メビウスの輪。神の声。走る走る俺達。~F1に賭けた男達、女達の生命賛歌~SUZUKA~
ホームストレートを行く。大雨降って、傘ささず。無線。えっ。どういうこと。布袋さんと違う声。
『哲夫』
『お前、誰だ。布袋さんはどうした』
『お前をこの世界で一番に憎んでいる男だ』
『どういうことだ』
逆ハン当てる。ヘアピン、滑る滑る。こいつ、誰だ。
『お前は、何を求めて走ってきたんだ。女か。金か。名誉か。地位か。答えろ。坂口哲夫』
『ただ、レースが好きなだけだ。F1が、俺のたったひとつの夢なんだ。それだけだ』
『哲夫。私はレースの神だ。お前の死を望む。消えろ、ナルシスト』
『レースの神よ。お前には関係ない。俺は走る。トップでチェッカーを受ける。お前こそ失せろ』
『哲夫君。哲夫君。僕だ、布袋だ。ラップタイムが2秒も落ちた。クルマに何かトラブルか』
『いや、俺の不注意だ。不注意。俺は今日、勝ちに行く』
踏めないところも踏むしかない。大雨を授かったもので。おまけに神の声か。笑っちまう。シケイン通過。ピットとスタンドを見る。なんじゃそれ。池内さんが二人いた。けっバカバカしい俺。幻覚幻聴かよ。俺は病んでなんかない。行くぞ。踏む。カーズ全開。1コーナー。ライコネンのインを上手くさせた。これでP3。あと2台。挑める男。タルキーニの親父の笑顔を見たい。ジョバンニのことが頭に過ぎった。これはフォーミュラ1.遊びじゃない。無線。
『トップ、フェルナンドアロンソ。2位、ハミルトン。無理するなよ。哲夫君』
『無理しないと勝てないんだよ。マクラーレンには』
『事故るなよ』
『もち』
走る俺達。マクラーレンを抜きに行く。待ってろ、最速マシン達。タルキーニと俺の腕。どこまでも果てしなく、行く。俺、詩人じゃないよ。ドライバーだ。F1ドライバーなもんで、俺。レースの神。ただ、俺は速く走りたいだけなんだ。踏んでいく。大雨注意。
『ハミルトンから、3、15遅れ。エンジン、テレメータリー、OK。問題なし』
『あいよ。俺、行くわ』
3、15か。まあ、マクラーレンったら、速いんだから。また、ヘアピン。俺は滑らない。三振しない。ハミルトンさんよ。さて、鈴鹿の伝言。日本人よ、勝ちにいけ。日本人よ、踏んでいけ。12345678。ギア順調。あっ、琢磨さんだ。悪いけど、周回遅れにさせてもらいます。一瞬、雨中の中で目が合った。琢磨さんは笑顔で俺に道を譲ってくれた。130R。全開。シケイン。何で、池内さんが二人もいるの。サイコロマートの謎。おふくろが俺を見ていた。親孝行。ピーコン。俺はここまで来た。夢を追って悔いなし。残り、18周。P3。行くべか。世界一、速い男、アロンソを追い抜くぞ。今日は勝てるぞ。よっしゃ。ハミルトンの背中が見えた。マクラーレン1、2か。このクルマ、無理しないと勝てないもので。雨のヘアピン、よっしゃ、130Rだ。アウトから、よし、ハミルトンを抜いたぞ。頑張れ、俺。頑張れ、坂口哲夫。あと、一人抜けば、リーダーだ。P1だ。たどり着いたら、いつも、土砂降り。ホームストレート。無線。
『哲夫君。P2。アロンソ、2秒ジャスト遅れ。冷静に』
『笑わせるんじゃないよ。了解。大事に行くわ。ありがとう、布袋さん』
1コーナー。おっと、回りそう。だけど、大丈夫。スタンドの日の丸。雨の中、俺を応援してくれる人がいる。俺は幸福者だ。あと一歩で勝てる。




