一輪の風。日出国へ。
お酒を、イタリア系美女とゴクミさんとミハエルとは呑んだが、その夜、誰ともセックスをすることはなく、ホテルの部屋でバスタブに浸かる俺がいた。
そろそろ、荷造りしないとなぁ。胸をはっての帰国。鈴鹿をF1で行ける。夢が手招きしている。お袋、俺を産んでくれてありがとう。必ず、親孝行を今度こそはしてやるよ。
歯を磨く。鏡の中の俺。疲れきっている。ピーコン。俺はF1ドライバーだ。藤本さん、元気かな。また、煙草に火を点けた。拝啓、アイルトンセナ様。全世界のヒーロー。ここまで来れた。待ってろ、日本人よ。
さて、チェックアウト。キーを返すと、まただ。布袋さんから着信アリ。
「どうした。布袋さん」
「いや、俺の携帯に日本からメールが来てな。藤本さんの鈴鹿でのスポット参戦が決まったよ。それもうちのチームからだ」
「ほんとに」
「うん。そうだよ」
俺は嬉しかった。本当に嬉しかった。藤本さんとF1をやれるなんて。俺の一番、大事な親友、藤本さん。いいレースにしよう。そうだ、藤本さんに電話をしよう。
『もしもし。藤本さん。参戦のニュースを聞いたよ。俺、めちゃ、感動してる』
『てっちゃん、ありがとうな。本気で走ろうぜ』
『うん』
飛行機から空が見える。この惑星に夢を持って生きてきて、俺達はそれを叶えた。俺達の特別な場所、鈴鹿で。機内でコーヒーを飲む。なんだか、ぞくぞくする。恐怖にも似たモチベーション。髪でも切ろうかな。それから、カラオケ、皆で行こうっと。歌うは「サライ」。それも大合唱。墓参りにも行かなくちゃ。
親父に線香を手向けるとしよう。永遠なんてきっとないから。俺達は走るんだ。人間、楽しまなくちゃな。それと、BOOWYのドリーミンを歌おう。何か、笑える。人って、何故、走るんだろう。大金つぎ込んで、何故、クルマを走らせるのだろうか。その答えは一つではないよな。ああ、ラーメン食べたい。無性にラーメンを食べたい時があるだろう。俺が走るのは、それに似てる。無性に走りたくなるんだ。それがドライバーって生き物か。ふと、ジョバンニの笑顔が浮かんだ。俺達は、走るよ。例え、この世が終わってしまっても。約束する。
成田空港に到着。日本。美しき国。空港に飾ってあった、日の丸を観た。いつかは勝って、表彰台の真ん中に俺も日の丸を立ててやる。家に帰ろうか。お袋、ピーコンに誓いたいんだ。俺は走るって。千葉行きの高速バスに乗った。お家へ帰ろう。堂々と。