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走る者達。

Q2。コースイン。スタンドには、カバリーノランバンテ。真紅の羽馬、応援団。ピーコンは元気かな。ふと、お袋のことが頭を過ぎる。よいしょ。走ろうか。用意ドン。ホームストレートを俺は行く。1コーナー。いきなり、マシンがおかしい。ギアが入らない。フォースインディアに後ろから追突された。フィジケラだ。フィジケラは、マシンは降りては、俺のところにやって来る。彼は、俺の頭を殴り、帰って行った。俺もピットへととぼとぼと歩く。ああ、悪夢を見ているようだ。何か嫌な予感。ピットに帰る。

「ジョバンニ、布袋さん、すまん」

「おー哲夫、よくあることよ。レースあるから」

ジョバンニはコーヒを入れてくれた。Q2、敗退。布袋さんとクルマのバランス具合を語る。すると、リカルドがほくそ笑む。

「ディスイズレース。哲夫」

「サンキュー」

「哲夫君、コントロールタワーからお呼びだよ」

「げっマジで」

「そう。マジで」

 レーシングスーツを脱ぐ。タルキーニのシャツに着替える。俺、布袋さん、ジョバンニはコントロールタワーへと。叱られること、間違えなし。


スーツ姿の髭の男が俺に言う。

「ペナルティ」

 やっぱりな。これもレースか。抗議する、ジョバンニと布袋さん。無駄だよ。悪いのは俺なんだから。俺は目をこすり、水を飲む。布袋さんは言う。

「はい。タイム取り消し。明日は最後尾スタートだよ。哲夫君」

「はいはい。俺、ホテルへ帰るわ」

「そんな、焦らずにさ、モンツアを楽しめばいいじゃん」

「もう、結果が出たんだから、楽しめないよ。ぐっすり寝たい」

「はい。了解。哲夫君、フェラーリ、予選、Q3で、1,2だよ。ライコネンがトップでマッサが二位」

「あ、そう。気合い入れなおすわ」

「明日こそね」

「うん。明日こそ」


 ホテルの部屋。独りきり、ビールを飲み、携帯に手をやる。ダイヤル先はピーコン。

『もしもし。ピーコン。ごめんな。最後尾だよ。俺。フェラーリが、1,2。ピーコン、嬉しいだろ』

『いやはや、哲夫さんの心の整理が心配で。お母さん、テレビの前で、哲夫さんのことを応援してましたよ』

『そうか。藤本さん、どうしてる』

『はい。今、フォーミュラジャパンのテスト走行で岡山へ向かう新幹線の中です。モンツア、哲夫さんらしく、堂々と走ってくださいね。これもレースですよ』

『そだね。ピーコン、もう少し、肩の力、抜くわ。そうそう。ミハエルがピーコンによろしくってことだよ』

『こちらこそ、ミハエルによろしくお伝えくださいね。哲夫さん。フォルザ』

『サンキュー』


 解せない想いの中、シャワーを浴びる。最後尾かよ。俺は、せっかち。誰かを愛せ。か。ベッドに潜る。その時だった。部屋のチャイムが鳴る。誰だ。ドアを開ける。この男、佐藤琢磨。

「ちょっと、坂口君へ挨拶に。夜、遅く、ごめんね」

と琢磨さんは笑顔を絶やさない。俺は俺で、少し、緊張して、答える。

「ありがとうございます。俺も誰かと話したかったんで」

 語るのは、スーパーアグリとタルキーニのポテンシャル。HONDAエンジンはやはり、速く回るとのこと。シャシーもバランスが良いと。それから、話は、ドライバーの領域について。琢磨さんは言う。

「100パーセントで走っちゃいけないような気がするんだ。最近、僕はこう思ってきたよ。デビューした頃は、100パーセントで走るのが正しいと思ってた。そうこうするうちにアツくなって、エンジンを壊しちゃったり、クラッシュしたり。今は、7割の力でいいと思うんだ。レースは皆でやるものだし。メカニックもエンジニアも」

「なんか、それ、わかる気がします。100パーセントでやると暑苦しくなるような気がして」

「とりあえず、明日、お互い、頑張ろう。モンツアが終わったら、鈴鹿。堂々とF1ドライバーとして、帰れるね」

「そうですね。わざわざ、ありがとうございました」


 煙草に火を点ける。明日がデビュー戦か。子供の頃からの夢。鈴鹿に堂々と凱旋できる。着信あり。布袋さん。

『哲夫君。今、部屋か』

『そうだよ。布袋さん』

『まずいことになった。ジョバンニが交通事故に遭って、病院に運ばれた。哲夫君。今から、出れるか』

『わかった。今すぐ迎えに来てくれ』

『了解』

 ジョバンニ。何故だ。何故。こうなる。悲劇。エレベーターに乗る。フロントに布袋さんが曇った顔を見せ、俺に言う。

「信号無視のクルマにはねられたみたいだ。足をやられたらしい。畜生が。こんな時にかぎって」

「とりあえず、病院へ急ごう」

 闇夜を布袋さんと行く。ジョバンニ。無事でいてくれ。何故、こうなるんだ。

「リカルドやガブリエルは知ってるのか」

「いや、連絡は入れていない。リカルドやガブリエルは今、モンツアで明日用のクルマのセッティングとストラテジーのミーティングだ。明日、精神的に走れるか」

「俺は走れる。それは大丈夫だ」


 病院に到着。布袋さんの通訳の元、医師から説明を受ける。ジョバンニは、今、手術中。頭も打ったとのこと。喉が渇く。病院の待合室。俺達の表情は曇り、俺はレースとは何かと頭の中に疑問符を置いてみる。布袋さんは溜め息。

「哲夫君、少し、明日のために眠ったほうがいいよ」

「こんな時に眠れるかよ」


 時計の針は午前5時。手術は終わった。ジョバンニは両足切断。意識もない。なんてことだ。俺は白い壁を殴る。しかし、仕事。レースが待っている。布袋さんの肩を叩き、

「行こう。レースだ」

と、この重い現実を受け入れ、モンツアに向かった。走るとは、どういうことなのであろうか。クルマを仕事にしている俺達。ドリンクホルダーのスポーツドリンクに目をやるが、飲めない。タルキーニのピットにて、俺は、レース用のクルマを見る。スタンドに、多くの人々。布袋さんはリカルドに、ジョバンニの事故を伝える。頷くリカルド。

「哲夫君。フリー走行で、今のセッティング、試してみて。本当に大丈夫か」

「うるさいよ。布袋さん。俺はプロだ。大丈夫だよ」

「すまん」

「いいって。エンジンをかけてくれ」


 ヘルメットを身に着ける。エンジンがかかった。俺は行く。




 

 















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