ミックスジュース。。。
藤本さん、ピーコンと食卓を囲む。寿司は美味いが…おふくろのことが頭に過ぎってしまう。
ジョバンニもおふくろも。悲劇の主人公を気取る、わけではないが、煙草の本数が増える。
「てっちゃん。大丈夫だよ。おばちゃんなら。元気になって戻ってきてくれるよ。絶対」
「そうだな。絶対に」
「そうですよ、哲夫さん。お母さんなら、大丈夫ですよ」
「ありがとな。ピーコン」
鈴鹿か。どうしても、F1で帰ってきてみたかった。電話が鳴る。布袋さんからだ。
「哲夫君、明日、鈴鹿へ来てくれ。イベントに参加してくれないか。勿論、藤本君も」
「それ、パスできないのか」
「スポンサーの手前、難しい。何かあったのか」
「別に何もないよ」
「じゃあ、来てくれよ」
俺は、ビールを一口飲んで、一瞬、ためらった。F1に恩返しをしなくちゃ。決まり」
「それじゃあ行くわ」
「待ってるよ。藤本君にもくれぐれもよろしくな」
「ああ」
部屋と帰る。子供の頃に書いた作文。
『僕はF1レーサーになって、ワールドチャンピオンになりたいです』
セナのポスターに目をやる。哀しい瞳を持つ男だ。もう、これ以上に速い男は出てこないだろう。
伝説か。セナが走った鈴鹿。セナが泣いた鈴鹿。アイルトン、俺達に力を貸してくれ。
「てっちゃん、コーヒー、飲もうよ。俺も、F1まで来れたよ。お互い、やることがわんさかあるな」
「ありがとな。お互い、頑張ろうぜ」
「接触だけはやめてくれよ」
俺は笑うことを選択した。それも苦く。笑えた。
「勿論。俺、クルマの運転、上手いから」
「そうだな。俺もそれだけが取り柄だよ。俺達、F1レーサー坂口哲夫。F1レーサー藤本弘人。まあコーヒーでも飲もうや」
藤本さんとコーヒーを飲みながら、話すは、タルキー二が思ったより速いこと。フォードエンジンがよく回るということ。
「なかなか、乗りやすそうだね。トラクションコントロールは、どうなの」
「いい。凄くいい。それこそ、乗りやすいよ」
俺は、寝酒に赤ワインは飲んで、布団にもぐった。ミハエルの言葉。誰かを愛せ。そうしたら、もっと速くなる。
今はそれどころじゃないよ。ミハエル。俺だって誰かを抱きたい。まあ。いいか。寝ようっと。
夢を見た。俺が侍の格好をして、切腹して、歯が溶けて、僧侶に殴られる夢。目が覚めた。時計は5時12分。藤本さんは熟睡中。いびきをかいて寝てる。きっと、疲れてたんだろうな。でも、二人そろって、F1に乗れる。俺はマルボロに手をやって、火を点けた。ちょい、走ろうか。なんだったんだろう、あの夢。俺はジャージに着替え、玄関を開けて、走った。走るのはクルマでも、こうして、足で走っても、俺にとっては快楽で、嬉しいことだ。ふと、ジョバンニの笑顔が、恋しくなった。俺たちは走り続ける。それが仕事であり、最も得意とすることだ。コンビニでパンとパスタを買う。
喫煙所で一服。さて、行くか。待ってろ。鈴鹿。