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夢の奴隷

モンツァ。モンツァ。ピットアウト。哀しいとは、いったい、何。ジョバンニ。布袋さんから聞いた、ジョバンニの辛い過去。12歳の息子に先立たれ、旦那はそれをショックに自殺した。ジョバンニ。哀しみの果て。自分自身に言い聞かす。『俺は、F1レーサー、坂口哲夫だ。堂々と行け』。あっという間に最終コーナー。ステアリングのストップウォッチ。悪くないタイムだ。よいしょ。ピットに帰りますか。

「哲夫君。かなり、良いタイムだ。七番時計。悪くない」

「乗りやすいよ。ただ、アンダーとオーバーが少しある」

「了解。決勝までに、改善する」

コースを観る。ひたすら、走る、クルマ達。客席は赤。ライコネンが行く。マッサが行く。アロンソのマクラーレンが行く。コーラを一口。一度、決めた、船には乗らなくては。

ジョバンニの元へ。車を飛ばす。うるさい。布袋さんから、また、電話だ。

『もしもし。何だよ。布袋さんよ』

『哲夫君、今、どこだ』

『どこだっていいだろうが。しつこい奴だな』

『ジョバンニが、亡くなった。Tシャツを首に巻いた、最期だったらしい』

『そうか。すぐ、サーキットへ戻る』

『気を付けてな』

自殺。モンツァのピットにジョバンニは、もう、いない。俺は走る。モンツァへ。


「布袋さん、さっきは悪かった」

「いいよ、哲夫君。ジョバンニの葬儀なんだが、せっかちな、ジョバンニのいとこにあたる男が、明日、家族葬で済ますということだ。走れるか」

「勿論な。俺、煙草、吸ってくるわ。モーターホームは空いてるだろ」

「ああ。誰もいない」


マルボロに火を点ける。56歳でのジョバンニの最期。俺だって、タイムが上がらない時は、わざとタイヤバリアに突っこんだ。暴走族じゃあるまいし。タルキーニのレーシングスーツに再び、袖を通す。泣く暇なんてないよ。ジョバンニ。またな。


ヘルメットを被る。エンジンの音が、けたたましく、生命を与えるように響く。最後尾にマシンを運ぶ。

『哲夫君、天気予報だ。レース開始から30分後に雨の予報。ストラテジーとしては、ソフトタイヤで引っ張って、レインタイヤに交換だ。これでいいか』

『了解。俺ってF1レーサーなんだろう』

『何を言う』

『ただ、確認がしたかっただけだよ』

『確認ね。哲夫君、お隣のグリッドに琢磨君だが、事故だけは避けろよ』

『かしこまりました。後、5分でレース開始だ。夢だ。F1は』

『大事に行けよ』


54321。オールクリア。スタート。アクセルが俺を前にやる。琢磨。確かに上手い。クリアなブロックで俺の前をふさぐ。焦るな。夢のF1デビュー戦。と思っていたら。なんてこった。マシンから炎。リタイヤか。

『大丈夫か』

布袋さんからの無線に、『俺はな』と答え、マシンを降りる。


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