押し寄せる。


「ちょっ……あぁっ……そんなに……」


「あったかぁい、ふにぃー」


 ウサギの纏う衣装はスウェード調で薄く滑らか。柔らかく細い毛に包まれる耳も激しく揺れる。

 なにより布地を通して、圧倒的な存在感を放つ胸部が自在に形を変えて、信じられないほど柔軟性のある内側の存在を主張する。


「うふぅ、いい匂いがするのぉ。もふぅ……」


 それは、前面の凹凸全てに合わさる密着。

 柔らかく気持ちの良い感触は、まさに至福の一時(ひととき)だった。青年は押し倒されても、心からの幸せを感じていた。それは背に触れる床の冷たさなど、取るに足らない出来事だった。


「ああ、なんて柔らかいんだ……」


「うふぅ……もっとぉ……」


 床に投げ出したままの腕をどうするかで真剣に悩む。

 青年が触れても良いか瞬巡(しゅんじゅん)していると、ウサギは顔を擦り付けてくる。(ほの)かな甘い香りが鼻孔を(くすぐ)り、耳元で甘い声を(ささや)く。それが脳髄を優しく揺さぶって精神を(とろ)けさせる。


「寂しいとウサギさんは、死んじゃうんだぞぉー」


「……ちょっと、待……たなくてもいいや。ただ、どういう……」


「撫でなでするのぉぉ!」


 どうなっているのだろうか?

 青年はマッチを擦ってからの、状況変化に理解が追い付かない。だけど……

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